専門知識がない記者が書く、事実誤認の防衛産業危機という記事

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「防衛産業、基盤強化に本腰 相次ぐ撤退に危機感 政府」

この記事を書いた記者は、軍事知識がなく、海外の軍事産業の取材をしたことがないことが明白です。だから防衛省の言い分を吟味せずに、頓珍漢な記事を書いています。さすが防衛省の取材機会を独占して、それにあぐらを書いて勉強も取材もしない記者クラブの面目躍如です。しかも署名記事として責任の所在を明らかにするわけでもない。SNSの匿名のコメントと同じです。

政府は防衛産業を「防衛力の一部」と位置付け、対策に本腰を入れ始めた。

もう調達改革は20年以上前から「本腰入れて」やってきましたよ。その一つが、装備庁の設立です。ところがその装備庁が全く機能していない。当事者能力は技術研究本部があった時代のほうがまだしもましで、劣化は目を覆うばかです。それは改革に熱心な官僚や制服組を排除してきたからです。全く向かない、あるいは無能や改革が嫌いな人員を配置して、やっているふりをしているだけです。

防衛装備庁が設置されている防衛省庁舎D棟(右)
出典:Wikipedia

つまり防衛省には装備調達をする気も、当事者意識も能力もありません。政治に言われたからやっているふりをしているだけです。

それは防衛産業も同じです。両者に共通しているのは防衛産業が産業であるという認識が欠如していることです。

撤退の理由の一つは、利益率の低さにある。現在、防衛省が発注する装備品は原価に7%程度の利益が上乗せされているが、10%を超えるとされる欧米諸国と比べると低い。納品後の利益率では、材料費の高騰や為替の影響により利益率が2~3%まで目減りしているケースもあるという。

これも嘘。

実はメーカー、商社は各段階でかなり利益を乗せています。そうでないと、商売が回りません。例えば各工程で、一定パーセンテージ乗せて、次の加工段階でも乗せている。これは重工各社の現場が証言してます。

それに欧米のメーカーはリスクを負って、自前のカネで基礎研究や、製品開発をしています。開発しても売れないリスクを抱えているわけです。日本の防衛産業は基本、防衛省の発注を受けているだけですから、そういうリスクはないし、世界の市場で営業するためのコストも掛けていません。

問題は事業規模が小さくなっていることです。調達数は前世紀よりも相当減っています。売上が小さくなれば、利益の絶対金額も減るのは当然です。ましてお客が防衛省だけで、同じ分野で縄張りを決めて細々とやってきて、それがさらに小さくなっているわけです。

ところが防衛省もメーカーも事業統合や撤退などの再編を考えません。やる気がないのか頭が悪いのか、仕事をしているふりだけすればいいと思っているのか、アクションを起こしません。例外は造船部門ぐらいでしょう。

例えばヘリ産業は零細規模で、顧客がほぼ防衛省に頼り、民間はおろか、警察、消防、自体にすら製品を売り込めない「子供部屋おじさん」みたいな機体メーカーが3社、エンジンメーカーが2社です。それを事業統合できない。

それが20年も30年も放置されてきている。まともな製品を作って内外に打って出るつもりもありません。将来性は全くありません。その「子供部屋おじさん」メーカーに他国の数倍高い調達&維持費を払って装備を揃えているわけです。

そしてコマツのように散々税金食い散らかしておいて、立つ鳥跡を濁すで逃げる企業が少なくないわけです。経営者を銃殺にするべきレベルの反社会的な行為です。

内外のメーカーを同じように論ずるのはこの記者は防衛だけではなくビジネスに関しても素人で、防衛省の言い分をそのまま書いているからです。

装備品を輸出できれば事業維持や価格抑制などの効果が期待できるが、高価で自衛隊のニーズに応じた装備品を買う国は少ない。

高いという意識が防衛省にありません。他国の10倍の小火器、調達費&維持費が他国の3〜4倍の国産航空機を調達してヘラヘラしているわけですから、やる気があるとは言えません。そもそもメーカーにリスクを負って海外に打って出る気はない。NECとか川重にしても海外の見本市にはでているが、全く売る気がありあせん。単に防衛省に対するやっているふりをしているだけです。

そして高価な理由は知見も無いくせに思いつきで、あれこれ不要な性能を要求したりするからです。AH-64Dのキモはネットワーク機能なのに、リンク16をわざわざ外して値段を上がる、E-2DのCECをわざわざ外して値段をあげて、あとになってとりつけて、更にコストをかける。

かつての技本、装備庁には見識がなく、不要な試験や装備を押し付ける。だから10式も三菱に丸投げしていれば開発費は半分で済んだという話もあります。まともに取材していればこのような事例に絶対当たるはずです。防衛省の担当者のいうことを聞いてこたつ記事みたいな記事になります。

こうした状況を打破すべく、防衛装備庁は企業の支援に乗り出している。防衛省は装備品の製造工程に3Dプリンターや人工知能(AI)などの先進技術を導入するための経費6億円や、中小企業のサイバーセキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)性調査・設備導入などの費用8億円を22年度予算に盛り込んだ。

これまた素人丸出しです。必要なのは政策、戦略であるわけですが、ここで挙げているのは先述レベルの話です。戦略レベルの失敗は戦術では取り返せません。

そもそも以前から装備庁では防衛産業の下請けレベル、潜在的な防衛技術を持ったメーカーのデータベースを作ると言いつつ、全く進んでいません。

さらに、鈴木敦夫装備庁長官の下に、装備品の利益率見直しや輸出に関するワーキンググループを設置し、具体策の検討を進めている。

これまた例によって、やっているふりです。そもそも軍事産業の何たるか、調達の問題がないか分かっている人間を追い出して、やっているふりだけやっているわけです。以前の調達改革やら自衛隊機の民間転用とか寝言みたいなことばかりで全く成功していません。

防衛省だけではなく、政府にもそのような危機感をもった、プロはおりません。ですから海外に打って出る気がない国内産業は潰した方がいいと思います。国内から調達やめれば、低性能で高コストの国産装備を買う理由がなくなります。どうしても国内に基盤残したいならば外国資本に工場を作ってもらえばいいでしょう。

そして防衛省、自衛隊ともに装備開発の能力が無いわけですから、防衛装備庁はイスラエルあたりに丸投げしたほうがよろしいでしょう。

まあ、匿名で社名に隠れて記事書いて責任をとらないから、何度でも同じような記事を書きます。
そういう記者クラブが取材機会を独占して、国民の知る権利を阻害していわけです。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2022年5月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。

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