戦争知らぬ世代の核武装論を危惧 – 毒蝮三太夫

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ロシアによるウクライナへの侵攻は、プーチン大統領が核兵器の準備も匂わせたことで、日本では平時では聞かない発言がよく聞かれるようになった。いわゆる核兵器への言及だ。ちょっと編集部、そういう発言を紹介してくれる?

編集部)――まず、安倍晋三元首相がフジテレビの番組に出演した際(2/27)、アメリカの核兵器を日本に配備して共同運用する核共有政策について「日本でも議論すべきだ」との発言がありました。続いて、大阪市長で日本維新の会の松井一郎代表が(2/28)、アメリカとの核兵器共有について「議論するのは当然だ」と述べ、「非核三原則は戦後80年弱の価値観だが、核を持っている国が戦争を仕掛けている。昭和の価値観のまま令和も行くのか」との発言がありました。

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安倍さんはついこないだまで日本のトップに立っていた人だし、松井さんは大阪のトップと言っていい人だ。人は平時よりも非常時のほうが本当の姿が見えると言うよ。だから、これらの発言はふたりの本心なんだろうね。

だけど、政治家としてとても影響力がある彼らの発言は、非常に怖いことを言っていると俺は思う。日本が歩んできた近代を本当に理解した上でこういう発言をしているのだとしたら、安倍さんも松井さんも国民の命を随分と軽く見てるように感じるよ。

言わずもがな、日本は戦争でアメリカから広島・長崎に原爆を落とされた。核兵器による世界で唯一の被ばく国だ。原爆という核兵器で亡くなった方は大変な数だよな、そのデータはある?

編集部)――原爆による広島と長崎の死没者は、当日亡くなられた方、その後、後遺症を抱えて亡くなられた方、すべて合わせると現在までに50万人を超えています。

日本は核兵器の悲惨さを最も身近に知る国だ。その甚大な被害を踏まえた上で、核兵器の無い世界を望む思いから日本は核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則を掲げて世界に示した。

安倍さんや松井さんは、その歴史をどう見ているんだろうね? ふたりとも「時代が変わったんだからそろそろ考えを変えましょう」と言いたいようだけど、日本の歴史を振り返ったら、とても俺には受け入れられないよ。安倍さん、松井さんはいま何歳だったかな?

編集部)――安倍さんは1954年生まれの67歳、松井さんは1964年生まれの58歳です。

ふたりとも戦争を体験してない世代なんだよな。戦争に対する感覚がどこか机上の空想みたいな感じなのかな。

俺は9歳の時に米軍の空襲で東京の街が無惨に燃やされる現場にいた。昭和20年5月24日の城南の大空襲だ。この肌で感じたあの夜の空気をいまも覚えてるよ。だから心から戦争を畏れてる。大義がどうあれ、結局は軍隊が無抵抗の民間人を殺りくすることになるんだ。

だからね、戦後77年、紆余曲折があったけど、日本という国が一度も戦争をすることなくここまで来たことを、本当に素晴らしいことだと思っているよ。戦争による新たな犠牲者を生まなかったんだから。

でも、安倍さんや松井さんの発言からは戦争への畏れが感じられないし、日本が歩んできた歴史への謙虚さも感じられないな。

核兵器を持つという「簡単な選択」

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あのね、「あっちが武器を持っているから、こっちも同じ武器を持って備えよう」という考え方はとても簡単なんだよな。とても簡単だから、暴力団もヤクザもマフィアもギャングもみんなそうする。相手との関係は暴力の量が基準。その結果ぶつかりあってしまう。

一国の政治家はそんな簡単なことをするために存在するんじゃなくて、もっと難しいことを考えて成し遂げるために存在するべきなんじゃないの?

