新しいクリエイティブの地平を求めて。AR/VR/MRアワード授賞式で語られた“XRの未来”

GIZMODO

来るか、”サード・サマー・オブ・ラブ”。

先日、パルコ、ロフトワーク、Psychic VR Labによる共同プロジェクト「NEWVIEW」が主催し、ギズモード・ジャパンもメディアパートナーとして参画するXRコンテンツアワード「NEWVIEW AWARDS 2021」の授賞式が行われました。

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Video: STYLY / Vimeo

3次元空間での新たなクリエイティブ表現と体験のデザインを開拓するプロジェクト「NEWVIEW」によるファッション/カルチャー/アート分野のXRコンテンツアワード「NEWVIEW AWARDS 2021」。今回のテーマは「ポストリアリティとノーノーマル」。

VR/AR/MRクリエイティブプラットフォーム「STYLY」を使った作品が、15ヶ国から152作品応募され(AR:43作品、VR:97作品、MR/XR:12作品)、ファイナリストとして26作品が選出。その中からグランプリ1作品、準グランプリ3作品、そしてギスモード・ジャパンが選出したGIZMODOプライズを含めた、5つのスポンサープライズが選出されました。

授賞式には、審査員長である現”在”美術家/DOMMUNE主宰の宇川直宏さんほか、画家の中山晃子さん、アーティストのルー・ヤンさん、Psychic VR Labの山口征浩さん、そしてギズモード・ジャパン編集長の尾田が登壇。

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(左上から時計まわりに)宇川直宏、山口征浩、ルー・ヤン、尾田和実、中山晃子

コロナ禍を通じて「メタバース」「クロスリアリティ(XR)」というワードは奇しくも大衆化することになりました。しかし、世界は未だオミクロン株による新型コロナ感染再拡大や、今後やってくるであろう次の変異株の脅威に晒されたままです。その中でクロスリアリティの発想が今後、エンターテインメントやアートをどういった形で手助けしていくことができるのでしょうか?

授賞式の冒頭、宇川さんは全世界5ヶ国の審査員とともに行った白熱の審査をこう振り返りました。

それぞれの国ごとに、オミクロン株による感染状況などパンデミック以降の感染率の問題があると思う。そんななかでも、インターネットを通じてメタな現場の中でクリエイティビティみたいなものを共有できていることは、この時代を乗り越えるための勇気になっているような気がする。その意味ですごく価値があるアワードになった。(宇川さん)

XRのテクノロジーは、まだまだそのあり方やデファクトが定まっていません。だからこそ現在は、その新しい可能性をみんなで模索していく面白い段階にあると、山口さんはいいます。

VR、AR、今後のMRのデバイスも含めて、テクノロジーの進化で人々の生活も変わってくる。また、コロナも含めて人々の日々の生活であったり、クリエイティビティもいろいろと変化が起きている状況だ。

コロナ禍を経験した人たちが、コロナ禍が明けた後にどういった価値観を持って世の中を見ていくのかということも含めてすごく興味深いタイミングだなと思っている。テクノロジーや社会システムが激変するなか、プラットフォームを提供することで、いろいろな表現のあり方や新しいチャレンジを一緒にさせてもらっていることはすごく幸せなことだと思う。(山口さん)

「超越」「逸脱」「変質」という3つの評価軸

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Image:NEWVIEW

今回のアワードでは「真の多様性が生み出すXRの世界には、標準や基準、規範やスタンダードは存在しない」という概念を軸に、あらかじめ「超越」「逸脱」「変質」という3つの評価軸を元に作品が審査されています。

審査員のひとりを務めたルー・ヤンさんは、

アワードには、哲学的で日本的な宗教的概念があり、重層的な要素がある。物質的な制限が今の世の中にある中で、興味深い作品が生まれている。

と語りました。

また、2020年度のアワードのファイナリストでもある中山さんは、今回の受賞作品についてこうコメント。

CG上だと点、線、面、それとメッシュという新しいものの捉え方が生まれ、まずリアルからXRに触るときの触り方がまったく変わってくる。その精度だったり、別の光の当たり方が同時に立ち上がってきていたものが肉体だが、XRだと個別に発生してセレクトすることができる。それゆえに、XR上でないと存在しない物質が生まれ始めているのが面白い。

さらにいうと、心が痛む時は肉体も実際に痛むが、先にXR上で新しいマテリアルによって構成された体、つまり心の在りかのような依代ができたことでそこに入る無形のものが生まれている。それが現実の肉体にフィードバックするような表現としてそれぞれの作品に表れていたのがとても面白かった。(中山さん)

その意見に同意する宇川さんも「XRによって心の在りかが改めて問われている」と述べました。

XRによって肉体が心と直結していなくても、そういった表現が可能になった。さらにはそこで自分の美学を100%発揮できる時代が来た。つまりルッキズムに支配されない生き方みたいなものとの融合もクリエイティブとして、バーチャルの世界では発揮できる時代がもう訪れている。受肉先が誰なのか、受肉したものは誰なのかという領域に実存すら進化してきているような気がする。(宇川さん)

