事務作業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速する動きが行政でも始まっている。神戸市は電子契約の導入に向けた実証実験を2021年7月より進めてきたが、その結果を受けて2022年6月から本格導入することを発表した。政令都市での電子契約システムの本格導入は全国初となる。
電子契約とは、紙で作成した契約書に押印し、契約内容を合意した証として残す書面契約に代わるもので、電子データに電子署名または電子サインを行うことで締結する。国内では2021年1月に地方自治法施行規則の改定により、二要素認証でも事業者(立会人)型、電子契約システムの利用が可能となり、検討を進める自治体は増えていると見られる。
電子契約の概要
法改定で自治体の電子契約システムが可能になった
神戸市は導入メリットとして、年間8000件ほどある契約書のペーパーレス化や管理スペースの削減、書類作成に伴う押印や郵送などの事務作業がおよそ4000時間の削減などを挙げている。電子契約は印紙税の対象外になるため、2021年に約8500万円を支払っていた印紙税分の経費も一定の削減が見込める。
電子契約システムを利用した費用対効果
神戸市では対象となる契約を、経理契約(神戸市では各部署からの要求に基づいて行財政局契約監理課が行う契約)、委託契約、労働者派遣契約などとし、状況によって拡大することも検討している。システムを使用するのは、神戸市役所内の全ての組織で契約に関連する8000人のうち、実際に契約書類の作成を担当する一部の職員で、利用料は年間で約200万円を想定している。
電子契約に必要なサービスは複数の企業が提供しているが、神戸市はSMBCクラウドサイン社の電子契約システム「SMBCクラウドサイン」を採用している。企画調整局デジタル戦略部の山川歩氏は、採用の理由として、セキュリティの高さを一番に挙げ、内閣官房・総務省・経済産業省の所管で発足した政府情報システムのためのセキュリティ評価制度であるISMAP(イスマップ:Information system Security Management and Assessment Program)に登録していること、総合行政ネットワークLGWAN(Local government Wide area Network)対応であること。また、始めてでも直感的に操作可能である点が決め手になったとしている。
実証実験は2021年7月から2022年3月末にかけて一部の職員を対象に実施された。電子契約の採用に関しては以前から要望があり、契約先である企業も含めてアンケートをとったところ、利用に積極的な34%を含め全体で7割が、電子契約の使用に前向きだったという。実証実験では主に既存の作業が置き換え可能か検討され、DXの課題となる使い勝手については、実証実験の際に電子契約に関する基本的な説明を含めた1.5時間の勉強会を行ったところ、担当職員はほぼ問題なく使用できたとしている。
勉強会はデジタル化専門官として採用された大村恵氏が、前職の大手ベンダーで研修インストラクターをしていた経験を活かし、独自にプログラムを作成している。そうした点もスムーズに対応できた理由かもしれない。
神戸市に対しては実証実験の時から、行政関係者からの問い合わせが増えており、電子契約に向けた関心は高いと言える。本格導入に向けた企業説明会も6月6日にオンラインで実施する予定だとしている。