60歳の転機は給与所得者ほど気をつけて

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昨日、オンラインで高校のクラス会が開催されました。LINEグループではクラスの約半分が繋がっているので細かいやり取りはできますが、クラス会は約2時間、様々な会話ができるのでへぇ、と思う話も次々と出てきます。2年ぶりだった今回のクラス会で共通の話は「60歳を超えた今」。

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驚いたことに60歳を超えても仕事の条件が変わらないのは自営の私と京都大学で19年も教鞭をとる哲学女子の2人だけ。その哲学女子も65歳で食い扶持を失うかもしれないと焦り気味。他は男女ともにリタイア、契約社員への転向など望む、望まざるに関係なく、受け入れるしかないとあきらめ顔でした。

ただ、60歳から人生終末までの道のりは異様に長いのです。ざっくりあと30年。これを貯金とわずかなアルバイト、ないし、大幅に減額された給与だけでどう食いつないでいくのかを考えると一昔前の「高齢者はお金持ち」という時代とは相当違う絵図のように感じます。

実は今回改めて気がついたのが、自営の人が非常に少ない点です。私が高校に入学した時、クラスメートでサラリーマンの家庭は2-3人のみで他は何らかの事業家やプロフェッショナルの家庭に育った人たちばかりでした。が、大学を卒業し、一旦企業務めをする間に私を含め、家業とは離れた関係になった人も多く、昔と変わらない生活をしているのは不動産長者の娘だけでした。起業者は一体どこにいるのだろうと思わず、首をひねってしまったのです。

これからどうする、という話題の中で多かった意見が「そうは言っても38年間務めたんだから自分へのご褒美で家でちょっとまったりしたい」「趣味や今までできなかったことをやる」という第二の人生派は立派だと思います。が、「一度、まったりすると二度と起き上がれないよ」という厳しい意見に思わず、私も「そうそう」と相づちです。

また、「先立つもの」とのバランスも重要です。お金というのはフローとストックの2つを分けて考える必要があります。フローとは給与や年金、不動産の家賃収入など毎月のようにある程度決まって入ってくるお金です。ストックとは預貯金や自分の家を含む資産です。60歳リタイアで一番危険なのは年金受給まで空白の5年間があり、その間、アルバイトをしなければストックの切り崩しになってしまうのです。通常、ストックの切り崩しは一定の高齢になった際の緊急資金的な意味合いもある中でこれから30年という長い人生を送る中でそれを今から切り崩すのはよほどのストック持ちならともかく、ちょっとお勧めできません。

私が思うのは70歳までは社会に参加して錆びないようにしてほしいのです。ところが「私なんて特殊な業界の特殊な業務の事務処理をずっとやってきたから全く汎用性がないの。だから再就職と言っても特技もないし、経理ができるわけでもない。単なる事務職ほど潰しが効かない仕事もない」と自信満々言われると「ぐぅの音」も出ないのです。私がこのブログでいつも言っていた「何か特技を」を身につけないでゴールするとこうなるという典型的な例なのでしょう。

私がバンクーバーで支援する介護事業で日本人の方を期待を込めて採用しても脱落する人が結構います。理由は「わたしにはできません」。思ったよりきつかった、知らないことばかりで対応できなかった、これだけやってこの給与?というのまで様々です。

今回でも「私は掃除のおばさんにしかなれない」という悲観論まであるのですが、掃除のおばさんも正直大変です。世の中、楽な仕事などないわけで大企業の温室で38年間育ってしまうとちょっとした環境の変化にも対応できなくなるという弊害を今回、改めて感じました。

ダーウィンの進化論は環境適合ですが、一定温度に保たれた環境で長年過ごせば自分を環境に適合させる必要がないという弱点がさらけ出されたともいえそうです。

ところで、高校の体育の授業が1年間テニスだったこともあり、テニスをするクラスメートが非常に多い中、「テニスをもう一度したい。だけどこの歳になって突然やると怪我しそうだし」と微妙な意見が混じり合います。黙っていたけれどその日の朝、自転車で40キロほど走って爽快な気持ちで臨んだ私はちょっと異次元な気がしてしまいました。運動でも同じで60歳でリタイア、その日から何か新しいことを突然始めよう、というのはかなり大変なのです。人生のプランニングは後戻りできないのですが、少なくとも50歳になったら少しずつでもよいので何か、新たに始める助走をスタートすることをお勧めします。

「60歳の転機は誰でも予想できるし計算通り、その日はやってきます。ですので、その時に考えるのではなくその前からしっかり計画しておきましょう」とコンサルタントのような言い回しをするつもりはないのですが、結局それを行動に移すかどうかはご本人の気持ち次第。特に給与所得者ほどその危機感を感じるのが難しいのかな、と改めて感じた次第です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月24日の記事より転載させていただきました。