6GHz帯の国内利用は6月から? 当面はWi-Fi 6/6Eが主流に、Wi-Fi 7は30Gbpsが目標で製品の登場は2024年?【ネット新技術】

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Wi-Fi 6Eの6GHz帯は2022年6月から国内利用可に?懸念は5Gや固定マイクロ波回線との周波数共用

 やや旧聞になるが、2021年11月15日に総務省は「周波数再編アクションプラン(令和3年度版)の公表」において、周波数帯域の見直しを公表している。

 その別紙1のPDFによれば、Wi-Fi 6E、つまり6GHz帯(5.925GHz~7.125GHz)は、認可に向けて調整中だという。

別紙1の第2章のII(7ページ)に記載のある一文によれば、約1GHz幅となるので、6GHz帯の利用をほぼ全面的に認めることになる

 その割り当てについては、「家庭内やオフィス、学校等でのさらなる高速通信への利用ニーズに対応するため、IEEEや諸外国における検討状況等を踏まえながら、無線LANの6GHz帯(5925-7125MHz)への周波数帯域の拡張に係る技術的条件について検討を進め、令和4年3月頃までに情報通信審議会において一部答申を得る。」とされている。

周波数再編アクションプラン(令和3年度版)における帯域確保のイメージ。もっとも、5G携帯電話向けの周波数も含まれていて、実際にどうなるのかはよく分からない

 つまり6GHz帯の解禁については、2022年3月を目途に決まることになるだろう。その際の懸念事項としては、次の2点がある。

  1. 現在6.5GHz帯で固定マイクロ波回線が利用されており、これは周波数を共用するかたちが想定されているが、どういった方法で共用するのか
  2. 5925~7125MHzは5Gでも利用可能であり、総務省は5Gについても追加割り当ての実施を明言しているため、どう決着が付けられるのか

Qualcommが2020年に出した”Spectrum for 4G and 5G“から。米国と韓国は全面的に、EUは5.9~6.4GHzのみを利用可能としている

 ちなみに5Gの場合、5925~7125MHzはUnlicensed Band(免許不要の帯域)という扱いになるので、単純に「周波数共用」となるのかもしれない。

 仮に3月の答申で6GHz帯の利用を認める方針が出されても、総務省の中で技適(技術基準適合証明)の準備が整うまでには、そこから若干時間が掛かるため、実際に利用できるようになるのは早くても6月の辺りだろうか。

 ただ、では6月にすぐ製品が出てくるかというと、それも厳しい。というのは、Wi-Fi 6チップセットも昨今のものであれば、既にWi-Fi 6Eへ対応しているものもあり、ファームウェアアップデートだけで済む場合もあるが、フィルターやアンテナといったRF周りまでWi-Fi 6Eに対応済みというものは、ほとんどないと思われる(US向けのWi-Fi 6/6Eのモジュール+アンテナをそのまま持ってきて、とりあえずWi-Fi 6のみ技適を通して使っている、なんて場合は、技適だけ通せばそのまま行けそうだが……)。

 なので、こうした米国向けの製品を転用しているケース以外では、実際に製品の準備ができて投入できるのは、おそらく2022年末というあたりだろうか? そして国内で明確にマーケットが広がり始める時期は、2023年に入ってからと考えるのが妥当だと思われる。

Wi-Fi 7こと「IEEE P802.11be」のデモが2022年1月に実施、2023年の製品出荷を予測?

 そんなわけで、Wi-Fi 6Eは年内にも無事立ち上がりそうであるが、今回はその次の「Wi-Fi 7」について触れたい。もっとも、この名称はあくまでも過去の類推からの仮称で、現時点では正式には存在しない。

 現時点での規格としての正式名称は「IEEE P802.11be」である。もっとも、Wi-Fi AllianceのCurrent Work AreasというウェブページにWi-Fi 7という項目があるので、使っても支障はないだろう。

 その11be(現在はまだ標準化作業の活動中なので頭にPが付く)は以前『Wi-Fiで増える6GHz帯、日本ではしばらく利用不可? 次世代「Wi-Fi 7」では必須?』でも少し触れたように、IEEE 802.11axの後継規格として「EHT(Extremely High Throughput)」という名称で2019年5月から活動が行われている。

 これがクローズアップされたのは、台湾MediaTekが、早くもこのIEEE P802.11be Draft 1.0に基づく(と思われる)試作チップを利用したデモを特定顧客向けに行ったことを2022年1月19日に明らかにしたためである。

