Amazonの「ドローン配達」プロジェクトが遅延や墜落事故といった課題に直面、大量の従業員が離職する事態も

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EC大手のAmazonは2013年、無人飛行機(ドローン)が注文から30分以内に商品を配達するサービス「Amazon Prime Air」を発表し、当時CEOを務めていたジェフ・ベゾス氏は5年程度でサービスを開始すると述べていました。ところが、それから9年が経過した記事作成時点でもAmazonのドローン配達サービスは展開されておらず、依然としてドローンの事故や安全性といった問題に直面していると、海外メディアのBloombergが報じています。

Amazon Drone Crashes, Delays Put Bezos’s Delivery Dream At Risk – Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/features/2022-04-10/amazon-drone-crashes-delays-put-bezos-s-delivery-dream-at-risk

Bloombergは、Amazonが2013年からの約10年間で20億ドル(約2400億円)以上を費やし、世界中で1000人以上のチームを編成しているにもかかわらず、依然としてドローン配達サービスの展開は「遠い道のり」だと指摘。BloombergはそんなAmazonのドローン配達プロジェクトについて、社内文書や政府機関の報告書、13人の現役従業員および元従業員とのインタビューに基づき、直面している課題を調査したとのこと。

Amazonは2013年、航空マニアのソフトウェアエンジニアであるGur Kimchi氏を「Amazon Prime Air」担当ヴァイス・プレジデントに任命しました。Kimchi氏はプロトタイプの設計において他社のドローンをベースにするのではなく、ゼロから新しいドローンを開発することにしたため、配達用ドローンの開発はかなり困難だったとのこと。この方針は、配達用ドローンの最終的な設計をコントロールすることが目的でしたが、電気モーターの磁石に銅線を巻く作業まで自分たちで行うのはかなり大変だったそうで、Bloombergが取材した現役従業員や元従業員らは、この決定が開発を遅らせたと指摘しています。

Amazonが望んだ配達用ドローンは長距離を飛行し、木々や送電線といった障害物を避け、悪天候時にも空中でホバリングできる操縦性を兼ね備えたものでした。開発チームは20以上のコンセプトを検討し、最終的にAmazonが取り扱う荷物の約85%を占める5ポンド(約2.2kg)の荷物を運ぶことができる、総重量85ポンド(約38kg)のドローンを開発することにしました。Kimchi氏はドローンの安全性を真剣に受け止めており、欠陥を修正する時間は十分に与えられ、情報共有は自由に行われていたとのこと。元従業員の1人は、「Prime Airグループはかなり強い安全文化を持っていました」と述べ、Kimchi氏らは安全性を犠牲にしてまでスピードを求めようとはしなかったと振り返っています。


ところが、安全性を重視する姿勢や開発の困難さから、Amazon Prime Airは予定より大幅に遅れることとなってしまいました。2019年、Amazonのコンシューマー部門を率いていたJeff Wilke氏は2019年の技術会議でドローンを実演し、年末までにドローン配達サービスを開始したいと考えていたそうで、ドローン開発チームとのミーティングでこの目標が共有されたものの、従業員らはこのスケジュールが非現実的だとわかっていたそうです。結局、2019年の技術会議でドローンを披露することはできたものの、Wilke氏が「数カ月後」に始まるとしたドローン配達サービスは展開されませんでした。

そして2020年、ドローンプログラムはAmazonオペレーションチームの一部門となり、Kimchi氏は2020年後半にAmazonを離れました。元従業員はKimchi氏について、「彼は過大な約束をして、それを達成できませんでした」「そうは言っても、もしKimchi氏がそれほどポジティブでなかったり、タイムラインについて野心的でなかったりしたら、Prime Airが存在していたかどうかわかりません」と述べています。

Kimchi氏の後任としてやってきたのが、ボーイングでアメリカ・サウスカロライナ州工場を担当していたDavid Carbon氏です。Carbon氏が担当していたボーイング787を製造する工場については、安全性よりも生産性を重視する傾向があると報道されていましたが、Carbon氏の着任に際してドローンプログラムの暫定マネージャーは「報道機関の言うことは信じないように」と伝達したとのこと。


Carbon氏の長年にわたる業界経験は確かにドローン開発を進展させる上で役立ったそうですが、その過程で安全性がおろそかになる事態も起きるようになったとされています。2021年、Amazonのチームがカリフォルニア州セントラル・バレーにある試験飛行場でドローンの試験飛行を行った際、一部のメンバーが「進路上に農家の人が運転するトラクターがある」ことを指摘し、連邦航空局(FAA)の規則に抵触するのではないかと心配したとのこと。ところが、チームリーダーは「ドローンが農家の真上にない限り安全だ」として、テストを実施したそうです。これに対しAmazonの広報担当者であるAv Zammit氏は、「私たちは各試験飛行を行う前に、常に試験区域をクリアにします。このケースでは、私たちがドローンを打ち上げた後で農家の車両が畑に入ったため、クルーは安全に素早くドローンを着陸させました」と述べています。

また、Amazonのドローンチームで1年間にわたり飛行アシスタントを務めていたDavid Johnson氏は、Amazonはドローンチームのフルメンバーがそろわない時でもテストを実施したため、時には1人が複数の役割を担わなければならなかったと指摘。Johnson氏は、「Amazonは非常に短い時間枠で人々に複数のことをさせ、さらにその数を増やそうとするので、人々は手抜きをしてしまいます」「Amazonは飛行を実施することにより注目しており、減速したくなかったのです」と述べています。他の2人の元従業員もJohnson氏の証言に同意していますが、Zammit氏は「クルーは飛行ごとに1つの役割にのみ割り当てられます」と述べ、Johnson氏の主張は虚偽だと否定しました。

他にも、Kimchi氏の頃は情報が自由に共有されていたものの、Carbon氏になってから情報のやり取りに制限がかかるようになったことも指摘されています。Carbon氏は、ドローンの事故映像がメディアに流出することを恐れて一部の社員しか閲覧できないようにしているほか、ある社員が安全上の懸念が隠されていることを指摘すると、「言葉の選択に気をつけるように」と注意したとのこと。元従業員は、「安全を最も心配しているのは危険な状況で飛行を行っている人で、安全を最も心配していないのはどこかの机の後ろに座っている人でした」と述べています。

結局、2021年には予定されていた「2500回の試験飛行」が達成できなかったにもかかわらず、ドローンの事故が多発したと報じられています。2021年5月にはドローンのプロペラが外れて真っ逆さまに墜落する事故が起きたほか、6月にはモーターが故障しても安全装置が作動せず、約160フィート(約49m)も垂直落下して25エーカー(約10万平方m)を焼く山火事が発生したこともわかっています。2018年までドローンプログラムの上級エンジニアを務めていたAntoine Deux氏は、Amazonのドローンは荷物を運ぶためにかなり重く設計されているため、バッテリーの重さも増す悪循環に陥っていると指摘しました。


ドローン事故が急増するとチームの士気は低下し、2021年には200人を超える人員が離職したり退職を促されたりしたそうです。2022年3月に解雇されたという元ドローンプロジェクトマネージャーのCheddi Skeete氏は、ドローンプロジェクトにおける安全上の懸念を訴える内部倫理レポートを提出したところ解雇されてしまったとのこと。Skeete氏は、「Amazonが安全問題を真剣に受け止めるには、誰かが死んだりケガしたりしなければならないでしょう」とコメントしました。

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