強いPCが一歩を踏み出させる。映像作家・西郡勲が語る、スペックとクリエイターの未来

GIZMODO

創作は何をやってもいい。そのすべてが糧になるから。

映像作家の西郡勲(にしごおり いさお)さんは、90年代初頭にコンピューターを使ったCG制作に取り組んだクリエイターの一人。数々のMVやCM映像を手掛け、有名なところではNHK大河ドラマ『平清盛』のオープニングCGを担当されました。直近では、TOKYO2020パラリンピック閉会式映像演出を手がけるなど、作家としてだけではなく、演出や監督業方面でも活躍されています。

そんな国内においての3DCG制作の第一人者である西郡勲さんが、インテルがローンチさせた新プロジェクト「インテル® Blue Carpet Project」に参加し、未来のコンテンツを作っていくクリエイターコミュニティ「インテル® Blue Carpet Club」のメンバーに選ばれました。

今回は西郡さんとインテルが対話を重ねるなかで、西郡さんの作品や制作スタイルを次の次元に昇華させるために必要なものはなにかと、現在の制作環境に対する課題をヒアリング。西郡さんの理想を叶える(あるいは超える)カスタマイズPCをマザーボードメーカーASRockの協力のもと、組み立てることになりました。まだまだ3DCGソフトやPCのノウハウが少なかった時代から制作を続けてきた西郡さんだからこそ、PCに対する思いもひとしおのはず

どんな観点からPCを組み上げたのか、そして「Blue Carpet Project」にはどんな思いがあるのか。西郡さんに伺います。

西郡勲(にしごおり いさお)さん

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映像作家。CGを軸にCM,MVの他、特殊大型映像、プロジェクションマッピング、全天周映像(プラネタリウム)などの演出と自らCGを手掛ける。 近年では映像を使ったコンサートの演出、映像を使った公園のイルミネーションのデザイン、ウォータースクリーンとボートを使った演出など、ディスプレイの四角い枠を超え、音楽と映像を駆使し大小様々な空間への演出を得意とする。

公式サイト:SMALT

寄り道することで磨かれるものが、必ずある

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──西郡さんのWikipediaを見てみると、「95′ MTV Station-ID コンテスト」のグランプリ受賞をきかっけにMTV JAPANに入社したとあります。1995年、すなわち平成7年といえば、まだまだCGの黎明期だったと思います。

※初代『トイ・ストーリー』が米国で公開されたのが1995年

西郡勲さん(以下、西郡):初めてCG制作に触れたのは、1991年とかそれくらいだったと思います。当時「Amiga(アミーガ)」というコンピューターがあって、これを使ってCG制作をはじめました。で、Amigaは当時としては珍しくビデオ出力ができたんです。ちょうどその頃に友達のライブに行ったら、音楽に合わせて映像を流してる人がいて。

──今で言うVJですね。

西郡:当時はVJなんて言葉もなかったけど、その映像がすごく刺激的で。その人に聞いたところ、流している映像はAmigaで作ったらしく。で、自分もそういうのつくってみようかなと思ったのがきっかけですね。

──Amigaとライブの出会いが、西郡さんのキャリアの起源だったのですね。

西郡:僕は音楽が大好きで、音楽と映像がリアルな空間に混ざり合う様子がすっごく好きなんですよ

──西郡さんは先日開催された「インテル® Blue Carpet Fes 2022 Spring」のオープニングエキシビションも手掛けていらっしゃいましたが、あの作品も音楽と映像のリンクがあったので、なにか通ずるものを感じました。

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西郡:僕自身も紆余曲折した時期はあったんですけど、10年ほど前に「やっぱり自分はコレだな」と思って。映像と音楽、今も昔もこれが大好きですね。

──1991年にAmigaを触りはじめた当初は、マニュアルのようなものは…。

西郡:ありましたが全部英語でしたね。なので見つけたマニュアルを辞書を引きながら一生懸命解読していって(笑)。知る人ぞ知る「DELUXE PAINT」というソフトがAmigaにはあって、これは描いたイラストが回転したりカラーサイクルしたりするんですよ。これでVJ素材を作って音楽に乗せて動かしたりしてましたね。

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──すごくインディーズ感がある時代ですね。

西郡:Amigaで編集するにはVHSデッキに繋がなきゃいけない。だから近所のレンタルビデオ屋に行ってデッキを借りて、色んなものをガチャガチャ繋いだりしてましたね。それを思うと、現代はすごくスマートになったなぁと。

──映像作家として活動するかたわらで、演出や監督といった方面でも西郡さんは活躍されています。そこの立場や意識の違いなど、なにか考えている部分はありますか?

