石破氏 韓国大統領ユン氏に期待 – 石破茂

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 石破 茂 です。

 東日本大震災・大津波・原発事故から11年が経過しました。当日の記憶はあまりに鮮明ですし、その後のことも終生忘れることはありませんが、総体としての記憶は間違いなく少しずつ風化するのであって、それに反比例させる形で災害のリマインドと防災教育の徹底を図らなくてはなりません。先週、サンデー毎日の企画で、地球学の権威であり京都大学における講義人気ナンバーワンの鎌田浩毅名誉教授と対談する機会を得た際にも、その思いを一層強く致しました。同教授のご著書「生き抜くための地震学」(ちくま新書)と「富士山噴火と南海トラフ」(講談社ブルーバックス)を改めて精読しなければならないと思っております。

 ウクライナ侵攻は今週も続き、痛ましい民間の被害が多数報じられました。ロシア・ウクライナ間の停戦交渉は、あくまで停戦交渉であり、戦争終結に向けた動きとは言えないものと思います。ウクライナのNATO非加盟、NATOのロシア隣接地域へのミサイル不配備などの条件が考えられますが、現状においてどの国がこれを仲介できるのか、ロシア・ウクライナ両国と密接な関係を有する中国はこれを担うのか、中国はそこにどのようなメリットを見出すのか、今の段階で見通すことは困難です。日本が主体的・積極的な役割を果たすべきだとの論調もありますが、それはもともと無理な注文ではないでしょうか。いかに安倍元総理、森元総理がプーチン大統領と親交が深くとも、軍事的・経済的に相当大きなディールのカードを持たなければ成果は期待できないのであり、一国の総理を務められた方々にそのような任を負わせることが正しいとは思えません。

 私も含めて、「ロシアの全面的なウクライナへの侵攻はないであろう」との多くの予測が外れたのは「まさかそのような非合理的な判断はしないだろう」との予測に基づくものでした。プーチン大統領の支持率が低下しつつあった要因の一つが、財政難による年金支給開始年齢の引き上げだったのですから、ロシアの国家財政的にもウクライナの併合は決して得策ではないと考えるのが従来の発想でした。

 これを教訓として、今後は経済制裁の効果も、核兵器の使用も、希望的かつ楽観的な予想は慎むべきと思います。我々が覚悟をもって厳しい経済制裁を続けたとしても効果がなく、むしろロシア国民の団結心を強める事態さえ招来しかねないことを予め承知しておかねばなりませんし、仮に小型戦術核が使用された場合の日本国民への影響を予測し、被害を最小限にとどめるため、万が一の場合に備えて避難場所やヨウ素剤・ヨウ化カリウムの確保など、現状を確認し、対処しておくべきです。防衛省などには状況を確認しており、自民党の部会などを通じて政府全体の対処を促すつもりでおります。

 プーチン大統領の侵略行為は決して許すことが出来ない暴挙、というフレーズを随分と聞きますが、ではそれをどう止めるのか、何をもって交渉材料とするのか、抑止に失敗した我々国際社会が真剣に考えなければなりません。プーチンは加齢により判断力が低下した、側近も離反して孤立化しつつあるなどという言説もありますが、数年前からロシアではスターリンの復権を企図しており、ロシア国内でプーシキンと並んで最も評価の高い人物とされつつあることを考えると、一定の計画性を感じずにはいられません。

 ちなみに、ルーブルの暴落を食い止めるためにロシア中央銀行は政策金利を一挙に20%まで引き上げましたが、仮に日本円にこのような事態が起きたとすれば、同様の対応は困難です。金融緩和によって日銀の当座預金残高が530兆円にも達している我が国に比して、ロシアのそれは円換算で3兆円足らずですし、国債発行額の対GDP比も日本の257%に対してロシアは18%と遥かに低い水準です。1998年に通貨危機に直面して以来、対策を講じてきたロシアとの比較は、あながち無意味ではないと思います。

 韓国大統領選挙では、最大野党のユン・ソギョル前検察総長が、得票率で1%にも満たない僅差で与党のイ・ジェミョン前京畿道知事に勝利し、5年振りの保守政権が誕生することとなりました。ユン氏は対日外交を国内政治に利用しないと明言しており、その言葉通りであることを心より期待しますし、岸田総理も最大限、韓国との関係改善に努められることと思います。

 ムン・ジェイン大統領は就任前「領土や歴史問題で日韓がすぐに一致することはあり得ないが、その他の問題では協力するべき」という「ツートラック政策」を提唱していたのですが、それが実現しなかったことはとても残念なことでした。北東アジアならびにアジア・太平洋地域の安全保障政策、首都への一極集中の弊害とその解消、過去に例を見ない急速な少子高齢化など、日韓が共に手を携えて解決すべき課題は多くあるのであって、このような課題については日本から積極的に呼びかけてもいいのではないでしょうか。

 今回の大統領選挙における投票率77%という結果は、韓国に民主主義が着実に根付いていることを示すものです。国の命運を主権者である国民が真剣に考えることの重要性を改めて思います。

 「現代ロシアの軍事戦略」(小泉悠著・ちくま新書)は今の時期、必読と思います。その他、「日本人はなぜ終戦の日付をまちがえたのか 8月15日と9月2日のはかりしれない断層」(色摩力夫著・黙出版)、「ソ連はなぜ8月9日に参戦したか 満州をめぐる中ソ米の外交戦」(米濱泰英著・オーラル・ヒストリー企画)も、今後の国際社会と日本外交の在り方を考える上において、是非とも読んでおきたい二冊です(どちらも既に絶版となっていますので、ご関心のある方は図書館などでご覧ください)。戦後日本の原点となったポツダム宣言に関して、あまりの自分の不勉強さを恥じておりますが、もう一度きちんと理解を深めなくてはなりません。

 「日本が高度の規律を維持して降伏を履行しながら、結果として卑屈で軽薄な人間集団と化してしまったのは、我々日本人が『降伏』の本質的意義、すなわち降伏の法理を正確に認識しなかったからではないかと考える」という色摩・元チリ大使の洞察は極めて深く、鋭いものです。国際法にも精通された色摩大使の一連の著作にはいつも蒙を啓かれます。

 評論家ではなく政治家なのだから本ばかり読んでいてどうするのだ、とのご指摘を頂くことも多々あり、その都度反省もさせられるのですが、知識のあまりの欠如は往々にして判断の誤りを招きかねないこともまた事実だと思います。

 週末は12日土曜日、「トカイナカ」自然塾で地方創生に関する講演と参加者との懇談会(午前11時・ときがわ町文化センター・埼玉県比企郡ときがわ町大字玉川)、自民党大会鳥取県連参加者との懇談会(都内)。

 13日日曜日、「NIKKEI日曜サロン」出演(午前9時半・BSテレ東・収録)、自民党大会(午前10時・グランドプリンスホテル新高輪)、「ゴー宣道場」での講演とパネルディスカッション(午後2時・ビジョンセンター日本橋・中央区日本橋室町)、という日程です。

 都心は三寒四温の一週間でしたが、春は確実に近づいており、今年の桜の開花は3月23日と予想されています。

 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

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