真空管の忘れられたライバル「磁気増幅器」とは?

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By Doodybutch

真空管に敗北してほぼ使われなくなるもドイツが突如としてV2ロケットに採用して復権を果したものの、今度はトランジスタに敗北してまた使われなくなった……という増幅回路の一種「磁気増幅器」の栄枯盛衰について、アメリカ電気電子学会の学会誌であるIEEE Spectrumが解説しています。

The Vacuum Tube’s Forgotten Rival – IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/the-vacuum-tubes-forgotten-rival

入力信号のエネルギーを増幅して出力する増幅回路は、古くは三極真空管、現代では電界効果トランジスタ(FET)が主流です。信号の増幅機構については、三極真空管は陽極と陰極の間に挿入された第三の極に電圧をかけて信号を増幅させている一方、FETもソースとドレインという端子2種の間に接続された第三の端子・ゲートに電圧をかけることで信号を増幅させているため、この三極真空管とFETは仕組み自体はよく似ています。

FETと三極管のはなし: SUDOTECK
http://sudoteck.way-nifty.com/blog/2012/05/fet-71d4.html

他方、磁気増幅器は電圧ではなく磁界を利用するという仕組みから、三曲真空管やFETとは大きく異なる増幅回路となっています。基本的な構造は、鉄心のようなコア材に巻き数の多いコイルと巻き数の少ないコイルを接続し、巻き数の多いコイルは負荷と直列になる形で交流回路に接続し、巻き数の少ないコイルは直流回路に接続。こうしてから直流回路に電流を流してやると、コア材内部の磁束密度が増加してインダクタンスが急激に上昇しますが、磁気飽和と呼ばれる状態に至るとインダクタンスが突如低下するため、交流回路側に流れる電流が増大して増幅器として機能します。

IEEE Spectrumによると、この磁気増幅器は1901年にアメリカで特許が出願され、1916年までに大西洋横断通信に用いられたアレキサンダー型交流発電式送信機に用いられるという形で実用化されましたが、1920年には真空管の技術革新を受けて低迷。その後は劇場の調光器などごくごく一部に用いられるにとどまりましたが、第二次世界大戦中にドイツはニッケルと鉄を1対1で配合した合金をコア材にした場合に性能が飛躍的に向上することを発見し、世界初の軍事用液体燃料ミサイルであるV2ロケットに採用して磁気増幅器が復権を果たました。

磁気増幅器は真空管では不可能な高温などの特殊環境下でも燃え尽きることなく動作するという利点があり、その後もドイツ軍は磁気増幅器を搭載した兵器を多数投入。アメリカも第二次世界大戦終結後に遅れてこれを採用し、1950年代には自動操縦装置、射撃統制装置、サーボシステム、レーダー・ソナー機器などの兵器で磁気増幅器の採用例が増え続け、1961~72年のアポロ計画では電源や送風機の制御に磁気増幅器が用いられることとなりました。

by NASA’s Marshall Space Flight Center

こうした国家規模の研究開発以外の場でも、磁気増幅器は多数の技術革新を生み出しており、コンピューターの黎明(れいめい)期に多用された磁気コアメモリも磁気増幅器を用いたハードウェアでした。こうして磁気増幅器は増幅回路を代表する存在となりましたが、1950年頃に「トランジスタ」が登場。磁気増幅器とトランジスタが覇権を争う時代が続き、磁気増幅器とトランジスタを併用するコンピューターも多数登場しましたが、改良を重ねるトランジスタの前に勢いを失い、1970年にはほとんど用いられない規格に。1990年頃にはPCのATX電源で必要とされる3.3Vの安定化電圧を生み出す際に単にコスパが良いという理由から磁気増幅器が一時的に復活しましたが、そのコスパ面でもDC/DCレギュレータに敗北し、現代ではほとんど見ることのない存在と化しているとのことです。

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2022年03月28日 23時00分00秒 in ハードウェア, Posted by log1k_iy

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