 デモの詳細は明らかにされていないが、普通に考えれば、現時点ではFPGAとDiscreteのRFを組み合わせるかたちでTechnology Previewを実施したというレベルだろう。肝心のP802.11beにしてもまだDraft 1.31というレベルなので、今後変更が入らないとは限らない(Draft 2.0まではまだ技術的な変更が可能)。

 だが、同社はプレスリリースの中で”Products with Wi-Fi 7 are expected to hit the market starting in 2023.”、つまり「2023年には市場にWi-Fi 7の製品出荷が始まると予測される」としており、かつて何度も繰り返されたように今回も“仕様が固まる前に製品出荷がスタートする”ことが予測される。

11beでは30Gbps超が目標、11axの6つの技術を拡充し、CSRとProtected TWT Enhancementの2つを新たに追加

 現在公開されているIEEE P802.11beのSFD(Spec Framework Document)の最新版、つまりDraftの元になるドキュメントは2021年1月17日付であり、その意味ではこの1年間の作業は反映されておらず(DraftはTask Forceのメンバーしか参照できない)ので一部不正確な部分はあるかもしれないが、これによれば、IEEE P802.11beではIEEE 802.11axに対して次の6点のような違いがある。

  1. 帯域の拡充
    占有帯域を11axの160MHzから11beでは320MHzへ拡充し、ピーク転送速度が2倍に
  2. 変調方式の追加
    1シンボルあたり8bit伝送可能な11acの256QAMから、11axでは1シンボルあたり10bitを伝送可能な1024QAMにより25%高速化。11beでは1シンボルあたり12bitで11ax比で20%、11ac比で50%高速化される4096QAMも追加
  3. RU(Resource Unit)の拡充
    一度に利用できる周波数ブロックは、11acまでは常に1つのSingle RUだったのに対し、11beでは複数の周波数ブロックを利用できるMultiple RUとなり、連続した小さなRUをまとめて大きなRUとしても利用可能
  4. 空間多重ストリームの拡充
    11axでは最大8までだった空間多重ストリーム(Spacial Stream)を、11beでは2倍の16ストリームへ拡充
  5. Multi-Link Operationの追加
    同じ周波数帯で同時に複数の通信Linkを構築する方式により、複数Linkを並列に使って転送速度を向上できる一方、同じデータを送ることで確実な伝送も実現可能
  6. Multi-band and multichannel aggregation and operation
    Multi-Link Operationの応用で、複数Linkを異なる周波数帯で実現する(2.4/5/6GHz帯)という方式。Link同士の通信干渉が起こりにくい利点の一方、各周波数帯での通信容量や信号伝搬の具合が異なるため、全Linkで同量のデータを送ろうとすると、一番容量の低いLink(通常2.4GHz帯)がボトルネックになり、結果的に遅くなりかねない

3番目の「Multiple RU」の図。11axまでの10/20/40/80/160に加え、新たに追加された240/320MHzの利用状況

 なお、5番目の「Multi-Link Operation」においては、同じ周波数帯で複数の通信Linkを構築すると、通信干渉が発生しやすいという問題をどう回避するかの議論がなされていたが、具体的にどうそれを実現するかはSFDからは読み取れなかった。

 6番目についても、2.4GHz帯なら到達できるが、5GHz帯では信号レベルがかなり減衰し、6GHz帯では到達できないといったケースもあり得るので、各Linkへのデータ配分が少し難しいことになりそうだ。

 ただし、SFDには残念ながら、こうしたあたりについての詳細がない(当該部分のChapter 7は事実上中身が空の状態)ので、今後の進展を期待したいところだ。

 そして次の2点が、11beの主な項目となる。

  1. CSR(Coordinated Spatial Reuse)
    複数のアクセスポイント同士が協調し合って信号干渉を防ぐ仕組み
  2. Protected TWT Enhancement
    TWTを拡充し、TWTを逆に短くすることで遅延の少ない通信を実現

 TWT(Target Wake Time)は、11acでオプションとして導入され、11axで標準仕様となったもので、省電力向けにクライアントがビーコンを受信する時間間隔を長くすることで待機時間を増やし、結果的に省電力動作を実現している。なお、IEEE 802.11ahでも導入されている。

