腰の低い人が好きだ。
自分も普段から腰を低くして日々の生活を送っているつもりだが、上には上がいるもので、世の中にはもっともっと低い人たちがいる(上だけど低い)。そんな腰の低い人たちだけを集めてみたらどうなるだろうか?
という訳で、腰の低い人たちだけの飲み会を開催する事にした。
腰の低い人たちの会、略して腰低会(ようていかい)の様子をお届けいたします。どうぞどうぞどうぞ。
※2005年9月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
「大人力の高い人たちの飲み会を開催したく、皆さんにお集りいただければと思います」
と、腰の低い人たちに向けて案内のメールを出した。
企画趣旨が「腰の低さ」にある旨を伝えてしまう事で、持ち前の腰の低さが発揮されなくなる事を恐れ、「大人力」という切り口の元に集まっていただく事にした。あくまでもいつも通りに飲んでもらう事で、飾らない、普段着の「腰の低さ」を目撃出来ると考えたのだ。
そんなこちらからのお声がけに快く賛同いただいたのは次の4名。
いずれも腰の低さには定評のある面々である。
腰低NO.001:三土さん 当サイトの金曜日担当ライター。お会いする度に、深々と頭を下げながら「三土と申します」と挨拶をしてくれる。もしかしたら前に会ってる事を忘れているのでは、と不安になるが、そうではなくて丁寧で腰の低い三土さん流の挨拶なのだ。 |
腰低NO.002:鹿野さん 現代書林勤務。小野法師丸さんの本「コラム息切れ」の営業を担当されている。小野さんが鎧でニフティを訪問した時に初めてお会いしたが、その時の腰の低さは相当なものだった(「鎧でビジネスシーン」)。著者が鎧を着ている、という特別な状況がそうさせたのかもしれないが、その後何度かお会いしてもやはり低かったので本物である。 |
腰低NO.003:白石さん ニフティ株式会社勤務。この夏開催されたBBフェスタにおいて、デイリーポータルZブースのスタッフとしてお手伝いいただき、その時の腰の低い対応が印象的だった。上司の部長さんも「彼女の腰の低さは普通じゃない」と太鼓判を押す。 |
腰低NO.004:鶴久さん ニフティ株式会社勤務。30代半ばにして中学生のお子さんを持つ。父親としての経験の長さが影響を与えているのか、腰の低さに年季を感じさせる。仕事場でも周囲からの人望が厚い。 |
以上のメンバーで腰低会を開催するが、4人はそれぞれ初対面である。ニフティのお二人は同じ会社ながらも部署が違うので言葉を交わした事がない。
大森に集合する腰低会の方々
9月某日。JR大森駅前で腰低会の皆さんと待ち合わせた。
約束の時間より5分早く、まずは鹿野さんがやって来た。
「どうもどうも」
いつも通り、低い体制での登場だ。
続いて現れたのは三土さん。
下の写真はやらせではなく、本当にこの角度まで頭を下げていた。
そして、鹿野さんと三土さんが初対面の挨拶を交わしている。お互い何度も頭を下げていたので写真がぶれてしまった。
お二人ともファーストコンタクトからかなり低い。格闘技の世界で言うところの「低空タックル」だ。低空タックルでテイクダウンを奪い、マウントポジションを取る。いわゆる勝ち試合のパターンである。
ニフティのお二人とはお店で合流する予定となっていたので、鹿野さん、三土さんと共に会場へと移動した。
腰低会と腰低会を見守る会
大森駅近くの居酒屋「あっぱれ」に腰低会の予約を入れておいた。店名の様にあっぱれな腰低ぶりを期待したい。
※ここから先、腰の低い様子を「腰低(ようてい)」と表記させていただきます。
ニフティの鶴久さん、白石さんも合流し、腰低会の4名には個室に入っていただいた。壁を隔てて隣りの個室には、ウェブマスターの林さん、ライターのべつやくさん、ライターの藤原君、そして僕が入り腰低会の様子をビデオカメラで観察させていただく
この日最初の腰低ぶりが!
