ウクライナ戦争2カ月の総括

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ロシアのプーチン大統領がロシア軍にウクライナ侵攻を命じて今月24日で2カ月目を迎える。プーチン氏はウクライナを短期間で占領できると楽観視していた向きがあったが、ロシア軍はウクライナの首都キーウ制圧に失敗し、ここにきてウクライナ東部地域での軍事攻勢を強化している。ウクライナの“非武装化、非ナチ化”の目標に変更があったのか。ロシア軍は東部地域を集中的に攻撃し、ウクライナ侵攻の最初の勝利を確保し、今回の“特殊軍事活動”の幕を閉じるか、それともウクライナ全土に攻撃を再度広げるのか、西側軍事専門家の間でも意見が分かれている。

アルメニアの二コル・パシ二ャン首相と対面会談するプーチン大統領(2022年4月19日、クレムリンで、ロシア大統領府公式サイトから)

ここでは過去2カ月間のウクライナ戦争を簡単に総括したい。

先ず、ロシア軍の侵攻で最大の被害を被ったのはウクライナ国民だ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウクライナから500万人以上がロシアの侵略戦争で海外に避難したと推定されている。UNHCRのケリー・クレメンツ副高等弁務官は19日、ニューヨークで開かれた国連安全保障理事会で、「500万人の人間の損失とトラウマを意味する」と述べている。海外避難民のほか、約710万人が国内避難民と見られている。ウクライナの人口は2021年、約4159万人(クリミア半島を除く)と推定されていたから、海外避難民と国内避難民の総数は全体の28%前後に当たる。戦争が長期化すれば、それらの数は増加すると考えられる。

次はロシア軍の最近の動向だ。西側の推定によると、ロシアはウクライナ戦争で1万人から2万人の傭兵を雇っている。傭兵はロシアのワグナーグループ(ロシアの民間軍事会社=PMC)と中東シリアやリビアからの戦闘員だ。傭兵は重い車両や武器を持たず、主に歩兵だ。シリアとリビアからウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」や「ルガンスク人民共和国」地域で戦闘する戦闘員が目撃されている。

PMCの傭兵グループはロシアの「影の軍隊」と見なされており、シリア、リビア、中央アフリカ共和国、そして最近ではマリなどの紛争地域でも目撃されていたが、ロシア政府はグループとのつながりを否定している。

インスブルック大学の政治学者、ロシア専門家のゲルハルト・マンゴット教授は19日、オーストリア国営放送とのインタビューで、「プーチン大統領はウクライナ東部のロシア系住民を“ウクライナ政府の虐殺から解放する”目的で特殊軍事活動を始めた。そしてロシア軍は最初は北部キーウ、東部、南部とウクライナ全土で軍事活動を展開させたが、キーウの奪回は成功しなかった。ロシア軍は現在、東部を中心に攻勢をかけている。東部掌握が出来なかった場合、国民ばかりか軍部関係者からも、『何のために戦争をしているのか』といった疑問を受けることになる。プーチン氏は最低限、東部地域を占領しなければならない。そのために全力を投入するはずだ」と考えている。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシア軍が東部地域の占領で攻勢を集中してきた。ロシア軍の攻撃に反撃するためには重火器が必要だ」として、欧米諸国に武器の供給を重ねて要求。マンゴット教授は、「ウクライナ側の要求は当然だが、欧米側がウクライナ側が戦争に勝利できると確信しているならば最新の武器を早急に効率よく供給すべきだが、そうではない場合、戦争を長期化させるだけで、さらに多くの犠牲が出ることになる」と説明している。

欧米諸国はロシア軍のウクライナ侵攻を受け、厳しい対ロシア制裁を実施中だが、同教授は、「ロシア指導部は依然、制裁の効果を感じていないが、国民経済には既に影響が出ている」と指摘した。

国際通貨基金(IMF)によると、今年の世界経済は更にゆっくりと成長すると予想している。特に、ウクライナ戦争の影響もあって、エネルギー価格と食糧価格が上昇し、2022年のインフレ率は上がり、ここにきて新型コロナウイルスのパンデミックから回復傾向にあった世界経済にブレーキがかかっているからだ。IMFの新しい予測では、今年世界で3.6%の成長しか期待できない。1月に想定されていた成長率よりも0.8ポイント下方修正している。ユーロ圏の成長率は2.8%と1.1%ポイント低くなると予想している。ロシア経済は今年1月に比べて11.3ポイント低下し、8.5%のマイナス成長に陥ると受け取られている。ロシアは石油、ガス、金属の主要な供給国であり、ウクライナとともに小麦とトウモロコシの主要な供給国だ。これらの商品の供給が減少したことで、価格は大幅に上昇してきたわけだ。

最後に、イギリスの軍事歴史学者ベイジル・リデル=ハートは、「平和を欲するならば、戦争を理解せよ」という言葉を残している。ウクライナ戦争が何を意味するのか、それを理解することが平和を取り戻す第一歩となるかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年4月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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