ロシアが目指すこと

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ウクライナの侵略が始まってからもうすぐ2か月となります。この間、プーチン大統領の目指すことは何なのか、はテーマの一つとなっていましたが、プーチン氏がそれに言及しないこともあり、専門家の間では様々な意見が出ていました。プーチン氏が目指すことが分かればそれが落としどころになり、停戦に持ち込む重要な交渉手段になります。このひと月半、メディアは戦況を伝え続けてきましたが、「ロシア版大本営」の意図する分析は少なかったように感じます。

私もこの話題からは遠ざかっていたのですが、私なりに感じることがうっすらと見えてきたので皆様と考えをシェアしたいと思います。

当初、プーチン大統領の真意はゼレンスキー大統領潰しにあるのではないか、とされました。それはゼレンスキー氏が西側寄りでNATO加盟に前向きだったから、ともされます。それは確かにありそうですが、それだけだったのでしょうか?

リチャードハース氏が「The World 世界の仕組み」という著を出しています。ハース氏はブッシュ政権の大統領上級顧問ほか政権の中枢で外交に従事し、現在、外交問題評議会会長職です。2021年に発刊されたこの書にはロシアはウクライナと厳しい関係にあると再三述べています。ロシアにとってはクリミア侵攻は序章に過ぎなかったとも取れ、虎視眈々とそのチャンスを狙っていた、とも言えます。

明治政府が樹立したばかりの頃、西郷隆盛が征韓論を打ち出しました。この征韓論を字の通り朝鮮半島を制圧するという意味に捉えると間違いになります。西郷隆盛は南下するロシアが朝鮮半島を押さえれば日本はロシアに喉元に刀を突き付けられるようなものだ、だから、朝鮮半島を開国させ、近代化と国力強化を施し、橋頭保にせねばならぬという論理でした。ロシアは不凍港を求めて南下する、これが1800年代から1900年代にかけて変わらぬ姿勢でありました。

クリミア半島はロシアにとって西側の南下ルートの確保であり、絶対に譲れないところでした。故にクリミア侵攻を行ったのがハース氏の論点も含め、第一弾だったとすればロシアは東部ウクライナを制圧し、クリミア半島との連結化が第二弾である今回の目的はほぼわかっていたとも言えます。私も今回の侵攻前に「ロシアが今回攻めるとしてもドニエブル川東岸まで」とこのブログで述べていました。

以前、コメント欄でちらっと述べたのですが、ロシアの戦略失敗の発端はベラルーシが協力するとしたことです。これでロシアは色気を出したと考えています。ベラルーシ国境からキーウは近いので一気に全部落とす、としたわけです。が、これでは兵站が長すぎて戦略上、厳しく、私は作戦ミスだろうと述べたわけです。事実、その後、ロシア軍は東部に集中すると作戦変更となりましたが、ロシアにとってはキーウに向けた戦力が無駄でした。但し都市機能をマヒさせる点では思惑通りなのかもしれません。ここは私には判断がつきません。

さて、本題に戻しますが、プーチン氏の本音は何処にあるのか、私の答えはズバリ、NATOだとみています。西郷隆盛が日本の喉元に刀を突き付けられるが嫌だったようにロシアにとってNATOは絶対的なアレルギーであります。この意味は北方領土返還交渉が全くうまくいかなかったことを想像して頂けば推測できるかと思います。

プーチン氏が安倍元首相と交渉していたころ、ロシア側の懸念はアメリカ軍にあると述べています。つまり、仮に北方領土を返還すれば、日米同盟に基づき、アメリカが入り込む大義名分ができる、それは困る、と意思表明しています。とすれば、北方領土交渉ではアメリカがそこに乗り込んでこない確証を出せば交渉の行方は変わっていたかもしれません。が、外務省アメリカスクールは「そんなこと、とんでもない。アメリカ様に足を向けて寝るようなものだ」という姿勢で、アメリカも「日本よ、お前はロシアに屈するのか」という上から目線だったと理解しています。

NATOがプーチン氏の喉元の刀だとします。今回、スウェーデンとフィンランドがNATO加盟に意欲を見せています。これはプーチン氏を更に刺激するでしょう。一つだけ確かなことはプーチン氏はウクライナ侵攻に於いてまだ本格的な飛び道具をあまり使っていません。効力の高い飛び道具を温存しているとみています。それは当然、欧州の方に向きます。これは欧州にとって非常に大きな危機感です。またそれは欧州を全面的に巻き込む戦いになり、プーチン氏が勝ち負けではなく、破れかぶれになるのが最も怖いところだと思います。

ところでフランスの大統領選挙の行方はこの戦局をがらりと変える可能性があります。4月24日の決選投票において仮にルペン氏が大統領になれば「フランスはNATOから撤退する」と述べる公算が高いからです。フランスがNATOのテンションを下げればロシアは軟化するかもしれません。理由は厳しい判断を迫られるドイツも軟化する公算が出てくるからです。そもそもハンガリーが既に欧州の足並みを崩す役割をしている中で構図が変わるシナリオは机上ではあり得ると思います。

今回の問題の落としどころはNATOとロシアの妥協点ではないでしょうか?欧州が何らかの形での合意点を見出せば、今回の戦争は停戦に持ち込めるとみています。プーチン氏はウクライナ問題はトリガー(引き金)であって本質はNATOにあると私は考えており、そうすれば概ね、腑に落ちます。

但し、欧州の妥協はアメリカの地団駄になるでしょう。それはとりもなおさず、バイデン政権の敗北であり、秋の中間選挙がより厳しいものになります。その間、中国は習近平氏が第三期目を決めるわけで世界のオセロの色は全く読めないものになるというのが更にその先の机上の論理ではないでしょうか?

今はプーチン氏がこれ以上の無謀な行為をしないよう欧州による外交戦略的な立ち回りが必要だと考えています。その際、誰が交渉の顔役になるのか、これが今の欧州ではパッと思い浮かばないのが悩ましいところではあります。これは私の無知であればよいと思います。いずれにせよ、私は4月24日のフランス選挙結果次第での戦局になると考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月17日の記事より転載させていただきました。

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