応援したい気持ちが暴走、名誉毀損で開示請求も–VTuberへの誹謗中傷が増加する理由

CNET Japan

 VTuberの人気が止まらない。VTuberとは2Dや3Dのキャラクター(アバター)を使って活動するYouTuberの総称だ。ユーザーローカルの発表によると、VTuberは2017年12月から増え始め、2021年10月時点で1万6千人を超えている。

 「推しているVTuberがいる」という人が増える一方で、VTuberへの誹謗中傷案件も増えているようだ。VTuberへの誹謗中傷の実態と背景について見ていこう。

VTuber同士の訴訟、名誉毀損で開示請求も

 VTuberグループのにじさんじに所属する夢月ロアさん(チャンネル登録者数35.3万人)が、デマを流されたことによる名誉毀損罪を訴えて、発信者情報の開示請求を行った。2022年3月、東京地裁は「中傷は名誉毀損と言える」と、プロバイダーに対して情報開示請求を認めている。

 夢月さんは「人間にイタズラするために魔界からやってきた13歳の悪魔」という設定のキャラクター。後輩VTuberである金魚坂めいろさんとの口調のかぶりから、トラブルに発展。金魚坂めいろさんが“卒業”という形で決着したと見られたが、事態はおさまらなかった。

 物申す系VTuberとして知られる鳴神裁さんのチャンネルで、夢月さんが名指しで批判される動画が公開。「夢月ロアが金魚坂めいろをいじめていた」とされてしまったのだ。実際は、夢月さんは話し合いの姿勢を見せていたことが分かっているが、いじめの噂が広がった結果、夢月さんのもとへ「首つれ」「辞めろ」などの中傷が1万件以上寄せられることに。鳴神さんのチャンネルは現在、YouTube側よりアカウント停止処分を受けている。

 騒動に対して、にじさんじ運営から経緯について発表されるなどしたものの、夢月さんは2020年秋から実質的な活動休止状態となっていたというわけだ。

 開示請求を認めたことを取り上げた記事は、「キャラへの誹謗中傷も誹謗中傷と認められる」などと話題になっていたが、この結果は当然のことだ。夢月さんが誹謗中傷デマによって中傷の嵐に巻き込まれたこと、それによって心身や生活に大きな影響が出たことは事実であり、見逃せない問題だろう。

応援したい気持ちが暴走して攻撃

 こんな事件も起きている。4月、キャラクターを用いてYouTube配信をしているゆにクリエイトに所属する、赤月ゆにさんと餅月ひまりさんは、執拗な嫌がらせを受けているとして特定のTwitterアカウントをブロックすると発表した。(一般的定義ではVTuberに当たるが、当人たちは肩書をYouTuberとしている)

 2人のツイートによると、所属会社に関する虚偽の投稿を繰り返され、業務や活動に支障が出るまでに。精神的ストレスから抑うつ状態となり、退職せざるを得なくなったスタッフも出たほか、取引先から事実確認の問い合わせや、採用活動への支障が出るまでになっていた。同時に、それまで多かった二人のコラボもしづらくなっていたという。

 該当アカウントは、「赤月さんが元気がないのは、事務所にパワハラされたりいじめられたりしているから」と決めつけて、デマや人格攻撃を1年以上ツイート。事務所宛に、「事務所と餅月さんが赤月さんを迫害している」とメールを送るなどしていた。

 該当アカウントは、自分の一連の攻撃は「赤月ゆにさんの活動内容や起業支援が手薄となり、冷遇されているのではないか。創業当時からのタレントなのだからもっと大切にしてほしい」という感情から始まったものと説明。

 しかし、発言が行き過ぎてしまい、単純な攻撃に成り代わっていたことなどを侘びている。現在は、さらなる拡散を防ぐためアカウントに鍵をかけて迷惑になりそうなコメントなどを削除した後に、アカウントの鍵を開け、謝罪ツイートを公開している。

VTuberはYouTuberと変わらない存在に

 「『VTuberだから』というのはおかしい。問題はYouTuberと変わらない」とこの話題について言っていた人がいた。筆者もそう考える。

 VTuberは顔を出さずに、トーク力だけで勝負できるところが新しい。しかし、顔出しをしないだけで、パーソナリティはそのまま反映されていることが多く、最近のVTuberはキャラと人格を切り離すことは難しいと考えるのが妥当だろう。

 VTuberは既に市民権を得ており、多くのファンを抱えている。注目を集めるために話題に取り上げるユーザーも出てくるが、取り上げ方によっては相手が傷つくことになる。さらに、一般的なアイドルのファンと同様、応援する気持ちが暴走して攻撃的になるファンまでいる状態だ。このような存在も問題だが、デマを信じて中傷するファンも問題だろう。

 VTuberはキャラクターこそ立てているが、パーソナリティが反映されており、誹謗中傷などの訴訟が成立する存在だ。VTuberに関してもデマが増えていること、情報は信頼性を確認し信頼できないものは拡散しないこと、乗じて攻撃したりしないことが大切だ。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

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