巧妙化するカルト宗教の勧誘手口 – PRESIDENT Online

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春は、若者が新大学生や新社会人として新たなスタートを切る季節。そうした若者を狙うのが、「カルト的集団」だ。日本脱カルト協会代表理事で立正大学教授の西田公昭さんは「カルトはSNSを駆使しており、勧誘の手口は年々巧妙になっている。『カルトが近づいてきたらすぐわかるはず』『そんなに簡単に取り込まれるはずがない』とは思わない方がいい」という――。

サイバー犯罪の被害者※写真はイメージです – 写真=iStock.com/tadamichi

大学生は狙われている

近年、ますます巧妙な手口で若者を狙うカルト的集団の勧誘が増えてきています。カルト的集団とは、一見よい活動をしているように見せかけながら、メンバーやその知人に対してさまざまな悪質行為を行う集団のこと。悪質行為の例としては、自由の剥奪、私生活への干渉、批判の封鎖、リーダーへの絶対服従などの人権侵害が挙げられます。

大学生、特に入学したばかりの1年生は、カルト的集団から見れば“魅力的なカモ”です。新しい環境に夢や期待がふくらみ気も大きくなっている一方で、新生活に不安も抱えています。初めて親元を離れ、一人暮らしをする人もいるでしょう。実は表面的なものに過ぎないのですが、優しく親切に手を差し伸べてくれると、よく知らない人にでもつい頼ってしまいがちです。

また、10代から20代前半は、人生設計がまだ定まっておらず、自分の将来に漠然とした不安を持ちやすい「人生の探索期」。加えてコロナ禍以降に入学した学生は、キャンパスなどで深く他者と交流する機会もほとんど与えられていません。友だちをつくれず孤独感を抱えている学生は、非常に狙われやすい存在なのです。

SNSの「#春から○○大学」に紛れ込む

カルトはその不安や孤独感につけ込み、巧妙な手口で勧誘してきます。以前はキャンパスで、サークル勧誘などを装って声をかける手口が主流でしたが、最近はSNSでの勧誘が圧倒的に多くなっています。例えば、今どきの若者は、進学する大学が決まるとSNSに「#春から○○大学」というハッシュタグを使って投稿する子が少なくありません。

そうやって入学前から友だちをつくろうとするわけですが、つながった相手の中にカルトのメンバーがこっそりと紛れ込んでいることがあるのです。

「カルトなんて、すぐわかるんじゃないか。言動から怪しいと気づくだろう」と思うかもしれません。しかし、声をかけてくる本人も自分の所属する団体がカルトとはこれっぽっちも思っていないですし、SNS上で相手がカルトかどうか見分けるのは、私たち専門家でも至難の技。こうしていったんSNSでつながってしまうと、カルトは徐々に心に深く踏み込んできます。

最初の誘いの言葉としては、「楽しくてためになるセミナーに参加してみない?」「すごい先輩がいるから会ってみない?」などが多いようです。今は自宅からオンラインで参加したり会ったりすることもできますから、大学生にしてみれば安心感があり、気軽に承諾してしまいやすいのです。

次に、セミナーや会話の中で将来の夢や人生の意義といった話題を持ち出し、本人のやりたいことを応援すると見せかけながら、少しずつ集団に引き込んでいきます。そのため本人は「すごい人だな」「親切な人だな」「頼りになる人だな」となどの好印象を抱いてしまい、自分がカルトに取り込まれつつあることに気づけません。

表看板は「宗教」とは限らない

カルト的集団はその多くが全体主義的であり、集団内では個人の自由や権利は保障されません。入った人は自身の思想や行動の自由を捨てて、他のメンバーと一緒に熱狂的に集団活動をするよう求められます。また、集団に対する批判的な言動は悪とされていて、メンバーが互いに監視・密告し合うことも少なくありません。

個人のプライバシーや私生活は極めて制限され、集団活動が最優先されます。そして多くの集団にはカリスマ的リーダーがいることが多く、メンバーは“正しくすばらしい”目的達成のためには自ら進んで、喜んで服従するのが当然とされています。

これらの特徴を備えた集団がカルトです。カルトというと、かつてのオウム真理教のように宗教団体の看板を掲げた集団をイメージしがちですが、実は彼らが掲げる“表看板”は宗教に限りません。オウム真理教の事件以来、日本では小さな宗教団体が「何だか怪しい」と敬遠されるようになったため、最近ではさまざまな表看板が使われるようになっています。

「自己啓発カルト」「商業カルト」も

ボランティア団体やNPO団体を標榜することもあれば、自己啓発セミナーの主催団体を名乗ったり、スピリチュアルや癒し、瞑想といったキーワードを掲げることもあります。そうした活動やキーワードに引かれる人は必ず一定数いるので、そこを狙って勧誘するわけです。

カルト的集団が掲げる看板は、時代によって移り変わってきました。1970年代には左翼などの政治的カルトが、80~90年代には宗教的カルトが盛んでしたが、今は自分を高めたいという気持ちを利用した「自己啓発カルト」や、夢の実現資金の調達や経済的不安につけ込んでマルチ商法や投資を勧める「商業カルト」も増えてきました。

つまり、カルトと一口に言っても、彼らが掲げる看板には、政治、宗教や癒し、自己啓発、ビジネスなどがあるのです。いずれもそれ自体は違法というわけではないものばかりなので、カルトだと気づかないまま勧誘に乗ってしまう若者も少なくありません。しかし、いったん入ってしまうと脱退は難しく、結果的に将来を奪われることになります。カルトは若者の人生を壊す集団であり、大きな社会問題なのです。

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