次の「大手メディアオーナー」を目指す ゲームパブリッシャー たち:「唯一無二のブランド体験を提供できる」

DIGIDAY

ゲーム市場が前例のない変化を遂げつつある最新の兆しは、ゲームパブリッシャーが独自の広告ビジネスを構築中であることだ。

実際、そうした企業が主導するアップフロントスタイルのイベントが、業界の定番になるまでにはそれほど長い時間はかからないだろう、とペプシコ (PepsiCo)でeスポーツおよびゲーム担当責任者を務めるポール・マスカリ氏は語る。マスカリ氏は核心を突いているかもしれない。同氏は、大半のマーケター以上に、広告費がゲームデベロッパーにとってこれまでになく魅力的になりつつあることを最前線で見てきたのだ。

「過去数年間、ゲーム内広告をめぐりある程度の不安があった。ひとりのゲーマーとして、60ドル(約7600円)のゲームを購入して、プレイ中にプレロール広告やミッドロール広告などの煩わしい広告を見せられたら、おそらくうれしくないだろう。だから、ゲームパブリッシャーは、ゲームを守ろうとしてきた」と、マスカリ氏は4月20日に開催されたDIGIDAY Gaming Advertising Forumで話している。

「収益源の多様化」というトレンド

だが、時代は変わる。近年、ゲームパブリッシャーはほかのメディアオーナーと同様に、単一の収益源に頼りたくないと考えている。何億人もの人々に定期的に楽しんでもらえるようなゲームを、さまざまなデバイスに対応し、より低いエントリープライスで開発したいのであれば、なおさらだ。それに、開発をめぐる資本面のリスクと膨れあがるユーザー獲得費用を相殺するのに、広告より優れた方法はほとんどない。

奇妙に聞こえるかもしれないが、これは必ずしも意外なことではない。多様な事業モデルと段階的な料金は、ゲーム業界が、映画業界や音楽業界よりも経済的にはるかに巨大になった主な理由のひとつだ。広告はゲームパブリッシャーにとってもうひとつの経常的な収益源であり、ゲーマーに対して自分たちにもう少し多くお金を払ってくれるよう求めなくてもいいことを意味する。

これは何も目新しい話ではない。ゲームデベロッパーは長年ゲーム内広告に取り組んできたが、それはいつも「例外」であり、通例ではなかった。ひとつには、ゲームデベロッパーが広告には価値があると確信できるような需要が広告主からなかったからだ。確かに、最新バージョンの「FIFA」や「マッデンNFL(Madden NFL)」にブランドを挟み込むために列をなすマーケターはいたが、それでもゲームへの関心は、今ほど広がっていなかった。ゲーマーが以前に考えられていたほど、ゲームをプレイ中や視聴中に広告が表示されるのを嫌がらないのが明らかになってからは、特にそうだ。

「人々が没頭してすっかり夢中になる3時間のブランド体験を構築するのは、15秒間のテレビCMとはまったく異なる」と、チポトレ(Chipotle)のブランドマーケティング担当バイスプレジデント、ステファニー・パーデュー氏は、Gaming Advertising Forumでの講演中に語った。そして、初期ではあるが急成長していた、没入感のあるゲーム内体験を含むゲームへの投資に道を開いたと、同氏は続けた。これには、大人気のロブロックス(Roblox)の体験や、カール・ジェイコブス氏のようなストリーマーやインフルエンサーとのよりターゲットを絞った提携などが含まれる。

「それをメディアチャネルや、オーダーメイドの独自コンテンツを作成する手段と考えると、プラットフォームによっては、唯一無二のブランド体験をさらに推し進められると思う」とパーデュー氏は指摘した。

これまでに類をみない「媒体」の出現

だが、そうした体験の推進は容易ではない。ゲームはマーケターが広告を掲載するほかの媒体とは異なる。IAB(インタラクティブ広告協議会)とメディア・レイティング・カウンシル(MRC)が最新の測定基準を発表しようとしているものの、常に変化する3Dのバーチャル環境内に広告を表示するということは、その測定が類を見ないほど難しいことも意味する。

市場はますます細分化され、本質的なゲーム内広告や、具体化が進んだメタバース体験、インフルエンサーとの提携は、ブランドがゲームコミュニティにリーチできる多様な手段のごく一部でしかない。それに、ゲーマーは、多くのマーケターが思うよりも、ブランドの関与を受け入れているが、許容可能なゲーム内広告と、ゲームプレイ体験を歪める広告とのあいだには、まだ微妙な境界線がある。

「『フォルツァ(Forza)』シリーズのような実在する車両が登場するレーシングシミュレーションゲームに広告を表示する時には、体験に根付いた広告となり、リアリズムを高めるのはほぼ間違いない。それと比べて、西部劇の世界でアクションを繰り広げる『レッド・デッド・リデンプション2(Red Dead Redemption 2)』をプレイしていて、ミッドロール広告に銃器メーカーのスミス&ウェッソン(Smith & Wesson)が登場したらどうか、といった点で大きな違いがある」と、ニュー・ヘブン大学でスポーツマネージメントの准教授とeスポーツ担当エグゼクティブディレクターを務めるジェイソン・チョン氏は語る。

それでも、マーケターが点を結んで全体像を作り上げる手助けをする企業も、出現しつつある。フレームプレイ(Frameplay)やビッドストック(Bidstack)、アンズ(Anzu)のようなアドエクスチェンジは、無料でプレイできるゲーム内に大規模なインベントリ(在庫)を構築し、機会についてブランドに情報を提供したり、掲載する広告を測定する新しいツールや指標を開発するといった措置を講じてきた。エージェンシーも参入し、ゲームとeスポーツに関する知識を社内に持ち込み、ゲーム開発者とそのインベントリーを波長が合うブランドに結びつける手助けをよりうまくやりつつある。最大手のエージェンシーはまだ、ゲーム広告分野でうまくやっていく方法を学習中だ。だが、ダイレクトインテグレーションやキュレートされたマーケットプレイスを通じてこうした関係を強化できるエージェンシーは、インプレッションの配信をよりコントロールできるため、顧客の売上の増加を実現することが容易になる。

大手ゲーム開発者がメディアオーナーとしての地位を確立しようと競い合うなかで、中小の独立系パブリッシャーは、業界のこうしたシフトで最も苦しむかもしれない。

上手くいくかは不透明

「率直にいうと、マイクロソフト(Microsoft)やソニー以外の多くのゲームパブリッシャーは、収益源に直接的に割り込まれるので、不満を抱くだろう。バスケットボールゲームの『NBA 2K』をプレイしたら、開発者のテイクツー・インタラクティブ(Take-Two Interactive)が、広告業界を赤面させるのに十分なくらい広告を投入しているのは、まず間違いないと思うので、ゲームパブリッシャーの幸運を祈っている」とチョン氏は話す。

ゲームデベロッパーには、選択肢がないのかもしれない。マイクロソフトのゲーム内広告事業は何年も前から準備が進められてきたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に文化や経済が変化し、ゲームが大衆文化の柱になった。開発者はこうした変化に急いで適応しようとしているので、ゲーマーは、誇大広告が収まる前にゲーム内広告の急増に直面する可能性がある。

「レイヤーを追加しすぎれば、最終的に、タバコ企業や洗濯洗剤企業が番組全体のスポンサーだったテレビの初期のようになるだろう。人々はそれに反発し、『こんなふうに利用されたくはない』と言った。だから、今のような広告システムに移行したのだ」とチョン氏は語った。

[原文:Game developers are angling to become the next big media owners — and brands are taking notice

Alexander Lee(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島翔平)

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