設立2年で200以上の自治体が参加–「ワーケーション自治体協議会」が目指すビジョン

CNET Japan

 新しい働き方として注目を集めている「ワーケーション」。2020年7月に開催された観光戦略実行推進会議で、政府がワーケーションの推進を打ち出したしたことをきっかけに大きな広がりをみせ、多くの自治体がワーケーションの誘致を行なうようになった。

 他の自治体に先駆けワーケーションに取り組んでいるのが和歌山県だ。2017年度から多数の企業を誘致しているほか、2019年には長野県とともに「ワーケーション自治体協議会」も設立。世の中へのワーケーションの浸透や、他自治体へのノウハウ共有などの活動を進めている。

 和歌山県情報政策課長でワーケーション自治体協議会の事務局なども務める桐明祐治氏に、ワーケーション自治体協議会の活動内容や狙いについて話を聞いた。

声を1つに政府要望をあげる

 ワーケーション自治体協議会(通称:ワーケーション・アライアンス・ジャパン「WAJ」)は、2019年11月に設立された、自治体のみが所属できる団体だ。2019年7月に、和歌山県と長野県が全国の自治体に呼びかけるイベントを開催し、設立時には65自治体が集まった。現在は203の自治体が参加しており、2年強で約3倍まで伸びている。

WAJの呼びかけイベントの様子
WAJの呼びかけイベントの様子

 ワーケーション自治体協議会の設立のきっかけは「ワーケーションに対する問題意識」だと桐明氏は語る。「地方の取り組みは、情報発信が課題。せっかくいい取り組みをしても、なかなか都市部で認知されない。ワーケーションは全国、特に都市部に知ってもらうことが重要なので一元的な発信が大切だと思った。また、協議会を設立することで、ワーケーションの認知拡大や需要の掘り起こしも狙っている」(桐明氏)

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 上記は2020年度のワーケーション自治体協議会の活動報告だ。(1)政府要望活動、(2)Facebookを活用した情報発信、(3)会員自治体向けのオンラインセミナー、(4)ワーケーション月間、(5)経団連および日本観光協会とのモニターツアー事業の5つの項目があるが、特に注目したいのが「政府要望活動」だ。

 ワーケーション自治体協議会では、2020年7月に、ワーケーションの浸透と、地域経済のV字回復を目的に政府に5つの要望をあげている。各自治体が個別に要望をあげるより、自治体側の要望をまとめ、声をひとつにしたことで「効果はあった」と振り返る。

 たとえば、「ワーケーション施設への補助」の要望は、地方創生テレワーク交付金や、デジタル田園都市国家構想推進交付金などにつながった。

<ワーケーション自治体協議会の政府要望より抜粋>
2.ワーケーション施設整備への財政措置について

<課題>
・ワーケーションに欠かせないコワーキングスペースは、賃料収入が見込
める常勤型サテライトオフィスとは異なり、利用者数の増減により収益
が安定しないため、自治体や民間企業による整備のハードルが高い。

<要望>
・コワーキングスペースなどワーケーション関連施設・設備の整備・改修
に対する、自治体及び民間企業への財政支援及び税制優遇措置等

 また、アドバイザー制度の創設については、観光庁が実施する「新たな旅のスタイル」促進事業において、公募により選定された都市部企業や地域に対して産官学に属するアドバイザーを派遣する事業が実施されている。ワーケーションの導入に取り組む企業や地域へのノウハウ提供が進むことで、より効果的なワーケーションモデルが全国で生まれてくることが期待される。

各自治体のワーケーションの「差別化」も支援

 ワーケーション自治体協議会が設立当初より力を入れているのが「先進自治体のノウハウの共有」だ。桐明氏は「新しくワーケーションに取り組み始める自治体が、先進自治体が悩んだポイントで同じ轍を踏んでほしくない」と説明する。和歌山県や長野県は他自治体より数年早くワーケーションに取り組んでいる。ノウハウだけでなく、課題も解決方法も共有することで、他自治体がワーケーションに取り組みやすくなったという。

WAJ会員同士の意見交換会の様子(新型コロナ流行前)
WAJ会員同士の意見交換会の様子(新型コロナ流行前)

 また、民間企業や大学などから講師を招いてのオンラインセミナーも開催している。セミナーの中には自分たちの地域の魅力をアピールするピッチセッションも設けている。ピッチセッションを行なうことで、自治体が問題意識として抱えている「差別化」の答えにもつながるという。

 「ワーケーションに取り組む時の問題として差別化がある。ピッチセッションでの発表や、他自治体の魅力を聞くことで、自分の地域の長所の再認識や、観光資源だけでなく人的資源などに気づくことが多い。それが差別化につながっている」(桐明氏)

 さらに、一般社団法人日本経済団体連合会(以下「経団連」)や、公益社団法人 日本観光振興協会、日本テレワーク協会と共催で、官民参加型のツアーも開催。「Workation Collective Impact(官民参加型 地域活性化アイデアソン)」と題されたツアーは「政府内でもご関心を寄せていただいた」という。

鳥取県で実施された「Workation Collective Impact」の様子
鳥取県で実施された「Workation Collective Impact」の様子

 「官民の垣根を越えることを重視し、中央省庁にも呼びかけて官僚も参加した。コロナ禍の影響で8都道府県での開催が4都道府県となったが、地域の取り組みを知ってもらい、横のつながりもつくれた。アイデアソンよりモニターツアーの側面が強かったことは反省点だが2022年度も取り組みを行いたい」(桐明氏)

外部組織との連携をさらに広める

 桐明氏に今後の取り組みについて聞いた。強化したいのは「ノウハウの共有・情報交換」と「外部組織との連携」の2点だという。

 ワーケーションの認知が広がり、各自治体での誘致もはじまったことで「差別化」や「需要の掘り起こし」がより重要となる。自治体によっては、テレワークができる施設を用意してあるだけで地域の魅力を活かしきれていないものも多い。「ワーケーションを負の遺産にしない」ためにも、ノウハウを共有や情報交換の機会を増やしていきたいという。

 ワーケーション自治体協議会は、2020年10月に経団連と日本観光振興協会と、ウィズ/ポストコロナ時代の地域活性化と働き方改革の促進などを目的とした覚書を締結している。これが、先に紹介したツアーにつながっていくのだが、このような連携を今後も増やしていきたいという。さらに、桐明氏は「ワーケーション自治体協議会を活性化させていくためにも外部組織との連携をしていきたい」と話す。

 「ワーケーション自治体協議会の運営の大部分は和歌山県庁が行なっている。ワーケーション自治体協議会の規模や取り組みが大きくなれば、和歌山県庁だけではリソースの限界も出てくる。それに、構想はあるが取り組めていないものもあるので、今後はアウトソースできるものや自治体や企業との連携も考えていきたい」と締めくくった。

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