「あっちは武器を持っていて、こっちは武器を持っていない。今後お互いに争わず、友好に握手し続けるにはどうする?」…そんな難しい問題に取り組んで、知恵を働かせ、汗をかくのが政治家の存在意義であってほしいよ。

最大の防衛は対立しないこと。そのためには寛容になること。寛容になって許すことだ。この「許す」というのが人間の感情としてとても難しい。でも、その壁を越えないと未来永劫いがみあって、その結果、傷つけあうことになる。

理想論を言っているように聞こえるかもしれないけど、この「許す」という行為が具現化したひとつが日本の「非核三原則」だと思うんだよ。日本はそういう歴史を持つ国なんだよな。

武器に対して武器を持つ選択は簡単。それに核兵器ってなんの生産性もないよね。平和利用も一切できない。核兵器を保持するってことは、色んなことを削ぎ落としてみれば、核兵器にかかる莫大な軍事費を国民が税で負担して、そこに関わる軍事産業が結果的に潤うという話だ。

そして現実には、プーチンのような人が隣国を脅すためにそれを使っている。ロシアの核兵器って、ロシア国民のためにあるというよりは、プーチンを始めとする一部の人のためにあるように見えるよ。

思いつきのパフォーマンスで現場は混乱する

BLOGOS編集部

さっきも言ったけど、人は平時よりも非常時のほうが本当の姿が見えると言うよね。話の流れで安倍さんと松井さんの名前が出てきたから触れるけど、コロナという非常時になって安倍さんと松井さんがしたことって記憶に新しいだろ。

安倍さんは国民にあのアベノマスクを配った。その結果どうなったか…。なんだかうんざりしちゃうよな。松井さんは医療用の防護服が不足したコロナの初期に、代用品として雨ガッパの提供を市民に呼びかけた。その結果どうなったか…。ちょっと編集部で説明してくれる?

編集部)――大阪市ですが、2020年4月に松井市長の呼びかけで約36万着の雨ガッパを集めました。一部を医療機関に配布したようですが、元々医療用ではない雨ガッパを送られた医療機関が、それをウイルス防護の現場で使ったかは不明です。なお、雨ガッパ収集の1~2ヶ月後には通常の医療用防護服が供給されるようになったようです。

BLOGOS編集部

これ、集められた大量の雨ガッパを前にした大阪市の職員はどう思っただろうね…。ただでさえコロナ対応で大変なのに、雨ガッパの管理という仕事がトップダウンで降ってきたわけだろ。

阪神・淡路大震災でも東日本大震災でも経験したけど、いわゆる支援物資って、とても繊細なんだよ。使い古しの古着や毛布が全国から送られてきたって話があったよな。可哀想だからとにかく送ってあげようという善意は、結局は善意の押しつけで、逆に現地にとっては足かせになる。悪気は無くてもその結果、物資を運ぶ人、仕分けする人、最終的に不用品としてゴミ処理する人、色んな人の手を煩わせるんだ。

安倍さんも松井さんもパフォーマンス優先で、本当にそれを実施したらどうなるか…というシミュレーションが追いついてなかったと思う。これって戦争だったら、安倍さんも松井さんも最高司令官の立場で「兵站」の指示を出して、戦地の最前線に「あまり使えないもの」を大量に送った、そんな話だよね。安倍さんと松井さん、コロナでの指揮官ぶりを振り返ると「うーん…」って首をひねっちゃう。

BLOGOS編集部

俺が尊敬する円谷英二さんは「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」という作品に「地球は地球人で守れ」という大きなメッセージを込めた。宇宙から俯瞰すれば地球という星は、大国同士が核兵器を持って牽制しあう実に愚かな星に見えると思う。宇宙人の視点なら「地球ってなんて攻めやすい状態なんだろう」とナメられてるに違いない。

日本も核兵器を持とうという議論は地球にとって退行でしかないよ。繰り返すけど、核兵器を持った国の暴走を止めるのは核兵器だという考えは簡単なんだ。どんなに理屈を並べても、「そっちが持つならこっちも持つ」という選択に安らかな未来はない。難しいだろうけど、これからいかにして核をやめるか、核兵器を廃絶するか、そこに向かっていくことが地球と人間の進化だと思いたいな。

(取材構成:松田健次)

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