ビデオカメラの設置も終わり、ちょっとした腰低も見逃さない体制が整った。
今回の飲み会のルールとして、飲み物、食べ物の注文は隣室の僕たちに任せていただく事にした。腰低ぶりが出やすい状況をつくる為、いくつかのトリップを仕掛ける予定なのだ。
最初は普通に生ビールを注文したが、ちょうど忙しい時間という事もあり飲み物が出てくるまでに時間が空いてしまう。その間、腰低会の方々は自己紹介もかねて、お互いの仕事について話し始めた。
そして、乾杯が終わり席に着いてから9分24秒後。
鶴久さんの一言をキッカケに、この日最初の腰低が披露された。
鶴久さん「タバコとか、吸っちゃって…」
白石さん「あ、実は私も…」
三土さん「どうぞどうぞどうぞ」
白石さん「大丈夫ですか?」
三土さん「大丈夫、大丈夫、大丈夫」
鹿野さん「あっ、僕も……」
三土さん「どうぞどうぞどうぞ」
タバコに関し、探りを入れる形で鶴久さんが口火を切った。
結果的に、三土さん以外が喫煙者という事が明らかになったのだが、喫煙、非喫煙、いずれの立場からも遠慮し合うやり取りは圧巻だった。特に相手にかぶせる様に「どうぞどうぞどうぞ」と声をかける三土さんの腰低は印象的であった。
最初のトラップ。おつまみが奇数
乾杯も終わり、腰低会の皆さんの話題は「好きな色」に移った。
三土さんは汚れの目立たない色が好きで、鶴久さんは「子供みたいですけど、赤とか青とか」、鹿野さんは「すみません、特にないんです……」と恐縮し、白石さんは「原色よりは緑とか紫とか…」。
と、盛り上がっている所に割り込む様にして、見守る会からの最初のトラップが仕掛けられた。
店員さん「お待たせしました。つくねです」
おつまみを注文しておいたのだが、本数が3本。4名に対し3本のつくね。
この危機的状況を腰低会の皆さんはどう乗り切るのか? 固唾を飲んでモニターを見つめる腰低会を見守る会のメンバー。
鶴久さん「どうしましょうかね、これ?」
鹿野さん「ジャンケンはやめましょうね」
白石さん「串からはずして、取り分けましょう」
三土さん「そうですね、4の倍数で分ければ、何とか」
鹿野さん「じゃあ、僕がやっちゃっていいですか?」
白石さん「どうぞどうぞどうぞ」
話はまとまり、鹿野さんと三土さんにより、つくねが4の倍数で取り分けられた。
開始から16分36秒。つくねトラップ、見事にクリアである。
立て続けに、おつまみが奇数
続いてのトラップはししゃも5本。
1人1本づつ食べると1本余ってしまう。かといって、ししゃもを取り分けるのは難しい。
どうする? 腰低会。
鶴久さん「今度は5匹ですね」
白石さん「…レ、レモンかけますね」
鹿野さん「…ええ、お願いします」
三土さん「……」
その後、各自がししゃもを1本ずつ食べ切るまでに要した時間が約17分。そして、1本だけ残ったししゃも。この処理が問題な訳だが、この危機を乗り切ったのは三土さんだった。
三土さん「すみません、私、食いしん坊なもんで、これ、食べます」
一同「どうぞどうぞ」
開始から31分07秒の出来事だった。
ししゃもを1本残す腰低があれば、逆に残ったししゃもを食べる腰低もある。
見守る会から自然と拍手が起こった。
最後のトラップ
つくね、ししゃもと迫りくる障害を次々とクリアしていった腰低の皆さん。
ここで我々は奇数での注文を一旦止めた。刺身盛り、小龍包、焼き鳥、と人数分の注文を続け、腰低の皆さんの油断を誘ったのだ。
そして、開始から1時間12分が経過した。
手羽先4人分が腰低の皆さんのテーブルに並ぶタイミングを見計らい、我々は最終トラップを仕掛けた。
最後の刺客はライターの藤原君だ。
デイリーポータルライター陣の中で最年少の18才。まだまだ食べ盛りである。
せっかく手羽先が4本あるのに、食べ盛りの青年が混ざってしまう。
どうする? 腰低会。
藤原君はこちらの目論み通り、見守る会の席にいた時と同じペースでおつまみを食べていく。
とにかく良く食べる藤原君。それまで腰低会に流れていた暗黙のバランスが崩れていく。
しかし、腰低会の皆さんの腰低は底が深い。
住んでいる所の話、好きな音楽の話と次々に話題を振っていく。普段から無口なタイプの藤原君が徐々に場の雰囲気に馴染んでいくのがモニター越しに見て取れた。
今、一人の青年が腰低へと脱皮しようとしている。
そんな素晴らしい瞬間を、我々腰低を見守る会は目撃する事が出来た。
腰低ってすばらしい!
腰の低い人たちの飲み会を見守った。そして、皆さんの気遣い、譲り合い、思いやりを目の当たりにし、腰低の素晴らしさを実感出来た。皆さんをお誘いする際、「大人力の高い人たちの飲み会を」とお伝えしていたが、結果的に「腰低」≒「大人力」という事が分かった。そして、世の中の人たちがみんな腰低になれば、争いのない楽しい社会になるのに、とも思った。ビバ腰低!!