「オモウマい店」大ヒットの秘密 – 放送作家の徹夜は2日まで

BLOGOS

放送作家の深田憲作です。

今回は「今、テレビ界で大きな成功を収めているテレビ番組」について書いてみたいと思います。

私自身、約15年にわたって放送作家としてテレビやYouTubeの制作に関わってきました。テレビでは視聴率、YouTubeでは再生回数という“数字”と向き合ってきましたが「どうすれば数字が取れるのか?」という明確な答えは出ていません。出るはずもありません。その答えを持っている人はこの世にいませんから。打率10割のクリエイターなど存在しないというのが答えです。

音楽界の高打率ヒットメイカーである桑田佳祐やB’zやMr.Childrenですら「どうすればヒット曲を作れますか?」と聞かれても絶対的な答えは持っていないはずです。B’zの稲葉さんにそんなことを聞こうものなら「そんなものねぇよー!!」と短パン姿でシャウトされることでしょう。

なぜならエンターテインメントのヒットの本質は「差別化」。他と違うからこそ価値を持つのです。「こうすれば絶対にヒットする」というものがあったとして、それをみんながやってしまうと「均一化」してしまいます。だから「ヒットの絶対法則などない」というのがエンターテインメントの絶対法則なのです。(自分で書いていてワケ分からなくなってきました)

ただし、「ヒットの絶対法則」はないものの「ヒットの傾向」や「ヒットの原理」のようなものは間違いなくあります。何十年というデータの蓄積によって、有識者が解明してきた確かな理論はエンターテインメントの各ジャンルに存在します。

例えば、演劇の世界では「物語の種類はシェイクスピアが生み出した36パターンしかない」と言われますし、音楽の世界では「ヒット曲の大半はカノンのコード進行」と芸人のマキタスポーツさんがおっしゃっていました。余談ですが世間が思っている以上にマキタスポーツさんは天才です。

当然ながらテレビの世界にも「ヒットの傾向」というものはなんとなくではあるものの存在し、私自身も会議で諸先輩方のお言葉や、数千回にもわたる数字のトライアンドエラーによってその知見を深めてきたつもりです。その深さは小学校低学年の子どもが遊んでも危なくない川のような浅さではありますが、できるだけ読者の皆様が深みを感じられるような濃いお話を、不快感を抱かせないように深田なりにさせていただきたいと思います。(自分で書いていてワケ分からなくなってきましたⅡ)

今回は、今のテレビ界で屈指の高視聴率を獲得している番組が「なぜ多くの人に見てもらえるのか?」というのを私なりに分析してみたいと思います。

メディアのインフレで、テレビの新番組へ風当たりが厳しい

ヒューマングルメンタリー オモウマい店 公式ウェブサイト

その番組が…『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』です。近年、テレビ界では「新番組に風当たりが厳しい(=視聴率が取れない)」ということがよく言われています。さらにはテレビの世界では夜7時台が結果を出すのに最も難しい時間帯だとされています。その時間帯のレギュラー番組で見事な結果を出しているのが『オモウマい店』なわけです。

『オモウマい店』の分析をする前に、まずは「新番組に風当たりが厳しい」と言われる背景について説明させてください。近年、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、YouTube、Disney+、U-NEXT、ABEMAなど、あらゆるメディアが乱立し、映像コンテンツがインフレを起こしている状況です。そのため多くの人の深層心理には「外したくない」「面白いものだけを見たい」「無駄な時間を過ごしたくない」という気持ちが年々強まっていると言われています。

「これは絶対に面白いだろう」という信頼を置けるコンテンツでないと選ばれる確率が低くなっているというわけです。『イカゲーム』ぐらい話題になっていればその腰は軽くなるのですがあんなことは稀です。そして、1度視聴したエンタメの損切りの判断も早くなっていると言われています。「これ面白くないな」と思ったらすぐに視聴を止めてしまう。その判断が以前よりも格段に速くなっているということです。

その実感は読者のみなさんもお持ちではないでしょうか。テレビを見ていてつまらないと思ったらすぐにチャンネルを変える。YouTubeを数十秒見ただけで見るのをやめてしまう。以前に比べてこの損切りのスピードは上がっているのではないでしょうか?

日本の映像メディアに限って言えば、10年前まではエンタメの2大巨頭はテレビと映画でした。そのため、テレビ番組は“今と比べれば”ですが「見れば面白い」というコンテンツを作っていれば勝負ができていました。しかし、今は「まず見てもらわなければいけない」「1度見てくれた視聴者を離さない努力を今まで以上にしなければいけない」という状況です。

だからこそ、どのテレビ番組もこぞってツイッターアカウントを作って番組放送前に告知をし、画面には大量のテロップを表示することで万人に分かりやすくし、ザッピングして途中から番組を見た視聴者にも分かりやすいような番組作りを心掛け、CM前には「この後、とんでもない事態に!」的なあおりを入れて見続けてもらえるようにするわけです。

「テロップが多すぎる」「画面がガチャガチャして見づらい」「大袈裟にあおりすぎ」など、よくネットで叩かれがちなテレビ作りの手法は、皮肉にもこういった企業努力によるところが大きいと思います。

とまあ、そんな理由で「新番組に風当たりが厳しい」と言われているわけですが、なぜ『オモウマい店』は新番組でありながら高い視聴率を残しているのでしょうか?

Source

タイトルとURLをコピーしました