 ちなみにこれ以外にも、パケット再送を効率よく行う仕組みである「HARQ(Hybrid ARQ)」なども議論されているという話であるが、残念ながらSFDには含まれていないため、詳細は明らかではない。

 IEEE P802.11beでは30Gbpsを超える通信速度を目指すとされている。これはIEEE P802.11beのPAR Detailsにおいて、5.2.bにある「Scope of the project」には以下のような記載がある。

This amendment defines standardized modifications to both the IEEE Std 802.11 physical layers (PHY) and the Medium Access Control Layer (MAC) that enable at least one mode of operation capable of supporting a maximum throughput of at least 30 Gbps, as measured at the MAC data service access point (SAP), with carrier frequency operation between 1 and 7.250 GHz while ensuring backward compatibility and coexistence with legacy IEEE Std 802.11 compliant devices operating in the 2.4 GHz, 5 GHz, and 6 GHz bands.

 これを要約すれば、最低でも30GbpsのスループットをMACのSAP(Service Access Point)で実現するのが目標というわけだ。

 規格上はIEEE 802.11axが最大9.6Gbpsであり、チャネル幅で2倍、空間ストリーム数で2倍、変調方式で1.2倍のスループット向上が可能なので、ピーク性能は9.6×2×2×1.2≒46.1Gbpsまで引き上げられる計算とは言え、これを実現するには、まず320MHzのチャネル幅が確保する必要がある。なかなかここまでは上がらないのでは、とは思われる。

11beリリースは、2022年3月と2024年5月の2段階に、製品出荷は2023年中旬から、2024年後半まで延びる可能性も

 このIEEE P802.11beであるが、先に書いたようにDraft 2.0あたりをベースとした商品が2023年には市場投入されるのはほぼ間違いないとの動向を受けてか、仕様に関してはDraft 2.0をベースとしたIEEE 802.11be Release 1と、最終的に全ての仕様を盛り込んだIEEE 802.11be Release 2の2段階でのリリースになる模様だ。

 これは、『ビームフォーミングで周波数と端末の混雑を解消する「IEEE 802.11ac」、2013年にMandatoryが標準化』記事で触れたよううに、IEEE 802.11acがWave 1とWave 2という2つに分けて立ち上がったケースと全く同じである。

 現状で聞こえている話であれば、Multi-Link Operation、4096QAM、320MHz Bandwidth、CSRの一部など簡単な機能についてはRelease 1で、MIMOの拡張(空間多重ストリームを16に)や、HARQ、Protected TWT Enhancement、CSRのほとんどはRelease 2で実現するという見通しになっている。

 問題はその時期だ。Release 1は、上で述べたようにDraft 2.0をベースとする(Draft 2.0に対するWorking Group Commentを集めるのが2022年3月の予定で、ここでDraft 2.0が否決されなければ、ほぼこのまま推移する)関係で、2022年3月には仕様が決まると見られる。

 なので、2022年3月に公開される(はずの)Release 1をベースとしたチップセットの設計を年内に終え、2023年から量産出荷されるというのが見通しだ。そして、機器ベンダーは試作チップセットをベースに製品開発を進めておき、量産に入ったチップをベースに認証を取得、2023年中旬くらいに製品出荷に至るタイムラインとなるだろう。

 続くRelease 2だが、現状のタイムラインによればIEEEでの802.11beの標準化完了時期は2024年5月が予定されている。これに先立ち、2023年4月からDraft 4.0をベースにスタートするInitial Sponsor Ballotについて、Wi-Fi Allianceでは2023年11月あたりまでの完了を予定しているという。そして現状では、Wi-Fi 7 CERTIFICATION Programをこのタイミングで立ち上げることを想定しているようだ。

 ただし、そうなると世の中にWi-Fi 7 Certificationを取得した製品が登場するのは、早くても2023年末、現実的には2024年に入ってからということになる(既存のRelease 1対応製品が、ファームウェアやドライバーのアップデートだけでRelease 2に対応する前提の話だが)。

 ただ、Release 1とRelease 2の差がそれなりに大きいことから、Release 1対応製品のWi-Fi 7 Certificationは結構難しいかもしれない。そうなれば、対応製品の市場出荷が2024年後半まで延びる可能性もある。

 そんなわけで、最低でも1年半、現実問題として2年~2年半程度の間は、Wi-Fi 6/6Eが主流の規格であり続けると考えられる。とりあえずはWi-Fi 6E対応製品への移行を考えるのが賢明なのかもしれない。

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