Yume Cloud Japanは、ストレス可視化技術の「マインドスケール」を、本格的に市場投入する。在宅勤務などの新たな働き方における社員のストレス管理に活用することを目指すという。
Yume Cloudは、2014年に、富士通出身の吉田大輔氏が米シリコンバレーで創業したスタートアップ企業で、2019年には山形大学との連携により、山形大学有機材料システム事業創出センターにおいて、日本法人のYume Cloud Japanを設立。山形大学大学院理工学研究科が、ストレス状態を数値化する独自アルゴリズムの開発を行い、感情表現エンジンの開発を支援してきた。また、経済産業省の「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」や、「山形県ものづくりベンチャー創出支援事業(EDGE-NEXT実践編)」にも採択されている。これらを通じて開発した感情表現エンジンの技術をもとに商用化を目指したのがマインドスケールとなる。
「マインドスケール」
Yume Cloudは3月に本社を米国から山形県に移転。2022年度からは山形大学アントレプレナーシップ開発センターと学術指導契約を結び、事業化に向けた取り組みを加速していた。
マインドスケールは、専用の脈波計とスマホアプリを使用。脈波計によって、交感神経と副交感神経を分析するとともに、独自のアルゴリズを活用し、人がスマホに表示された文章を朗読することによって、脳の疲労度を分析することができる。
また、質問票や問診によって、個人の「自覚」を分析することで、現在の心の状態と自覚との乖離を可視化することができる。
これらの情報はアプリ上に表示され、現在の状態や原因などを把握することが可能だ。
さらに、希望者には、カウンセラーによる改善方法の提案が行われ、ここでは、スマホを使用した表情分析によって、精度の高い心理状態の分析が可能となるという。
毎日の測定によりストレスを可視化
Yume Cloud Japanの吉田大輔社長は、「マインドスケールは、生体データの取得や質問票による自覚データの収集、メンタルに影響した要因の特定、ウェブ上のセルフサポート、カウンセリングを組み合わせて、これを安価なサービスとして提供するものになる。科学的な分析と、臨床心理士によるカウンセリングを組み合わせた点が特徴である」とし、「脈拍から自律神経のバランスを精度高く測定することができる。また、簡単な朗読をするだけで、脳の活性化がわかるようにしている。さらに、問診では6問の簡単な質問に答えるだけで分析ができる。必要な人には、2週間に1回程度のカウンセリングを行い、表情データを活用して心理状況も分析できる」とする。
また、「デジタル技術に加えて、生体データと問診、カウンセリングをシームレスにつなぎ、さまざまな見立てを活用することで、心の問題解決を支援できる。本人が『大丈夫だ』といっても、生体データからは弱っていることがわかり、これまでは見えなかったことが見えるようになり、心の問題に対しても、事前に手を打つことができる。可視化だけでなく、改善していくところにまで踏み込んでいるのが、ほかにはないマインドスケールの特徴だといえる」と述べた。
社員数が50人以上の企業では、厚生労働省が義務化している57問のストレスチェックを実施しており、日本全体で約2000万人が対象になっているという。だが、この仕組みだけでは不十分であるとの認識が企業の間では高まっている。とくに、在宅勤務の増加などにより、社員と対面で接する機会が減少している大手企業などでは、社員の健康管理や心のケアのためにストレスの可視化は重要なテーマになろうとしている。
企業の人事担当者が抱える課題
高ストレス者約200万人のうち産業医との面談はわずか10万人
また、吉田社長はストレスチェックを行ったあとの状況にも課題があると指摘する。「ストレスチェックを行った結果、高ストレス者に該当する人は全体の10%となる約200万人。だが、そのうち、産業医と面談しているのはわずか10万人であり、190万人にはなにも対応が行われていないのが実態である。また、高ストレス者とは判定されなくても、そのなかには高ストレス予備軍がおり、その人たちも放置されているのが現状である」と語る。
マインドスケールは、こうした課題の解決にも貢献できるものになると位置づける。「企業では、義務化されている57問のストレスチェックを年1回実施してもらい、これに加えて、マインドスケールを活用してストレスの可視化と、それに対応するケアを行ってもらうことができる。医師と面談するまでの流れをシームレスにつなぎ、日々の見守りをしていく。今後は、こうしたスキームが標準化されるだろう」と語る。
また、吉田社長は、「管理者目線ではなく、働く人の一人ひとりが、日常的なストレスケアのスキルを持つことが大切である」とも提案する。
研究開発の中心的役割を果たした山形大学大学院理工学研究科准教授の横山道央氏は、「ストレスの可視化に対するニーズは、コロナ禍によって、一気に高まり、データの蓄積も促進された。マインドスケールが、心の問題の解決に役に立つシステムになってきた。今後もデータの蓄積と分析により改良を重ね、さらに役立つものにしていきたい」とコメント。同じく山形大学大学院理工学研究科助教の原田知親氏は、「コロナ禍で、心を病んでしまうケースが増えているのが実態であり、マインドスケールのようなシステムに対する需要が高まっていることを感じる。改良を重ねていくことで、社会課題の解決に貢献したい」と述べた。
Yume Cloud Japanと山形大学では、マインドスケールの実証実験を繰り返しながらサービス構築を模索。山形県のかみのやま温泉などで行った実証実験では、地方におけるワーケーションを通じて、メンタル状態の改善に関する検証などを行なってきたという。
すでに大手企業を中心に、約20社が試験導入を行っており、約2000人が利用しているという。「まずは、経営層を対象に試験導入し、その後、社員に範囲を広げていくケースが多い。ワーケーション施設を運営する企業のサービスのひとつとして採用されることも想定している」という。
Yume Cloud Japan では、2022年度には、マインドスケールの利用者数で1万人を目指し、2023年度は5万人、2026年度には30万人を目指す計画を掲げている。
「想定以上に反響が大きく、垂直的にビジネスが立ち上がっている。BtoBだけでなく、BtoCにも入っていくことを想定しているほか、日本だけでなく世界中で活用できるものとして提案していきたい。今後も山形大学の支援を得ながら、営業活動を強化していきたい」(吉田社長)とした。
なお、Yume Cloud Japanは、これまでの3年間で政府支援により7000万円、投資で1億3000万円の合計2億円の資金調達を実現したのに加えて、2022年度には、1億5000万円の資金調達を行う予定であり、これにより、販売体制の確立などに取り組むという。
山形大学アントレプレナーシップ開発センター長教授の小野寺忠司氏は、「多くの関係者から関心が集まっている技術であり、感情表現エンジンも高い精度のものを完成させることができた。研究開発には、山形大学のさまざまな部署が関連しているほか、医学的アドバイスでは東北大学の川島隆太教授など、心理学的アドバイスやアルゴリズ研究では山形大学や福井大学、UX/UIでは東北芸術大学の支援を受けている。そして、事業化支援を山形大学アントレプレナーシップ開発センターが担うことになる。事業化に向けた取り組みを加速するとともに、さらなる研究も続けていく」とした。
7月7日に山形大学で谷行われた記者会見の様子。(左から)山形大学アントレプレナーシップ開発センター長の小野寺忠司教授、Yume Cloud Japanの吉田大輔社長、山形大学大学院理工学研究科の横山道央准教授、山形大学大学院理工学研究科の原田知親助教