小売業界最大のショーに見る、「リテールテック」の現在地:ショップトークで何が語られたか?

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小売業界で最大のトレードショーのひとつであるショップトーク(Shoptalk)が3月27〜30日に開かれた。このイベントでは、D2C新興企業のエグゼクティブたちにより、小売業界の将来像について数多くのことが語られる。

今年のイベントでは、メタバースやWeb3などのバズワードがメインストリームで使われ続けているが、ショップトークなどのイベントでは、eコマースの世界がどのように進化してきたかをかいま見ることができる。

10年前なら、マットレスや、眼鏡、そのほかの商品をオンラインで販売すること自体が珍しかったため、D2C新興企業は自社を簡単にテック企業として位置付けることができた。しかし、今日では状況が一変している。Shopify(ショッピファイ)は普段は目に留まらないバックエンドのサービス企業から、ほとんどのD2Cブランドのウェブサイトを運営するeコマースの支配者へと変貌を遂げた。その結果、テックD2C新興企業への投資を検討する話し合いのほとんどは、何をさておいても、Shopifyと統合できるかということが重視されるようになった。オンライン売上がパンデミックの最盛期と比較して伸び悩むなか、ライブストリーミングやSMSベースのコマースなど、よりユニークでパーソナライズされたオンラインショッピング体験を実現するための技術への投資を検討する企業も増えてきているようだ。

Shopifyの成長

ショップトークのようなイベントでは、ベンダーが自社サービスを、成長を模索しているD2C新興企業に紹介するチャンスがある。今年は特に、eコマース業界が成熟期に達し、創業者たちはさまざまな検討を重ねながら、新しいタイプのサービスが提供されるようになった。

eコマース分野のベテランであり、現在はスキンケア新興企業のソフトサービシズ(Soft Services)の共同創設者でCEOを務めているレベッカ・ジョウ氏は、同氏が10年近く前にこの業界で働きはじめたとき、D2Cブランド向けのテックベンダーは選べるほど多くなかったと述べている。ジョウ氏はソフトサービシズを立ち上げる前はコンサルタントとして勤務し、グロシエ (Glossier)のデジタルプロダクト責任者も務めた。グロシエは今年初め、テックチームの大多数をレイオフしたことでニュースになった。同社は創設当初、Shopifyを使用せずに独自のウェブサイトを作成していた。5〜10年前には、ベンチャーの支援を受けたD2Cスタートアップ企業がこのようなテック重視の方針を実行するのは珍しいことではなかったと、ジョウ氏は語っている。

ジョウ氏は次のように述べている。「独自性を持ち、顧客にとって特別な体験が得られ、しかも、バックエンドでカスタマイズできるようなウェブサイトを構築するため、どのような選択肢があるのかということが、当時はまだ明確でなかった。当時のShopifyはまだ、家族経営レベルの小規模企業向けのソリューションと考えられていた」。

それ以降の年月に、ShopifyはD2C消費者ブランドにもっとも選ばれるホスティングサイトになり、100万を超える出品者が同社を使用している。このため、新たなテックD2Cブランドがどのような技術に投資するかを決定する際には、何よりもShopifyと簡単に統合できることが重視されると、ジョウ氏は語っている。

ライブストリーミングへの関心

D2C新興企業が注目するもう一つの大きな関心事は、顧客獲得コストを削減と、新規顧客獲得のためのFacebookへの依存度を減らすことだ。そのため、D2C新興企業のあいだで現在注目を集めている技術、たとえばゼロパーティーデータ収集ツールは、D2Cブランドがその目的を達成するために役立つと称している。

CBインサイツ(CB Insights)の小売テックアナリストであるローラ・ケネディ氏は、ショップトークでの初日の対話によって、「eコマースが向かう方向、つまり、eコマースはシンプルで高速であるという基本的な考えを超えていくこと」が明確になったと述べた。「今では誰もがそれを知っているし、期待していると思う」。

しかし同氏は、「注目を集めつつある技術、そして、間違いなくここで注目されている技術は、デジタルでのショッピングをより魅力的なものにするだろう」と付け加えている。

ケネディ氏は、例としてライブストリーミングを挙げている。「米国において、ライブストリーミングには多くの可能性があるという感覚はまだあると考える。アジア諸国とは多少異なるだろうが、これに関しては多くの期待があるだろう」。CBインサイツのデータも、その認識を裏打ちしている。ソーシャルコマースの新興企業への出資は、その多くがライブストリーミングの新興企業だが、2021年の年末には過去最高の70億ドル(約8610億円)以上に達した。

ファイアワーク(Firework)は小売業者が自社ウェブサイトでライブストリーミングを行うことを支援する新興企業で、昨年5月にアメリカン・エキスプレス(American Express)主導で5500万ドル(約67億7000万円)のラウンドを調達した。コレクターズアイテムを中心としたライブストリームショッピングの新興企業であるワットノット(Whatnot)も昨年多くの資金を獲得し、1億5000万ドル(約185億円)のラウンドを発表し、同社の評価額は昨年9月に10億ドル(約1230億円)を超えた。

ケネディ氏は、ライブストリーミング、また、テキストベースのコマースや人工知能など、ショッピング体験をパーソナライズするためのほかの技術への関心が集まっている要因のひとつは、eコマースの成長が困難になってきていることによるものだとしている。米国商務省のデータによると、2020年から2021年にかけてeコマースの売上は14.2%増加しているが、その前年における31.8%よりも成長は減速している。

同氏は次のように述べている。「オムニチャネルの世界では、実店舗が依然として売上の大部分を占めているが、eコマースは成長を推進する原動力だ。コマースの成長を維持する方法を探す必要がある」。

重要なのは顧客の課題解決

バズワードや新技術が飛び交うなかで、創設者たちは目新しいものと、中核となるビジネスの目標とのバランスを取ろうと試みている。ジョウ氏は、ソフトサービシズの重点的な取り組みとして、さまざまなランディングページを試し、どのようなクリエイティブや商品の表現が最高のコンバージョン率をもたらすかを調べることだと語っている。同氏は、Web3や拡張現実などの新技術を試すつもりはあるが、そのような新技術は既存の顧客の問題を解決できなければ意味がないと語っている。

「私が考えるのは、自分なら何に参加するか? ということだ。そして、自分自身が実際にワクワクし、我々の会社のコアバリューを際立たせるものは何なのか、つまりそれが、身体の皮膚トラブルを解決する手助けをしたいということにつながっているのだ。そして、その助けになる技術があれば、当社はそれをテストしてみるつもりだ」。

しかし最終的には、「顧客には、Web3を採用した最初のブランドとしてではなく、もっとも効果的なボディ商品を製造する会社として認識してほしい」とジョウ氏は述べている。

[原文:DTC Briefing: At Shoptalk, the retail tech landscape pounces on the DTC boom]

著者:Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Shoptalk

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