空間を身に纏って生活する世界とは

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Video: Ardak Mukanova / YouTube

授賞式の後半では、グランプリを受賞したArdak Mukanovaさんによる古代遊牧民の宗教信仰「テングリズム」を題材にしたVR作品「Neo Tengri」の論評をきっかけに、今後のXRアートやカルチャーへのアプローチの面白さ、可能性についてもトーク。

もともとはトランスメディアのクリエイティブをゲームでやっていたというカザフスタン出身のArdak Mukanovaさんの作品では、既存の実空間での儀式のようなものをVR空間で体感できる物語構造が印象的です。

自分たちのルーツである「テングリ」をVR空間で表現したということが、すごく必然のように感じる。だからこそこの作品はこんなにもみんなを感動させるのではないか。

テングリは一神教の物語なので、口伝的に伝わる様々な世界観哲学を持っている。その要素がヘッドマウントディスプレイをつけたVR体験の没入感とすごくシンクロしやすい。そういった崇高なイニシエーションの儀式空間に、VR空間はすごく向いているということを再発見させていただいた。そのことを含めてこれからこの表現軸の可能性を秘めている作品だなと思った。(宇川さん)

「Neo Tengri」は、そういった宗教的なものを身に纏うことで世界秩序を構築するという点が高く評価されましたが、今後はいかに空間を身に纏って生活する世界を実現していくかがXRの進化の鍵を握りそう。そのなかで、XRプラットフォームを提供する側として山口さんが重要視するのは、これまで以上にプラットフォーム上での表現の幅を広げていくこと。

例えば、現時点でもARを通して現実の世界とインタラクションしたり、VRを通して現実では表現できない世界観を表現することが可能です。しかし今後、身に纏う形のデバイスが技術的に進化すると「文字どおり身に纏うことを本当に体感できるような時代がやってくる」と山口さんは言います。そうなると、街の空間など自分の周りにある空間を新たなキャンパスとしながら作品を作っていくことが実現するほか、曰く「自分自身の身体の拡張を通して、それがひとつのメディアとなりながら、自分の体や周囲が差別化されるような変化が訪れる」とのことです。

さらに進化はそこでは終わりません。その後は、いま空間にいろいろな表現をしていくのとは別に、自分自身が起点となりながら、その人に合わせた形でもっと身の回りの空間を変容させていくなど、さらなる取り組みが行われる可能性もあるといいます。

XRの表現として、今でもその人の持っている宗教的な価値観であったり、いろんなものを引き出してるが、今後はそれがさらに加速していくはず。STYLYとしてはそういうことができるプラットフォームになっていけるといいなと思っているので実現していきたい。(山口さん)

今後のXRクリエイターに求められるもの

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Screenshot: NEWVIEW AWARD 2021 via Vimeo

一方、テクノロジーの進化が進めば、クリエイターやアーティストの表現にも新しいフェーズが訪れます。そのことについて、ルー・ヤンさんは「テクノロジーはただの殻に過ぎない。そこにモノを変革する力を与えるのがクリエイターであり、クリエイターはそういったことをオーディエンスに対しても行える」と述べました。

また、「新しいメディア、メディウム、技法に期待を寄せるとともに、同時に、紙とペンでしかないということも同時に作家は自覚しないといけない」と述べたのは中山さん。

VR、油絵、鉛筆デッサン、歌、パフォーマンスなど、いろいろな並列した技法の中で何か自分が掴みたい無形の本質に触っていくことを目指すのは、これまでと変わらないことでもあるし、大きな変化でもあるという両軸でやっていくのがいい。今回のアワードでもさまざまなバックグラウンドを持った作家の方が投稿してきている。その裏側、一歩路地に入って、コンセプトの部分を読み解いていくというのが、鑑賞者、作り手ともに重要なことだと思う。(中山さん)

「XRの中から、アーティストサイドから、今後どんなアプローチが出てきたら面白いか?」という質問に対し、ギズモード・ジャパン編集長の尾田は、今の子供たちが現実よりもゲームの方にリアリティを感じていることを例に、ゲームがひとつのリアルになっていると指摘。リアルの位置の変化について、こう述べました。

報道する側としては、ゲームと比べてどうなんだろう?という、今までになかった視点が常に頭の中でちらついている。その意味でこれまでのXRは、リアルに対してどうなのかというところにある種の批評性があった。しかし、これからはゲームというリアルに対してどうあるべきかというところが、すごくポイントになってくる気がする。(尾田)

実験的なプロジェクトとして立ち上がったNEWVIEWによるアワードは、次回で5回目。今後も“全部をガラッとぶち壊す”ぐらい、いろいろな新しい大きな流れが出てくる実験的なことに取り組んでいくとのことです。

トークセッションでは、XRにより、エンターテインメントやアートに大きなインパクトを与える“サード・サマー・オブ・ラブ”が起こるとの予想もありました。そのきっかけを起こすような作品が今後、世界中のXRクリエイターたちから届けられることに期待しましょう。

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