グループが互いに協力して何かを成し遂げるにはどんなコミュニケーションが有効なのか?

GIGAZINE
2022年06月02日 06時00分
メモ



世の中には「複数人が協調した方がメリットが大きい場面」が数多く存在し、過去の研究でも集団行動が汚染や廃棄物の削減乱獲の抑制科学者間のデータ共有などに役立つことがわかっています。ところが、集団行動には「最初に行動する人が損をする可能性がある」というジレンマが存在するため、なかなかうまく集団行動ができないことも多々あります。そこで、ロンドン大学クイーン・メアリー校やグリニッジ大学、ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネス・スクールなどの研究チームは、「人々に集団行動を呼びかける最適なコミュニケーションは何なのか?」という疑問について研究しました。

Verbal interaction in a social dilemma – Zoë Adams, Agata Ludwiczak, Devyani Sharma, Magda Osman, 2022
https://doi.org/10.1177/10434631221094555

How to express yourself if you want others to cooperate with you – new research
https://theconversation.com/how-to-express-yourself-if-you-want-others-to-cooperate-with-you-new-research-182705

経済学の分野において、集団行動の決定に関する研究は「囚人のジレンマ」や「公共財ゲーム」といった実験を通して行われることがあります。「いくらかの資金を持ったメンバーが『公共ポット』にいくらお金を投じるかを決定する」という公共財ゲームでは、公共ポットに投じられた資金は利息が付いて各メンバーに分配されるため、全員が協調して資金を全額投じれば最大のメリットが得られる仕組みです。しかし、資金を公共ポットに投じなかったメンバーにも公共ポットの資金は平等に分配されるため、メンバーのうち誰かが「資金を公共ポットに投じずに、分配金だけ受け取ろう」と考える可能性があります。

具体的な公共財ゲームの事例は以下の通り。

1:まず、全メンバー(5人)に1000円ずつ分配する。
2:公共ポットにいくら投じるのかを決定する。
3:公共ポットに投じられた資金は「1.5倍」になるとする場合、5人全員が公共ポットに資金を投じると公共ポットの資金総額は「1000×5×1.5=7500円」となる。1人だけ公共ポットに資金を投じなかった場合、「1000×(5-1)×1.5=6000円」となる。
4:公共ポットの資金がメンバー全員に分配される。5人全員が公共ポットに資金を投じた場合、1人あたりの取り分は「7500÷5=1500円」となる。1人だけ公共ポットに資金を投じなかった場合、資金を投じたメンバーの取り分は「6000円÷5=1200円」となるが、資金を投じなかったメンバーの所持金は「1000円+(6000円÷5)=2200円」となるため、資金を投じなかったメンバーが最も得をする。

研究チームは、これらのゲームにおける興味深い側面は「グループの各メンバーが不確実性にさらされていること」だと指摘。もし、各メンバーが協力し合って最大のメリットを得たいと考えていても、他の人が自分と同じ考えなのかわからない場合、資金を公共ポットに投じることは利他的な要素が含まれます。


人々の選択はグループ内の社会的地位や失っても構わない資産の量に左右されますが、この種の決定をする際には「メンバー同士のコミュニケーション」が伴うことがほとんどです。そのため、コミュニケーションにおいて自分の意思を示し、他のメンバーを説得することが公共財ゲームのメリットを最大限にするのに役立つと考えられますが、ここでも「話していることが本当かどうかはわからず、利他的な言動で自分をよく見せたいだけかもしれない」などの不確実性があると研究チームは指摘。

そこで研究チームは、複数の条件で公共財ゲームを行って、メンバー間のコミュニケーションが決定に与える影響を調べました。まず、研究チームは90人の被験者を5人ずつのチームに分割して、「メンバーが公共ポットに投じる金額を宣言するグループ(宣言した金額は実際に投じた金額と違っても構わない)」「メンバーが実際に公共ポットに投じた金額が明かされるグループ」「メンバーが公共ポットに投じた金額が明かされないグループ」のいずれかの条件に割り当てました。

第1ラウンドでは、メンバーはタスクによって獲得した資金を公共ポットにいくら投じるのかを決め、お互いのコミュニケーションがないまま公共ポットの資金分配が行われます。そして、上記の3つの条件に応じた情報開示が行われた後で、グループメンバーがオンラインチャットで自分の意見やグループとしての方針を話し合う機会が与えられました。つまり、どのメンバーがいくら公共ポットに投じたのか、あるいは投じると宣言したのかといった情報を基に話し合いができるチームと、情報なしで話し合いを行うチームがあったというわけです。

オンラインチャットでの話し合いが行われた後、同じ公共財ゲームの第2ラウンドが行われました。その結果、「メンバーが公共ポットに投じる金額を宣言するグループ」と「メンバーが実際に公共ポットに投じた金額が明かされるグループ」は、「メンバーが公共ポットに投じた金額が明かされないグループ」よりも協調し、公共ポットにより多くの資金が投じられる可能性がはるかに高かったことが判明。研究チームは、自分の宣言や行動がグループメンバーに開示されるという状況が行動に変化を及ぼしたと主張しています。

また、話し合いの場で「次はもっと公共ポットに寄付します」「他のメンバーがやるなら」といった曖昧な言葉ではなく、はっきりと具体的に公共ポットに資金を投じることを明言するメンバーがいると、その他のメンバーが協力しやすいことも示唆されました。これは、曖昧な言葉がグループ内の不信感を増し、義務感を薄れさせることが原因ではないかと考えられています。加えて、他のメンバーに対して具体的に公共ポットに資金を投じるかどうか尋ねることも、集団行動を強化する重要な要因だったそうです。


研究チームは、連帯感と権威を示すような話し方をすることで、グループの集団的アイデンティティが強化され、協力する規範が確立されると指摘。集団行動を促進するにはユーモアや温かみのある表現が有効であり、フォーマルで利己的なコミュニケーションが行われたグループでは、より協力的でないこともわかったそうです。「要するに、積極的な発言を通じて強力なリーダーシップを発揮し、モチベーションを高めるようなフレーズで励まし、人々に『自分はグループの一員だ』と感じさせることは、他の人に協力してもらうための重要な一歩です」と研究チームは述べました。

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