ロシアによる「従業員殺害」「インフラ破壊」「サイバー攻撃」など戦渦のなか通信を維持するウクライナの通信事業社はどんな困難に見舞われているのか?

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2022年7月2日から4日にかけて、日本第2位の通信事業者であるKDDIが提供するauなどの回線で通信障害が発生し、多くの利用者が通話やデータ通信ができない状況になりました。一方ウクライナでは、同国最大の通信事業社・Kyivstarがロシアによる侵攻でさまざまな被害を受けつつも通信サービスを維持しており、その実情についてBloombergが報じています。

Keeping Phones Running in Wartime Pushes Kyivstar to the Limit – Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-07-04/keeping-phones-running-in-wartime-pushes-kyivstar-to-the-limit

KyivstarのCEOであるAlexander Komarov氏は取材に対し、ロシア当局が基地局の電源を切り、ハードウェアを強奪したため、同社のネットワークの約10%が機能していないと話しました。しかし、これはKyivstarが見舞われている困難の一部でしかありません。

Komarov氏は、スイスのルガーノで2022年7月4日から5日にかけて開催されたウクライナ復興会議でのビデオインタビューで、「ウクライナ侵攻が始まってからDDos攻撃が著しく増加し、フィッシング攻撃も急増しています」と話して、ロシアによる攻撃はハード面とソフト面の両面に及んでいることを明かしました。

約3700人いるKyivstarの従業員にも人的被害が発生しており、ロシアによる市民の虐殺が行われたことで知られているブチャではKyivstarの従業員1人が死亡したほか、1人が行方不明、1人がロシア軍に拘束されている状況です。また、ウクライナ防衛のために軍に徴兵されている従業員も100人以上いるとのこと。Komarov氏は「従業員の約10%が戦闘地域に近い危険な場所にいて、そこで重要な仕事をしています」と話しました。

by manhhai

伝えられるところによると、Kyivstarはロシア軍に占領された地域での業務を停止してオフィスを避難所として解放し、従業員の約4分の1を安全のため一時的に移動させているとのこと。そうした地域では何が起きているのかを把握できないため、Kyivstarが受けた損害を正確に算定することは不可能ですが、Komarov氏はオフィスや販売センター、基地局が破壊されたことを理由に、数十億フリヴニャ(数十億から数百億円)の損害が発生していると見積もっています。

こうした状況に対応するため、ウクライナの通信時業者は連帯感を高めており、かつてのライバル同士がサービス継続のために力を合わせているとのことです。

そんなKyivstarには複雑な背景があります。Kyivstarの親会社は1992年にモスクワに設立されたVEON(旧VimpelCom)で、同社はロシア初の携帯電話プロバイダーのうちの1つです。VEONはその後拠点をモスクワからオランダに移しましたが、本社移転後もロシアで第3位の携帯電話サービスブランドであるBeelineを展開しています。

Komarov氏は、親会社によるロシアでの事業とKyivstarは無関係だと話します。同氏によると、ロシア政府はKyivstarの役員2人を制裁の対象にしているとのこと。また、VEONはロシアの資産家であるミハイル・フリードマン氏が設立した投資会社・LetterOneが株式の47.9%を保有していますが、フリードマン氏はEUとイギリスによる制裁の対象となっており、戦争開始後にVEONの取締役を辞任しています。


戦争をきっかけにロシアとのつながりが薄くなりつつあるKyivstarですが、EUとの接近により中国との関係が新しい問題として浮上してきました。Kyivstarは通信機器ベンダーであるEricson・Nokia・ZTE・Huaweiの4社に依存しており、このうちZTEとHuaweiが中国企業です。EU加盟を目指すウクライナは6月に加盟候補国に承認されましたが、EUは通信事業など戦略的分野における投資先を制限しているため、特に西側諸国と折り合いが悪いHuaweiとの提携が今後課題になってきます。

「ウクライナとKyivstarは、中国のプレゼンスに起因する緊張をコントロールできるか」との質問に対し、Komarov氏はその問題は考慮されていると回答した上で、「ウクライナの未来は、EU加盟に向かって進む私たちの力と切っても切り離せない関係にあると確信しています」と話しました。

Komarov氏はまた、戦争の影響で先行きが不安定になっているためKyivstarの財務状況の詳細は公表しないとした上で、「私の見立てでは当面ウクライナからの配当を投資家に出すことはできないでしょう。全てのリソースは国内にとどまるべきです」と述べて、資本の国外流出を抑制する考えを示しました。

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