相場操縦事件:証券会社にとってガバナンスとはなにか

アゴラ 言論プラットフォーム

この事件の報に接した時、何だろうな、証券会社のガバナンスって、と思ったのですが、証券業にかかわっている方々にもそう感じた方は多いのではないかと思います。

SMBC日興証券 NHKより

企業活動はあらゆる意味で厳しく監視され、自由度は少なくなりました。3-40年前は日本も世界も企業活動はかなり「自由度」があり「さじ加減」も可能でした。「この数字、何処から出てきたの?」という話はざらで私だって墓場まで持っていかねばならないような事案も直接の担当者として経験してきました。「お前はそれが許されると思ってやったのか」と言われればそれは今の尺度と常識観であり、当時は別の社会観や企業ガバナンス観があったことは事実です。

米倉涼子が主演した「新聞記者」というネットフリックスのドラマがあり話題になりました。そこでつづられていたのは二つの社会問題です。森友問題での改ざんと死、そして残された者の真実の究明話と東京新聞の望月記者を題材にした報道の在り方とそれを抑え込む見えないチカラをフィクションとして作り上げたものでした。そのドラマを見て、多くの企業活動は数十年前とは格段にレベルが変わり、働く人たちのモラルも違った次元に成長したはずなのに実態はまだ、穴だらけだということを改めて見せつけました。

証券業界はその中でも特に「懲りない面々」だと思います。損失補填、飛ばし、仮装付替えはあたりまえで旧証券大手四社は全社が大きな社会事件を起こし、過去に話題になっています。その昔には大阪料亭の女将、尾上縫事件が日本興業銀行(現みずほ銀行)を背景にした事件もありました。投資にはど素人の料亭の女将が興銀などの資金を利用し数千億円規模の投機を行った今なら度肝を抜く話です。はたまた最近では野村證券がアルケゴス事件に絡み、3000億円以上の損失を計上しましたが、これも貸出先のデリバティブ管理が甘く、他の証券会社が手を出さないのにごく一部の一旗揚げたい野村やクレディスイスがまんまと罠にはまってしまったという事件です。

どの証券会社も儲けたい一心、その裏には自己勘定で儲ければ莫大なボーナスが支給されるためにグレーラインどころか、「これ、失敗したら俺たちのクビは速攻で飛ぶよな」とお互いに相づちをうちながらそれでも甘い汁に目がくらむというのがこの世界であります。つまり、「相場師」という言葉がありますが、一介の雇われ社員が莫大な利益を上げて一躍ヒーローとなり、膨大な賞与をもらい、業界の中では「あいつは神様だよ」と言われる優越感に浸る「夢追いの自分がそこにあるのだと考えています。

今回の事件はSMBC日興証券を背景に本部長と部長ら幹部4名が逮捕されましたが、突然の逮捕劇ではなく当局が昨年から進めていた調査を踏まえての結果でした。よって同社内では当然、帰着点ははるか前から分かっていました。ではなぜ、このような問題が起きたかはこの会社の変遷を知らなくては理解しにくいでしょう。

同社はもともと三菱系の証券会社でしたが、90年代後半の損失補填問題で三菱グループが「名を汚す」として実質的にグループから外れ、98年にソロモンと資本提携、その後、シティグループになり、08年にシティから三井住友グループの傘下に代わります。その際、三井住友に証券業務に対する十分な知識がないため、外からの人材、主に外資系証券会社から引き抜きをします。

今回逮捕された本部長は前職がUBS証券、部長の前職がゴールドマンサックスです。彼らは申し上げたように野武士的で一匹狼のような性格であって自分の功績を主体に考えます。一方、報酬は成功ベースが必ずどこかでキックインしていますので大手証券会社でもトップトレーダーの方が社長より報酬総額が多いということが起きるのです。

これが証券業界の懲りない問題の体質だといってよいでしょう。

社内の体質がお粗末だったとも言えますが、それ以上に世界でトップクラスを走るトレーダーたちは時として騙し合いの世界も避けられない訳で一般社員が知る世界とは全く違うものだと言い切ってよいのでしょう。ガバナンスはないのか、と言われればあの猛者たちをどう縛り付けることができるのか、紐がきつければ俺は外資系に行くというまでなのでしょう。うまそうなところを渡り歩く金の亡者という別世界ともいえます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月7日の記事より転載させていただきました。

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