インスタカート 、配達「以外」の分野への多様化を模索:競合の激化に伴って

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります

インスタカート(Instacart)は、A地点からB地点に食料品を配達するだけのプラットフォームを脱しようと試みている。

同社が最近導入したインスタカートプラットフォーム(Instacart Platform)は小売業者向けのサービスとテクノロジーを集めたもので、データツール、eコマースの開発、およびスマートカートなどの店舗内テクノロジーが含まれている。このプラットフォームには何回かの更新が行われている。インスタカートは1月に、デジタルストアフロントとして機能するCPGブランドページなど、ほかのブランド向けの新しいマーケティング機能を導入し、広告への移行を強めた。

インスタカートはパンデミックのあいだに、最大手の配達プラットフォームのひとつにまで成長し、2020年4月にははじめて1000万ドル(約12億5000万円)前後の利益を達成し、2020年の収益は15億ドル(約1875億円)に達した。同社は昨年のある時点で、新規公開株さえも検討したと報告されている。しかし同社は先月、最新の資金調達ラウンドで自社の評価額を40%近くも減らし、配達分野での競合はますます過熱しつつある。競合他社より抜きん出るため、同社は主な配達ビジネスに含まれないカテゴリーにも参入してきた。

カンター(Kantar)のデジタルコマース担当シニアディレクターを務めるセリア・バン・ウィッケル氏は次のように述べている。「インスタカートはこの分野で、パンデミックによる2020年の成長に基づいて評価されてきた。同社はいまだ成長し続けているが、状況は変化しつつある。同社はいくつかの中核的な大手小売業者に強く依存してきたし、現在でもそうだが、競合上の優位を維持するため、ほかのカテゴリーやサービスへの転向と移行を必要としている」。

新たな道を模索するインスタカート

インスタカートは2012年に、消費者の居住する場所にかかわらず食料品を簡単に購入できるようにするという構想を抱いて創業した。同社はザ・ジャイアント・カンパニー(The Giant Company)ウォルマート(Walmart)クローガー(Kroger)など多くの食料品店と提携しており、近年には食料品以外の商品の配達にも事業を拡大してきた。インスタカートはウォルグリーン(Walgreens)と提携して処方箋不要の医薬品や、ドラッグストアで販売されているほかの商品を販売しているほか、ベストバイ(Best Buy)とも提携して厳選した電子機器やテック商品を販売している。

インスタカートのウェブサイトによれば、同社には合計で750を超える全国、地域、および現地の小売パートナーが存在する。同社はこれらのパートナーシップを成長の糧にしており、それが同社の高い普及率を支えている。

昨年8月に就任した新しいCEOのフィジー・シモ氏のリーダーシップのもとで、同社はFacebookのプロダクトチームの従業員を何人か雇用した。これは同社がソーシャルアプリ、すなわちユーザーが日常的にログインして食料品のコンテンツを探し、買い求める場所へ移行していく可能性を示唆するものだ。

同社が新たに発表したマーケティング機能は、消費者向け商品の広告に事業を拡大していく過去の計画を基礎として作り上げられたものだ。同社は2020年5月にセルフサービス広告プラットフォームをリリースし、その年に広告主が500%も増加した。

1010データ(1010data)の最近のレポートによれば、同社の売上は2019年から2020年にかけて前年比で330%も増加した。2020年の前半6カ月に、同社はオンラインでの食料品の合計売上額でウォルマートさえも超え、市場シェアで最上位を占めたと、1010データは語る。しかし2020年から2021年に、同社の売上の成長はわずか15%に減速した。

パンデミックのあいだに急成長したほかの企業と同様に、インスタカートの劇的な成長率も通常の状態に戻りつつあると、イーマーケター(eMarketer)で小売とeコマースのプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は語る。同社の評価額の減少は、総合的な市場状況の反映にすぎないとも、同氏は付け加えている。

同氏は次のように述べている。「これは単に、マーケティングの適正化の現実にすぎない。評価額の減少は、特に株式をまだ公開していない企業の場合、否定的な兆候として語られるものだ。私はこれが、単なる現状の確認だと見る」。

それでも、パンデミック前のショッピングの習慣の一部が復活しつつあるなかで、インスタカートが主なビジネスモデルに全体として依存し続けるのは困難だろうと、専門家は語る。ガートナー(Gartner)でディレクターアナリストを務めるマット・ムーラット氏は、非接触の方法で食料品のショッピングを行うためインスタカートを利用してきた消費者の一部は、実店舗に回帰しつつあると語っている。また、金利が上昇したことから、消費者が食料品店に行くとき消費する金額が減りつつある。

ムーラット氏は次のように述べている。「これらの企業が転向を行い、競合他社との差別化を行えるような別の種類のビジネスモデルを模索しはじめているのは驚くにあたらない。それによって、常に微妙なバランスで成り立つようなものではなく、安定したサステイナブルなビジネスモデルを見いだせれば、これらの企業にとって望ましいことになるだろう」。

食料品配達における競合の激化

インスタカートは依然として、オンラインの食料品配達市場の大部分を占めているが、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)によれば、小売業者がほかの配達企業と提携するにつれ、同社のシェアは低下することが予測される。食料品配達の中間市場で、インスタカートのシェアは2020年の84.2%から、2023年には68.2%に低下するだろうと、インサイダーインテリジェンスは予測している。

この業界ではすでに競合がはじまっている。ウォルグリーンやアルバートソンズ(Albertsons)などの大手小売チェーンはいずれもインスタカートと協力しているが、ウーバーイーツ(Uber Eats)やドアダッシュ(Door Dash)とも協力している。

ジョーカー(Jokr)やゴリラズ(Gorillas)などの超速配達の新興企業は食料品を約15分で配達することを保証しており、従来の配達企業も同様なサービスを提供することを迫られている。インスタカートは、アトランタとマイアミを皮切りに、パブリックス(Publix)の商品について15分での食料品配達を可能にしたと語っている。ドアダッシュも12月に、ニューヨーク市のダッシュマート(DashMart)から食料品を10~15分で配達するサービスを開始した。

ムーラット氏は次のように述べている。「これらの企業がいる市場の力学により、各企業はより価格が安く、可用性に関する問題点が少なく、迅速に配達する競争を余儀なくされており、自分たちの利ざやを切り詰めている。結局のところ、収益の可能性が非常に大きいため、依然として多くの競合が残っている」。

同時に、小売業者は自社独自の配達能力を築き上げ、配達プラットフォームへの依存を減らしつつある。クローガーは独自の全国フルフィルメントネットワークを拡大する方向に動いてきた。同社は2月に、ジョージア州アトランタの南部の市に顧客フルフィルメントセンターを開設した。

競合で先んじるため、インスタカートはより多くの小売パートナーに多くのサービスを提供するだけでなく、自社アプリが買い物客に多く使用されるよう試みている。同社は先月TikTok、テイスティ(Tasty)などでの統合により、買い物ができるレシピを開始した。また同社は、自社のブランドアイデンティティの進化を反映するため、先月ブランドの刷新を公開した

専門家たちは、競合の過熱がすぐに治まることは期待していないと語る。これはインスタカートにとって、前途が多難であるということを意味する。

カンターのファン・ウィッケル氏は次のように述べている。「2022年にインスタカートに大きな変化があるとは考えていない。しかし、今年には同社のビジネスモデルの生存能力が明らかになり、競合している各社のすべてにも同じことが当てはまるだろうと、私は考えている」。

[原文:As competition heats up, Instacart is on the move to diversify beyond delivery]

Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:猿渡さとみ)
Image via Instacart

Source

タイトルとURLをコピーしました