自分の成功を肯定できず他人をだましているように感じる「インポスター症候群」がもたらす隠れたメリットとは?

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詐欺師症候群(インポスター症候群)」は1978年に心理学者のポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスによって提唱された概念で、「自分の能力や業績は過大評価されており、成功や称賛に値する人間ではない」と考えてしまう傾向のことを指します。そんなインポスター症候群について研究したマサチューセッツ工科大学(MIT)のチームが、「インポスター症候群の人はチームワークや協調性にたけていることが多い」というメリットがあると報告しました。

The Impostor Phenomenon Revisited: Examining the Relationship between Workplace Impostor Thoughts and Interpersonal Effectiveness at Work | Academy of Management Journal
https://doi.org/10.5465/amj.2020.1627

Study finds an unexpected upside to workplace impostor thoughts | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2022/imposter-syndrome-upside-0415

There’s a Surprising Upside to Imposter Syndrome, Research Shows
https://www.sciencealert.com/scientists-have-found-there-is-an-upside-to-imposter-syndrome-at-work

インポスター症候群について提唱したクランスとアイムスは、能力を示す証拠があるにもかかわらず自分を「詐欺師」だと考えてしまう傾向が、特に高いキャリアを持つ女性の中に共通していることを発見しました。その後の研究でも、インポスター症候群は高いキャリアを持つ人々に多く、一般的に有色人種や文化的マイノリティの学生においてみられやすいことが指摘されています。

自尊心の低下やメンタルヘルスの問題といった否定的な側面がクローズアップされがちなインポスター症候群ですが、そもそもの研究が「高いキャリアを持つ女性」に端を発するように、インポスター症候群を抱える人々は高い能力を持っている傾向があります。そこでMITスローン経営大学院のBasima Tewfik助教の研究チームは、4つの異なる調査と実験において合計3603人の被験者を対象に、インポスター症候群の人々における「ポジティブな側面」について研究しました。


投資運用企業の従業員について分析した調査では、調査開始時点でインポスター症候群の傾向があった従業員は、上司から「同僚と比較してよく働いている」とみなされているおり、生産性に欠点もみられませんでした。そして、調査開始から2カ月後の時点で上司から「対人関係において同僚より有能だ」と評価されやすいこともわかりました。

また、医師の研修プログラムにおいて患者との実践的交流を行っている研修医を対象にした調査では、インポスター症候群の傾向を示す人々はそうでない研修医と比較して、患者と積極的に交流しようとしていたことが判明。Tewfik氏は「私はやはりポジティブな関係を発見しました。より多くのインポスター症候群の傾向を示す研修医は、患者から対人的に有能で、より共感的で、よく話を聞き、うまく情報を引き出すと評価されていました」と述べています。

実際に研修医と患者とのやり取りを録画した動画を分析したところ、インポスター症候群の傾向がある研修医はより多く患者と視線を合わせ、身ぶり手ぶりを行い、患者の話にうなずいたとのこと。これらの要因が、患者から「対人的に有能だ」という評価を得た理由だったと考えられています。

さらに研究チームは、さまざまな業界で働く被験者を対象に模擬面接を行う実験で、インポスター症候群の傾向がある被験者と他人志向型の傾向には因果関係があることを確認しました。他人志向型の傾向を見せたインポスター症候群の人々は、模擬面接官から対人的に有能だという評価を受けやすかったとのことです。


今回の研究からは、インポスター症候群の傾向がある人はより他人志向型になり、その結果として対人的な能力が高いと評価されるようになることがわかっています。Tewfik氏は、「職場において自分を詐欺師だと考えることが常に悪いという考えは、まったく真実ではないかもしれません」と述べ、インポスター症候群とその影響について再考する必要があると主張しました。

しかし、インポスター症候群の被験者は自尊心が低下することも示されているため、労働者の間でインポスター症候群の傾向が広まることを奨励することはもちろん、無視したり否定したりすることも避けるべきだとTewfik氏は指摘。また、研究では他の従業員や関係者と相互作用できる職種が対象となっていましたが、対人関係のない環境で働いている人は他人志向型になろうとしても働きかける相手が少ないため、メリットが現れない可能性もあるとのこと。

なお、自分を詐欺師だと考える傾向は一般に「インポスター症候群」と呼ばれているものの、今回の研究ではこうした考えが特定の従業員において永続するのではなく、職場で自分の立場が確立されるにつれて消えることも判明。そのため、Tewfik氏はインポスター症候群にみられる思考の傾向を「症候群」とは呼ばないようにしているとのことです。


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