【井上繁樹の最新通信機器事情】Wi-Fiルーターの置き場所で速度は変わる?検証してみた

PC Watch

 Wi-Fiは随分と速くなった。まだ誰もが使っているというわけではないが、Gbps台の速度が出る製品も珍しくない。けれど電波には弱点がある。距離によって減衰し、障害物の影響を受けて速度が低下する。無線LANの速度が出ないせいか、契約している通信量を越えてモバイル回線を使い込んでしまい、一家の大蔵省に雷を落とされる子弟もいるとかいないとか。

 本記事では、無線LANルーターの設置場所を変えることでWi-Fiの速度がどう変わるか、拙宅環境で速度を測定した結果を紹介する。

棚から出したら100Mbpsアップ、壁を挟むと200Mbpsダウン

 まずはわかりやすく速度測定結果の要約から。拙宅環境では無線LANルーターを棚から出して机の上に設置したところ、4m離れた地点のAndroidスマートフォンは130Mbps、Chromebookは66Mbpsの速度アップとなった。どちらも40%以上速度アップしたことになる。

 厚さ20cmの壁を挟んだ地点では、無線LANルーターを棚に収納した状態では、Androidスマートフォンは131Mbps、Chromebookは16Mbpsの速度ダウンとなった。それぞれ87%と17%の速度ダウンになる。

 また、無線LANルーターを棚から出して机に設置した場合は、Androidスマートフォンは220Mbps、Chromebookは39Mbpsの速度ダウンになった。それぞれ、78%と24%の速度ダウンになる。特にAndroidスマートフォンの速度低下が大きく、Chromebookと速度が逆転している。

 以下は速度測定結果の要約をまとめた表だ。

【表1】AndroidスマートフォンのiPerf3による下り速度測定結果表(Mbps)
ルーター設置場所 4m地点 壁越し
収納 151 20
机上 281 61
【表2】ChromebookのiPerf3による下り速度測定結果表(Mbps)
ルーター設置場所 4m地点 壁越し
収納 96 80
机上 162 123

 測定環境と詳細結果は、以降で紹介する。

速度測定に使用したソフトとハード

 電波強度の測定はAndroidの電話アプリから呼び出せるWi-Fi情報表示機能とアイ・オー・データ機器のAndroid用アプリ「Wi-Fiミレル」を使用した。接続は周波数帯が5GHz、接続規格がWi-Fi 5。

 速度の測定はiPerf3を使用した。iPerf3は、サーバーとして使用したWindows 11 PCではPowershell 7.2.2上で、クライアントとして使用したAndoridでは「Network Tools」のiPerf3機能を、同じくクライアントとして使用したChromebookではデベロッパー機能のLinux上で使用した。

速度測定に使用した環境

 測定環境は筆者自宅の2DKで以下の図の通り。屋内で電波を遮断、反射するものは紙と木でできた建具と厚さ約20cmのモルタルもしくはコンクリートの壁など。

 電波強度は、無線LANルーター「RT」の位置から0~4mはなれた5カ所に、壁を挟んだ「E」地点を加えた合計6カ所で測定した。さらに、「E」地点では人間が無線LANルーターの陰になる位置に立った場合も測定した。iperf3による速度測定は、測定地点を3カ所省略して、0距離、4m、壁越し、壁と人が無線LANを遮る場合を測定した。

 ちなみに、なぜ0~4mを測定地点に選んだかというと、4m以上離れるとリンク速度が大きく下がり出すことを事前の調査で確認していたため。理想的な速度が出ると思われる最も離れた測定地点として選んだ。

 測定に使用した無線LANルーターの設置場所は、①押入れの下のラックケース(材質は樹脂とアルミ。内部に金属の棚やケースを収納)の中、②机の上、③天袋の敷居の3カ所。それぞれ、①は電波的にかなり条件の悪い環境で、②は障害物がない理想の環境、③は壁掛けの場合に近い環境(高さ1.8m)になる。

測定環境

ベージュが壁で、オレンジが木と紙でできた建具、薄い灰色がアルミサッシ、濃い灰色が鉄製ドア、水色が窓。iPerf3でベンチマークを測定したのは★印の3地点

無線LANルーターの設置場所は、①押入れ下の樹脂製ラックケースの中、②机の上、③天袋の敷居の3カ所

無線LANルーターを収納しているラックケース。金属の棚に載せているが、フタをしているわけではない

速度測定結果

 Androidスマートフォンを使って、電波強度とリンク速度を測定した結果は以下のグラフの通り。どちらの場合も、電波強度は距離に比例して減衰していくのに対して、下りのリンク速度は4m離れても大きく下がらなかった。

