ロシア批判する朝日社説に苦言 – 猪野 亨

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 ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻は、市街戦に突入し、さらなる被害の拡大が現実のものとなりました。

 ところで、結局、欧米側は何がしたかったの? ということが未だにわかりません。
 ロシアの要求の主たるものは、これ以上、東方にNATOを拡大するな、です。
 ウクライナがNATO加盟を希望していますが、ウクライナの主権の問題だという論調があり、ロシアの要求そのものが不当だという論調もありますが、明らかな誤りです。

 朝日新聞の社説は、このように述べています。
各国には安保政策を自ら決める権利がある。他国の主権を勝手に限定するプーチン氏の対外姿勢は到底容認できない。」(朝日新聞2022年2月4日)

 軍事同盟の是非ですから、それに対して批判や要求があって当然です。
 日独伊三国同盟(1940年)を連合国側は敵視していましたが、当然でしょう。自分たちに向けられた軍事同盟なのですから。それは日独伊三国の主権に関わることだから批判するなということにはなりません。

ロシアが一方的に非? 朝日新聞の社説に疑問 軍事同盟を肯定することはできない

 そして重要なのは、これはウクライナの主権の問題ではないということです。ウクライナがNATO加盟を希望するかどうか、それ自体、勝手です。
 問題なのは、NATO側です。ウクライナが加盟を希望したときに認めるのか否か、という問題です。要は、NATO側の問題なのです。
 何でこれがウクライナの主権の問題なのか、朝日新聞の社説は全くもってデタラメです。

 ロシア側は、それがロシア包囲網であり断固反対するという姿勢であり、ウクライナにまで拡大された場合には死活問題としたわけです。
 それに対し、NATO側がそのとおりロシア包囲網だというのであればさっさとウクライナを加盟させ、ロシアの軍事侵攻に対してはウクライナ軍に代わってウクライナを防衛すべきでした。
 しかし、実際には米国をはじめ、ロシアの軍事侵攻が現実のものとなったら途端に軍は出さないと早々に宣言してしまっているわけです。
 何という無責任。ロシアに軍事侵攻してくれと言わんばかりの対応でしかなく、挑発さえしているように見えてしまいます。
 NATO側が一言、ウクライナは加盟させないと宣言すれば全く事態は変わっています。

2018年8月4日撮影

 寄って立つ思想は全く違いますが、ここで紹介されている橋下徹氏の見解は、考え方の骨子はそのとおりです。

「本当に腹が立つ。プーチンの要求を突っぱねるんだったら、前面に出て戦わないと」橋下氏、ロシアのウクライナ侵攻めぐるNATO、EU諸国の対応に怒り」(ABEMA TIMES2022年2月27日)

「僕は西側諸国の人間として西側の体制が全世界に広がることを望んでいるし、ロシアにも中国にも民主的な国になってもらいたい。でも、向こうは“西側の方がおかしい”っていう主張で、価値観も見方もまったく違う。そういう中でプーチンは“NATOの東方拡大をやめてくれ”と言ってきた。しかしNATOは一切聞かず、“加盟するかどうかはウクライナの主権なんだから、約束なんかできない”と言い続けてきた。

 そうやってNATOは体面を保とうとしてきたのに、ウクライナにロシアが入ってきた瞬間、EUと一緒になって“ウクライナ頑張れ!“って。それはないだろって。プーチンの最終目標が本当にNATOの東方拡大の阻止なのであれば、そこを譲歩すれば攻撃も止まるかもしれない。ウクライナに全責任を負わせて戦わせるんじゃなくて、その話をしなきゃ。

 軍事力を突きつけられて、今までの主張を譲歩するというのはNATOの体面としては許されないんだろうけど、そのことでウクライナの人たちが犠牲になっているんだから。そこで突っぱねるんだったら、前面に出て戦わないと。“我々はウクライナと共にある”って言葉ばっかり。なんなん?本当にヨーロッパの指導者たちには腹が立つ。自分たちは譲歩しない、戦いはウクライナ。最悪の政治やね」

 全くそうなんですよ。一体、米国やNATOは何がしたかったのか全くよくわからないんです。実際にNATOはウクライナ加盟など現実の検討事項にもなっていません。
 単なる体面だったのであれば、それではロシアと何も変わらないわけです。
ロシアによるウクライナ侵攻 民主主義、自由主義陣営による戦いという位置づけは誤りだ

 その結果、ウクライナ市民が犠牲になるという惨事を招いているわけですから、米国やNATOの責任も重大でしょう。
 それを全く批判しない風潮があることも私には大きな違和感しかありません。
 欧米が善でロシアが悪という固定観念のような見方で見ているか、単純に朝日新聞のように米国中心の世界秩序(新自由主義と米国を頂点とした武力支配)を是とするからですが、これでロシアを批判しても説得力が出てくるはずがありません。

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