西郡モノを作る目的が変化してきたんですよね。たとえば広告やMVは、商品をアピールするためにどんなクリエイティブができるかを考える。一方で、見た人が楽しめることを目的としたクリエイティブもある。一時期、そこの違いについてよく考えましたね。僕自身は後者のほうが好きですけど、目的によってクリエイティブの意識は変わります。

──クライアントワークとアート制作の違いなのかなと感じました。そこは意識のスイッチが重要になりそうですね。

西郡:スイッチも大事ですが、あえてクロスオーバーさせることもできると思います。どっちかに偏るのも良いけれど、両極端なことをクロスオーバーさせた真ん中にこそ何か面白いものがあるんじゃないかと僕はずっと思っていて。20歳くらいの頃、アメリカのMTVに行った時に「キミの作品を見てるとビジネスとアートのちぐはぐしたところが垣間見えるね」って、向こうの偉い人に言われたことがあるんですよ。

──まさに両極端の真ん中の部分!

西郡:それはまさに僕がやろうと思っていることですし、「やっぱり偉い人は見抜くんだなぁ」とも思いましたね(笑)。

──クリエイティブって、作り手の我が強いものもあれば、我を全く出さないモノもあるじゃないですか。いろいろな作品を見る立場の人であれば、その違いを敏感に感じ取れるのかもしれませんね。

西郡:僕が狙ってるのはそこですね、まさしく。制作だけでなく演出の場合においても今話したことがベースになっていますが、そうですね…。この歳になって思うのは、素直にやるのが本当に大切だなってことかな。

──素直さ、ですか。

西郡:もちろん深く考え込むことも重要なんですけど、考え抜いた最後の最後は素直になることが、一番大事だなと思うようになりました。たとえば何か課題があったとして、課題を見た瞬間に閃くものがある。でもこの閃きは深く考えてないから消えちゃうんですよ。で、さぁ課題をやるぞとじっくり考え抜く。その最後の最後にたどり着くのは、最初に閃いたアイデアだったりするんですよね。

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──直感的に閃いたアイデアを検証するための、必要な工程ですよね。あらゆるクリエイティブにおいてのあるあるです。

西郡:そのアイデアって、最初に閃いた段階ではまだ赤ちゃんなんですよ。それが考えを重ねて成長を経るうちに大人になるような感覚です。人間だってそうですよね、若いうちはやりたいことがあったり、いろんな寄り道をしてみたり。でも、最後の最後は自分がやりたかったことに戻るのも人間だと思います。僕の場合はそうだったし、アイデアやお仕事もそういうことなんじゃないかな。最後は素直になることが共通して重要だなと思うようになりました

──一方で、最初に思いついたアイデアがシンプルなものであった場合、じっくり考えた複雑なものに対して不安になったりしませんか?

西郡:それはありますね。でも、考えに考えを重ねた上での素直さ、シンプルさなので、自分でも自信はあるんですよ。「これも違う、あれも違う、やっぱりアレかな…」となるのは、いろんなものを見てきた結果なんですよね。僕なりの格言で「努力するとチャンスが見えるようになる」というのがあって、努力を重ねると見えないものが見えてきたりするんです。いろいろ試してきた上での「素直」なので、シンプルであっても「これが良い!」という気持ちで提出しますね。

──その感覚は、若いうちは至れないものですよね、どうしても。

西郡:ですね(笑)。でもたまに、そういう瞬発力を持ってる人もいますね。僕はそれができなくて、紆余曲折時間をかけて今のスタイルになりました。なので寄り道は大事ですし、そこを経ることで最後の「これで良かったんだっけ?」という後悔がなくなると思います。

強いPCは、好奇心の第一歩を押してくれる

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組み立てを担当したASRockの原口有司さんと西郡さん

──映像の制作においては、どんなアプリケーションを使っていますか?

西郡:基本はCinema 4Dで、素材制作にAdobe PhotoshopやIllustratorを使って、After Effectsでまとめていくって流れです。

──映像を素材にすることはあまりないですか?

