ウクライナ戦争で大量撃破の憂き目にあった「戦車」に未来はあるのか?

GIGAZINE


by manhhai

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナ軍に撃破されたり燃料不足で立ち往生したりしたロシアの戦車の画像や映像が大量にインターネットにアップロードされました。アメリカがウクライナに供与した対戦車ミサイル「ジャベリン」に手も足も出ないロシアの戦車について、財務省が自衛隊に対して「戦車や機動戦闘車と比較して、ジャベリンは安価な装備品」と指摘するなど、戦車の在り方を見直す議論もある中で、イギリスの週刊誌・The Economistがなぜロシアの戦車が大敗を喫したのかや今後の戦車について論じています。

Does the tank have a future? | The Economist
https://www.economist.com/interactive/international/2022/06/15/does-the-tank-have-a-future

The Economistはまず、戦車の構造から説明しています。それによると、ロシアの戦車の前面には「glacis(斜堤)」と呼ばれる装甲があり、ミサイルをそらしやすいので、正面からの攻撃には非常に強いとのこと。


一方、側面の装甲は弱くなっています。これは多くの戦車にとっても同様ですが、旧ソ連の設計の戦車は特に側面の防御力が低いそうです。


さらに、最も弱いのが砲塔の部分です。


そのため、glacisに命中する旧式の対戦車ロケット弾には強いものの……


150mの高さから急降下して砲塔を狙うジャベリンに対しては十分な防御力を発揮できません。


また、弾薬や乗員が防爆扉で保護されていないので、ミサイルが装甲を貫通すると弾薬が爆発する可能性が高くなります。このような設計になっているのは、「ヨーロッパの平原を大規模かつ迅速に走り抜ける」「核兵器で一網打尽にならないよう戦車同士を分散させる」という想定の下で、軽量かつ機動性に優れていて大量生産できる小型の戦車が求められたからとのこと。


ロシアのT-72は、砲塔に弾薬を供給する自動装てん装置を採用したことで3人で運用可能になっており、車体もコンパクトです。そのおかげで遠くから発見されにくいという特長を持ち、イラク戦争ではイギリスで設計された戦車に対して好成績を収めています。


しかし、欠点もあります。アメリカのM1A1はT-72より一回り大きく乗員も4人ですが、分厚い防爆扉で弾薬を守っています。このように、弾薬と乗員が一緒という設計上の欠点により、ロシアの戦車はウクライナで壊滅的な打撃を受けました。しかし、ロシアの戦車がウクライナで大量に撃破された原因は、戦車自体の問題だけではありません。


調べによると、ロシアはウクライナに侵攻して以来、少なくとも774両の戦車を失っており、そのうち半分は撃破され、3分の1はウクライナにろ獲され、残りは破棄されているとのこと。これは、ロシアが戦前に保有していた戦車約3000台のうち約4分の1が失われたことを意味しています。

ロシアの戦車や装甲車がこれほど多く撃破されているのは、主に2つの兵器が関連しています。1つ目は、ジャベリンのような対戦車誘導弾です。特に、ワイヤーで誘導されていた初期の対戦車ミサイルとは異なり、アメリカのジャベリンやイギリスとスウェーデンが合同で開発したNLAWなどは、発射前にロックオンすれば人間の操作なしで自動的に標的を追尾する「ファイア・アンド・フォーゲット」というタイプのものなので、撃った後の兵士はすぐに逃げたり場所を変えたりできます。また、NLAWなどの対戦車ミサイルは前述の通り、戦車の弱点である砲塔を狙う「トップアタック」も可能です。

by Ron Frazier

そして、2つ目の脅威は武装ドローンです。ウクライナでは、セスナ機より小型のサイズのトルコ製無人戦闘航空機であるバイラクタルTB2が活躍しているとのこと。また、ウクライナは普通のドローンにソ連時代の対戦車手りゅう弾をくくりつけた自爆ドローンから、アメリカ製の高度な攻撃ドローンであるスイッチブレードなどの徘徊(はいかい)型兵器も活用しています。

このようなドローンがウクライナ上空を飛び回ることができるのは、ロシアが開戦直後にウクライナの防空網を排除できなかったことで、ロシアの戦闘機が上空をパトロールできなくなったのが関係しているとのこと。また、現代の軍隊は戦車や戦闘機、歩兵などさまざまな要素がお互いの弱点を補い合う「諸兵科連合」という概念を重んじていますが、ウクライナ戦争では防空手段を持たずに戦場をさまようロシアの部隊や、偵察隊から孤立した戦車部隊が多く見られました。

このことからThe Economistは「ロシアがこれほどまでにお粗末な使い方をしていることを考えると、戦果だけで戦車の訃報を書くのは間違いでしょう」とコメント。また、最新鋭の戦車にはドローンの母艦としての機能を持つものが増えてきたことなどを指摘した上で、「戦車は滅びるのではなく、進化するのです」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました