メモ
冷戦時代にソビエト連邦が使用した自動核兵器制御システムが「死の手」です。この死の手はソビエト崩壊後のロシアでも引き続き使用されており、ウラジミール・プーチン大統領が死ぬと自動で発動するといわれています。
Dead Hand – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Dead_Hand
Dead Hand | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=30908316
何らかの警報・異常があった際にシステムを発動し、致命的な状態を導くシステムあるいはその思想をフェイルデッドリーと呼びます。このフェイルデッドリーの一種としてロシア政府が運用しているとされる自動核兵器制御システムが、「死の手」です。「死の手」は指揮系統に事前入力した最高権威命令を戦略ミサイル部隊に送信することで、大陸間弾道ミサイルの発射を自動で実行可能にするというもの。核攻撃に関する振動・光・放射能・圧力などをセンサーが検知した場合、指揮系統が完全に破壊されていても、「死の手」があれば核攻撃が可能となります。
「死の手」は「ペリメーター」という名称でも知られており、敵の攻撃により指揮系統や戦略ミサイル部隊との通信が途切れてしまっても、バックアップ通信システムとして機能することが意図されています。これらの機能を実現するため、「死の手」は全自動で機能するよう設計されており、人間の関与がない報復攻撃を可能にします。
開発者のウラジミール・ヤリーニッチ氏は、「死の手」について「国の指導者による検証されていない情報に基づく性急な判断に対する緩衝材としての役割も担っている」と語っています。具体的にどういうことかというと、核兵器の危機にさらされた指導者はシステムを起動して待つだけで、攻撃に対応すべき指揮権限を持った要人がすべて殺害されても、「間違った報復攻撃」を防ぐことが可能というわけです。
ソビエト連邦が「死の手」のような自動核兵器制御システムに関心を持ったのは、1980年代にアメリカが高精度の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を開発したためといわれています。それまで、アメリカはほとんどの核兵器を長距離爆撃機や大陸間弾道ミサイル(ICBM)で運搬していました。さらに、それ以前のアメリカの潜水艦発射ミサイルは、1960年代のUGM-27 ポラリスや1970年代のUGM-73 ポセイドンのように、相手の攻撃に対する反撃として使用するには「精度が悪すぎた」そうです。そのため、SLBMは精度がそれほど重視されていない都市攻撃用に活用されており、発射から着弾までに30分以上の時間が発生する点が欠点でした。
しかし、その後登場したトライデントC4やD5のような高精度SLBMは、陸上基地で運用されるICBMと同程度の精度を持ちながら、潜水艦に搭載できるミサイルであるため「敵の海岸に密かに接近し、至近距離から高精度の弾頭を発射する」といった運用が可能となりました。このような運用方法ならば、発射から着弾までの時間は3分未満にまで短縮可能となり、相手による反撃や報復の可能性を小さくできます。
こういったICBMやSLBMの進化に対応するために開発されたのが、ソビエト連邦の「死の手」です。同システムはSLBMやICBMが発射されてから着弾するまでの短い時間に行わなければならない意思決定において、政治・軍事の指導者による誤判断を防ぐことが可能。実際、「死の手」の開発者であるヤリーニッチ氏も、同システムの開発理由を「間違った報復攻撃を防ぐため」と語っています。
「死の手」が運用され始めた正確なタイミングは不明ですが、その存在が明らかになったのは1990年代初頭にソビエト連邦軍と同国の共産党中央委員会の元高官たちがその存在を認めたタイミング。その後、政府の元高官が「死の手」の運用を認める発言を行ったり、否定する発言を行ったりとバラバラなため、ロシアが実際に「死の手」を運用しているか否かは不明です。
それでもプーチン大統領は現在も「死の手」を運用しているとウワサされており、ロシアがウクライナへの侵攻を始めた際には、ロシアの非政府系通信社であるInterfaxが「プーチン大統領の命令のあと、ロシアの核軍が警戒態勢に入った」と報じています。この報道を受け、Hacker Newsのあるユーザーは「この報道はプーチンが死の手システムを起動したということだろうか?」と書き込みしています。
なお、「死の手」についてはデイビット・E・ホフマン氏が書籍化しているので、より詳細な情報を得たい場合は以下の書籍を参考にしてください。
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