西郡:昔は動画を撮ることもやってましたけど、今はいろんな素材集があるので、それを加工したりしてやりくりしていますね。Adobe Stockなども使いますが、そこで作るのはプレゼンレベルまでかな。

最近はBlenderとUnreal Engine 5にも手を出してみようかなと考えていて。Unreal Engine 4はいじってるんですけど、BlenderもUnreal Engine 5も需要が高まってきてると思うんですよね。

──制作の際にインスピレーションとなっているものなどはありますか?

西郡:そうですね…グラフィックを集めてるサイトを見てます。毎日新しいものが更新されてるので、それをチェックするのが刺激になってます。

あと映画やドラマは見ますね。流し見するものもあれば、ガッツリ見るぞって決めてるものもあります。『ストレンジャー・シングス』とかはガッツリ見たい! あと作業するときは、何度も見た映画をずっと再生してますね。

──作業用BGVってやつですよね。僕も20周じゃきかないほど、垂れ流してる作品とかあります。『水曜どうでしょう』とか…。

西郡:『水曜どうでしょう』は僕もずっと見てます(笑)。あの感覚はなんなんでしょうね、不思議と効率が良くなるというかすすむというか。やっぱり大泉さんの声のリズムとかテンポ感が良いのかなぁ。

──間違いなくあると思います。音楽にしろ映像にしろイラストにしろ、製作時に『水どう』見てる勢は、今頃うなずきまくってるはずですッ。

西郡:僕は西表島の回が一番好きです(笑)。

プラネタリウムの解像性能はすごい!

西郡勲さんのカスタマイズPC

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CPU:Intel Core i9-12900K

GPU:NVIDIA RTXA6000

Motherboard:ASRock Z690 Taichi

CPUクーラー:iCUE H150i ELITE LCD

Storage:SSD 12TB

RAM:DDR5 128GB

<撮影用機材協力>

モニター:EIZO ColorEdge CS2740

【組み立てを担当したASRockの原口さんからのコメント】

ASRock:クリエイターが使用されるというお話だったので、それを念頭に選定しました。また制作だけでなく普段使いもされることを考え、冷却性能と静音性を兼ねそなえつつ、性能はフルスペックを出せる設計を意識しました。

──現状の西郡さんのPC環境で、制作において悩みになっていることなどはありますか?

西郡:最近はPCもソフトもよく出来てるし、やれることもプラグインもすごく潤沢になってきましたよね。ただ、納品先に渡すデータもどんどん巨大になっていってるんですよ

昔はSD画質で良かったのがより綺麗なHD画質が求められるようになって、データサイズやレンダリングが厳しいなーと思ってたら今やHDなんて当たり前な時代ですよね。で、今はHDの書き出しなんて余裕じゃんと思ってたら、今度は4Kが登場して。まーた大きくなった!

──なんなら8K、12Kもチラチラ見えてます。

西郡:その追いかけっこですよね。僕は比較的大きめの映像ばかりやってるので、もうとんでもないサイズですよ。現状でもレンダリング専用のマシンもあるし、とはいえレンダーサーバーに出すと価格も高いですから。ここは悩みといえば悩みですね。

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組み立てを担当したASRockの原口有司さん。”原口ニキ”としてASRockのYouTubeやイベントでも活躍されている。

──では今回PCを組み上げてもらうにあたっては、そのあたりの改善を要望として出したのでしょうか?

西郡:まずは自分の環境をお伝えして、それに対してこんなスペックがありますよと教えていただいて、じゃあそれでお願いしますという相談の上で決めました。さっき改めて詳しいスペックを聞いたんですけど、もう最強のマシンに仕上がってましたね

──スペックでもっとも重視した点はどこになりますか?

西郡:一番はCPUの速さです。その次はGPU。でもスペックを見るとそこだけじゃなくて、メモリのクロック数なんかもとんでもないことになってました。3DソフトってGPUレンダリングもできるけどCPUレンダリングにしたほうが良い場面もあるので、どちらも重要だと感じています。

──今回インテルと協議しながら組み上げた、西郡さん専用のカスタマイズPCに期待することは?

