TikTok クリエイターがパブリッシャーの戦略コンサルタントに :「クリエイターたちから教えてもらうことは多い」

DIGIDAY

パブリッシャーにとって、TikTokは恐ろしい場所かもしれない。

ソーシャル動画プラットフォームであるTikTokでは、アルゴリズムがオーディエンスを関心別に分類し、そのなかでのベストプラクティスは、パブリッシャーが他のプラットフォームやチャネルで長年磨き上げてきたものの対極にある。

「従来の動画パブリッシャーには編集チームがあって、コンテンツ制作日程があって、その時々の話題やトレンドに応じて動画コンテンツを制作・編集している。もう少し洗練されていて、はるかに統制されているのが普通だ」と話すのは、ストリーミングとソーシャルに関するインテリジェンスを提供するコンビバ(Conviva)で戦略担当バイスプレジデントを務めるニック・シセロ氏だ。同社はパブリッシャーやブランド、独立系クリエイターと密接に協力し、ソーシャルメディアの投稿パフォーマンスをトラッキングする。「TikTokでは、パブリッシャーの利用する従来の動画プラットフォームと同じ手法は通用しない」。

この点を念頭に、一部のパブリッシャーはテンポの速い粗削りなTikTok出身のクリエイターを戦略の指針としている。こうしてBDG、チームホイッスル(Team Whistle)、ギャラリーメディアグループ(Gallery Media Group)をはじめとするパブリッシャーは、TikTokを日々の発信や配信戦略に取り入れることで、実際にフォロワー数を増やている。

クリエイターファーストが正しい戦略

「当社の基盤のかなりの部分が、傘下の各種ブランドと同じ方向性を持ち、自然に投稿を依頼して互いに学び合えるようなクリエイターとの連携で築かれている」とBDGのマーケティングとオーディエンス開発を担当するシニアバイスプレジデントのウェズリー・ボナー氏は話す。「彼らの多くも、稼ぐ機会を得たいと積極的だった」。

TikTokのチャンネルに初めて投稿した2020年5月以降、BDGの各種ライフスタイルブランドはそれぞれ44万人から270万人のフォロワーを獲得し、同社カルチャー&イノベーション・グループのインバース(Inverse)に至ってはフォロワー数が700万人に達している。

これは主に、クリエイターと深い関係を築いたことで実現したものだ。ティックトッカーにBDGのハンドルのコンテンツを有料で制作してもらう、TikTokクリエイターネットワークもその手段のひとつだ。ボナー氏は、同社ウェブサイトのコンテンツをフリーランスのライターに制作してもらう場合と同じ仕組みだと話したが、TikTokのクリエイターの投稿1件当たりの報酬額がどれくらいになるのかについては明かさなかった。

ボナー氏によると、現在BDGのクリエイターネットワークには約100人のクリエイターがいるが、全員が自分のオンラインプレゼンスの確立を図る初期段階にあり、数百万人規模のフォロワーを持つクリエイターより報酬額が低い傾向があるため、成長拡大に熱心だという。

ほかのパブリッシャーたちも、クリエイターに主導権を握らせるのは正しい戦略だと口をそろえる。チームホイッスルの戦略・イノベーション担当エグゼクティブバイスプレジデントであるオーウェン・ライムバック氏は、オーディエンスを特定し、彼らがどのようなコンテンツをどれくらい求めているのかという「極めて高い俊敏性を要する仕事を優秀な人材に任せている企業が成功している」と話す。

以下に、TikTokのクリエイターとのコラボレーションを通してパブリッシャーたちが学んだ戦略を挙げていく。

結果は最初に見せる

ボナー氏は、クリエイターとの作業を通して、最終的な結果を先にオーディエンスに見せることを学んだという。ビューティハック、コーヒーのレシピ、ドレスアップコーデ、インテリアデザイン公開など、どのような動画であれ、視聴者に立ち止まって見てもらう秘訣は、魅力的な最終結果を最初に示して関心を引くことだ。

「人にはおもしろい性向があって、高速でスクロールしているときに完璧なアイライナーに関する15秒の動画を見つけたとしても、最初にどのようなアイライナーなのかを見せてもらえないと、15秒を最後まで見ない」とボナー氏は語る。

「私たちの動画の多くに採用している独自の戦略だが、まずはタイトルで最終結果を示してから、どのようにそこにたどりつくのかを見せるようにしている。これはかなり成果を挙げている」。

ブランドイメージへの思い入れをなくす

ピュアワウ(PureWow)やワン・サーティセブン・ピーエム(One37pm)を発行するギャラリーメディアグループのCEO、ライアン・ハーウッド氏は、ティックトッカーは「多くのフォーチュン500のブランドやパブリッシャーのようには自分のブランドや声に思い入れを持っていない」と話す。ハーウッド氏は彼らから「場所に合わせて、複数の人格があってもいい」ということを学んだそうだ。

TikTokの展開スピードと、単独クリエイターたちの活動スタイルから、クリエイターはトレンドが現れると同時に飛び付いて1日に複数回投稿する。投稿が彼らの仕事であり、生活がかかっているからだ、とハーウッド氏は付け加える。だが、クリエイターが時間をかけて過剰に手の込んだ動画を作成しないがために生まれるリアルさをTikTokのオーディエンスが高く評価している面もある。