 また、壁は電波強度とリンク速度の低下に大きな影響を与えていて、さらに、人間が電波を遮る位置に居た場合も同様に影響が出た。

 ちなみに、今回2種類の電波強度測定機能を使っているが、おすすめなのはWi-Fiミレルの方だ。Androidの機能として搭載されている電波強度の表示機能はリアルタイムで値が変わるので、どの値をとるべきか分かりづらいためだ。

測定環境の電波状況

無線LANルーターをラックケースに入れ押入れの下の段に収納した状態での測定結果。建具で遮蔽していないので、電波強度は減衰しているが、4mまでのリンク速度は悪い結果ではない

無線LANルーターのケーブルを伸ばして遮蔽物が無い机の上に置いた状態での測定結果

無線LANルーターのケーブルを伸ばして天袋の敷居に設置した状態での測定結果。高所に設置した分0距離から電波強度が下がるが、4mまでの電波強度は最も良い

 iPerf3による速度測定結果は以下のグラフの通り。

 下りと上りの両方を表に入れると見づらくなるため、下りのみでグラフを作成した。リンク速度は4mまで速度に変化がなかったが、iPerf3による速度測定では4mの時点でも速度が低下していることがわかる。

 壁を挟んだ地点では速度が大幅に下がり、人が遮る位置にいる場合はさらに速度が低下した。壁を挟んで以降の速度の変化は、電波強度やリンク速度の変化に近かった。人が遮る位置に居ると速度が下がるのは、人間の体の60%が電波を通しづらい水分だからだが、こうして数字で比較してみると、十分な速度が出ていない環境では軽視できない要素になることがわかる。

 面白いのは、壁を越えてからAndroidスマートフォンとChromebookで速度が一部逆転していること。搭載しているアンテナの違いが影響しているのだろうか。

 どちらの場合も、最悪の状況でもWebや動画の視聴が可能な速度が出ているが、無線LANルーターを障害物のない机の上に置いた状態以外では、もう1枚壁を越えるのは難しそうだ。

 それから、天袋の敷居に設置した場合の速度があまり伸びなかったことは意外だった。数字が伸びなかった理由として考えられるのは、①梁が電波の障害になっている、②電波は無線LANルーターから水平、あるいは球状に強く届くので、高低差がある分電波が届きにくくなっている、などだ。高低差ができる分距離が遠くなるということもあるのかもしれない。

 ただ、壁を挟んだ地点ではAndroidスマートフォンの場合、無線LANルーターを机上に置いた場合と天袋敷居に置いた場合で速度が大きく逆転しているので、天袋敷居のような高所設置にも一定の効果があるようだ。

iPerf3による速度測定結果グラフ

Androidスマートフォンの速度測定結果

Chromebookの速度測定結果。壁越しになってさらに条件が悪くなった場合でも、Androidスマートフォンよりも速度が出ている

棚に収納した場合の速度低下に注意

 無線LANルーターは、登場当初はともかく、昨今では置き場所となる家での受け入れ方がこなれてきていて、たとえば玄関の作り付けの戸棚の中にあらかじめ収納場所が用意されていることがある。冷蔵庫や洗濯機と同様に、見せないデザインで処理されるようになったと言っていいのだろうか。

 無線LANルーターとしては、収納されることは速度面ではマイナス要因だ。だから、収納する棚は電波を通しやすい素材(木や紙など)でできたものがよい。例えば、無線LANルーターを数多く販売するバッファローは、住宅部材メーカーと組んで「Wi-Fi収納」を共同開発している。無線LANルーターの収納について気になる人には参考になるかもしれない。

 今回速度を測定した拙宅の環境のように、無線LANルーターを電波的に不利な環境、例えばBlu-rayレコーダーやAVアンプなど金属部品が含まれているものが多い棚の中に収納する場合、壁を挟んだ場所では十分な速度が出ない可能性がある。モバイル回線と比べるとそれでも十分に速いので気づかず放置していることも多いのではないだろうか。設置場所を少し変えるくらいならお金もかからないので試してみる価値はあるだろう。

Source

コメント

タイトルとURLをコピーしました