西郡大きい映像が少しでも作りやすくなることですね。ひとつ実験したいことがあって、僕はプラネタリウムのお仕事をやることが多いんですけど、最近のプラネタリウムの解像度ってすごいんですよ。僕が知っているものは、4096×4096を縦横4×4、16個並べてます。

──ってことは約16000×16000の解像度!? (※4Kの解像度は4000×2000前後)

西郡:ですね。もうとんでもないサイズなので、そうした映像を依頼されたとしても無理なんですよ(笑)。しかもそれで60fpsって言われる。で、そこを30fpsに妥協してもらったとしても、4096×4096を16枚というのは譲らないとも言われたことがあって。でも僕も、プラネタリウムのポテンシャルがすごいってことはよく知ってるので、ちゃんと作りたいなとは思ってるんです。なので誰からも頼まれてはないけれど、プラネタリウムに映し出せるような作品は作っておこうかなーと。今回のPCなら、その制作ができるんじゃないかなと期待しています。

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──4096×4096が16枚の映像作りですか。おそろしや…。

西郡:今の僕の環境では、何をするにも動かないですよ(笑)。プラネタリウムって裸眼で見える立体視のようなもので、たとえば天井に投影された月が自分のほうに迫ってくる感覚とか、あるいは見えてる星そのものをつかめそうな感覚とかがあるんですよ。今年3月にオープンした「コニカミノルタプラネタリアYOKOHAMA」なんて、LEDドームですからね。

──え、ドームそのものがLEDディスプレイなんですか!?

西郡:そうそう、もう全部がくっきり見える。そういったすごい解像度が求められる場所でも流せる作品を作ってみたいですね。プラネタリウムって行ってみると感動しますよ。映像のポテンシャルも凄まじいですし、あの仕組みは他にもいろいろやったほうが良いんじゃないかなぁ。

──これほどの超解像度であれば、制作するPCもハイスペックじゃないと無理ですよね。西郡さんとしては、PCの性能が高まることでクリエイターはどんなメリットを享受できると思いますか?

西郡:「あれをやってみよう」っていう、その一歩が踏み出せるようになると思いますね。何かやってみたい、作ってみたいと思ったものに、手が届くようになる。たとえば「これをしてみたいけど、時間がかかりすぎるし…」と思っていたやり方も、PCの性能が高ければ試せるようになるし、重い作業も簡単になってきます。

PCを道具として見るなら、やっぱり良い道具を使ったほうが気持ちよく筆が走りますから

クリエイターにとって、道筋多き未来

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──新たにスタートした「Blue Carpet Project」は、クリエイターにどんな影響をもたらすと思いますか?

西郡:最初にも話した紆余曲折するという部分に戻るんですけど、クリエイターを紆余曲折させてくれるのが良いですよね。いろんなことができるからやってみようと思えるし、そのプロセスは良い結果のためには決して無駄にはなりませんから。

──最後に、今後Blue Carpet Projectでこんなことができたら嬉しいなというような希望などはありますか?

西郡:希望かぁ…。ちょっとお門違いな話になるかもしれないんですけど、映像の世界って今は過渡期にあると思うんです。ビデオグラファーがいたり、CGクリエイターがいたり。僕も自分なりに考えてる部分はあって、やっぱり特殊な映像制作に特化しようかなとか。後から来る若い人たちがいろんな将来を目指せるように流行りとは違う道を開拓したいなとも思いますし、一緒にやっていきたいなとも思ってます。あくまで僕の考えですけど、だいたいの映像編集は、遠からずAI任せになっちゃうと思うんですよね。

──すでにAI動画編集ソフトのようなものはありますね。アクションカムで撮った映像をすぐに編集してくれるような。

西郡:もちろんAIにも良し悪しはあります。でも、AIにはできなさそうなオートクチュール的な道もあるんじゃないかな…と。少なくとも今僕がやってることは、情報ではなく人がどう感じるかの世界だと思っています。言葉にならない世界、それがきっとあるはずなので

──それこそが人が創作をする理由であり、人の創作に震える所以ですよね。とはいえ、そのサポートをお願いするのは…。

西郡:難しすぎるよね(笑)。でも、クリエイターを増やしたりクリエイターの道筋を作ることは、文化としてとても大切だと思います。それはプロだけじゃなく学生であっても同じで、何かを作りあげた時に得るものがあるはずだし、これからの世代の人たちには突拍子もないことを言ってほしいですね。そうやってできたものを僕が見て「もう無理かな」と思う時も来るかもしれない(笑)。でも、70歳までは現役でいるつもりですよ!


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Amigaからプラネタリウム、そしてクリエイターの未来(とご自身の引退時期?)まで。西郡さんにはなんとも幅広い視野でお話していただきました。「Blue Carpet Club」で提供された最強のPCから、一体どんな作品が生まれるのか。インテルとクリエイターのタッグがおくる、未知なるクリエイティブに思いを馳せようではありませんか。

Source: Intel

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