「ブランドにはもっと人間味が必要だ。プラットフォームで勝っているのは人間だから」とハーウッド氏はいう。「当社では、プラットフォームの文化で何が重要なのかに精通し、オーディエンスが何を見たいのかを理解するため、かなりの時間をプラットフォーム上で過ごすチームを設けている。TikTokは消費者が何を考え、語り、消費し、購入しているのかを知る最高の手段のひとつだ。これほどまでのものは、初期のFacebook以来見たことがない」。

迅速に頻繁に投稿する

ティックトッカーはネット上での自分のイメージにそれほど思い入れがないため、多くのパブリッシャーが自社所有・運営のチャネルやソーシャルメディアに投稿する場合に比べて、より迅速に、より頻繁に投稿することができる。

TikTokのアルゴリズムが、プラットフォームでの実績に基づいてクリエイターを不利にしないことも追い風になっている。一部の投稿でエンゲージメントが低いアカウントが不利になるインスタグラムとは異なり、TikTokでは再生回数が1000回しかない投稿があっても、それが次に500万回の再生を狙う足かせにはならない。

「TikTokで現在トップの実績を出している企業の主な特徴は、発信力のある強力なパーソナリティで比較的頻繁に投稿していることだ。つまり、パブリッシャーとしては、トレンドに反応し、意味のあるコンテンツを制作して発信するということを、通常の編集サイクルよりはるかにすばやくできなければならない」とシセロ氏は話す。

パブリッシャーはTikTok専任のマネージャーを雇い、日常的にアップデートされるコンテンツ用に編集カレンダーを別に用意する必要があるかもしれない。言葉遣いやメッセージを柔軟に変えることができるように、コンテンツのガイドラインも継続的に更新しなければならない可能性もある。

ハーウッド氏のチームは、このような手法を従来のオフラインチャネルにも適用している。「当社ではこうしてボリュームを拡大している。かつては高いボリュームは品質が低いという意味合いがあった。今はどちらかを選ぶ必要はない。クリエイターたちがそれをブランドやパブリッシャーに教えてくれた部分が大きい。それに、ボリュームが多ければ多いほど、バイラルになってオーガニックリーチが伸びる機会が増える。つまり、フォロワー数を格段に増やす機会も増えるということだ」とハーウッド氏は語る。

クリエイターにとって自然な、馴染みのあるプラットフォームで

チームホイッスルの戦略パートナーシップ担当バイスプレジデントのアレックス・コーン氏によれば、同社は2014年にYouTubeチャンネルとして設立され、今でも編集チームはクリエイター意識を持って活動しているそうだ。

だが現在は、サードパーティ提携チームが、共同ブランディングのコンテンツ制作から、同社の主要プラットフォーム以外でのコンテンツの配信とシンジケーションなど、社外のクリエイターとも数々の方法で連携する。

同社のライムバック氏は「クリエイターとは共同制作的な立場で、彼らのフットワークの軽いスタイルでは得られないような大きなリソースを提供することで支援している」と話す。たとえば商品化や流通のサービスを提供したり、クリエイターをネットワークに取り込み、自分で行うにはスタッフを雇わなければならないようなプレミアムメディアの販売を確保できるようにしたりしている。ライムバック氏は、これが最もオーガニックでチームホイッスルに合ったマネタイズ戦略だと語った。

このビジネスを通して、コーン氏のチームはクリエイターたちがどのプラットフォームで力を発揮でき、オーディエンスが最も多いのかを意識することを学んだ。これは、特に類似した内容の新しいコンテンツを制作する場合に重要になる。

「とても有名なティックトッカーのYouTubeシリーズを制作しても、有名なユーチューバーのオリジナルシリーズと同じようにオーディエンスに受け入れてもらえるとはかぎらない」とコーン氏はいう。「それを考慮した上でのオリジナルコンテンツ編成は、とてもうまくいっている」。

編集の専門スキルをブランド契約へとつなげる

最終的には、クリエイターとの密接なコラボレーションは、プラットフォームに対するパブリッシャーの自信と知識にも還元され、ひいてはブランドパートナーに提供できるソーシャル関連サービスでの実験とイノベーションをも推し進めている。

ここで挙げたパブリッシャーは3社とも、クライアントをコンテンツクリエイターとつなぐビジネスを展開している。ギャラリーメディアの場合、クライアントに代わって
ホワイトラベルのTikTokアカウントを運営する事業も立ち上げ、ハーウッド氏によるとその収益は1000万ドル(約12億5000万円)台に迫る。また、TikTokのキャンペーンで使用するオリジナルの楽曲を作曲し、ブランドに提供することも行っているそうだ。

同社では7年以上、インフルエンサーマーケティング契約も扱っている。年間キャンペーン数は数百件に上り、これまで数千人のインフルエンサーと仕事をしてきた。だが、ハーウッド氏によればほんの数年でそのキャンペーンのほとんどをTikTokが占めるようになったそうだ。

ブランドとメディア企業では、おこなっているビジネスが違う。「ブランドが売っているのは実際の商品。パブリッシャーは、情報やエンターテインメントを売っている。TikTokが商品なのだ」とシセロ氏。「それはブランドコンテンツを増やすのに適していて、とてもうまくコンテンツを組み込める方法もある。共同スポンサーの投稿もかなり成功している」。

[原文:How creators have become strategy consultants for publishers on TikTok

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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