サイバーエージェントの藤田晋社長はハードワークで知られる。大学卒業後に入社したインテリジェンス(現パーソルキャリア)でも、「土日もGWも夏休みもない」働きぶりだったという。なぜそこまでして働いていたのか――。
※本稿は、藤田晋、堀江貴文『心を鍛える』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
起業のきっかけを作った一冊の本
サイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」というものですが、そんな大それた夢を持つようになったのは、ある本との出会いがきっかけでした。バイト先の広告代理店、オックスの社長の愛読書『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著/日経BP社)です。
この本では「時を超えて成長し続ける企業」の特徴が解説されています。たとえば、ソニーにしてもヒューレット・パッカードにしても、起業時から素晴らしいアイデアがあふれていたわけではないと思います。
しかし、社運を賭けた大胆な目標を掲げたおかげで、アイデアが見つかったばかりか、組織全体のやる気を引き出し、企業が成長し、企業そのものが究極の「作品」となったわけです。
まだ若かった私にも、ソニーやホンダのような「ビジョナリー・カンパニー」は人々の生活や社会に大きな影響を与える、偉大な会社だと思えてなりませんでした。
「そんな会社を自分の手で創り出そう」
そう思うと、ワクワクしてきたのです。以降、私は「将来すごい会社を創る」という目標を立て、それに向かって全力で疾走し始めます。サイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」ですが、この言葉は創業した数年後に、「すごい会社を創る」を言い換えたものなのです。
つまり、今の私があるのは、『ビジョナリー・カンパニー』のおかげです。
目標ができたからこそ、自分の中に軸ができてブレないようになり、大きな目標を実現するための目標を立て、それらを達成するために駆け回ることができました。
自分の軸さえ決めれば、人から言われなくても、自発的に動き出せるようになります。そうすると、人生が面白い方向へと加速し、どんどん好転していくと思うのです。
アルバイト先に就職する気でいたら…
当時の私はバイト先の重役に身の上相談に乗ってもらうほど、就職先を決めあぐねていました。大志はあるものの、平凡な大学生の1人だったのです。
22歳、大学4年生となった私は、周りが就職活動を始めても、どこ吹く風。オックスでのアルバイトに励んでいました。「このまま入社してもいい」、そんな思いも少なからずありました。そんな時期、オックスの渡辺義孝専務(現ヒューマンクレスト代表取締役)に就職先について相談させてもらったことがあります。
渡辺専務は、バイトに必死に取り組んでいた私に、特に目をかけてくださいました。
そのため、「就職活動なんかせず、うちに入社しなさい」と言われる気がしていたのですが、予想は大外れ。「うちの会社に来てくれたらうれしいが、ほかの会社も見て決めるのがいい」とおっしゃったのです。
今考えると、渡辺専務はオックスの経営陣の不協和音を感じていて、私に入社をすすめなかったのだとも思えます(後にオックスで内紛が起こり、渡辺専務は解任されます)。一介のアルバイトである私の将来を真剣に考え、親身に助言してくださったことについて、今でも渡辺専務に感謝をしています。
土日祝もGWも夏休みも「とにかく働きたい」
私は『日経ビジネス』の記事で興味を持った会社に電話をかけるなど、ベンチャー企業を中心に会社を探しました。そして、自宅に送られてきたDMで人材関連企業の「インテリジェンス」(現パーソルキャリア)を知り、新卒採用のセミナーに参加。
「当社は89年に創業し、急拡大してきました。人材派遣業に参入してまだ2年目ですが、将来はパソナを、そしてリクルートを抜き去ることになるでしょう」
宇野康秀社長(現USEN-NEXT HOLDINGS代表取締役社長CEO)のこのような話に胸を熱くして、入社を決めます。宇野社長の眼差しに純粋さや真剣さを感じたからです。「将来すごい会社を創る」という自分の目標を共有できる気がしました。
日本では、何かに情熱を注いだり、上昇志向を抱いたりすることを恥ずかしいと捉える風潮があります。でも、宇野社長の下でなら、思いっきり働ける気がしたのです。
そして1997年4月。インテリジェンスに入社後は、ハードワークに徹しました。同社は当時、「深夜まで働くのが当然」という社風でした。最初から猛烈に働きたかった私にとっては素晴らしい環境です。私も毎日終電ギリギリまで働き、土日も祝日もゴールデンウィークも夏休みも返上。文字通り「1日も休まず」働きました。