「面接官に会いたくて応募が殺到する企業」になれる面接の前・中・後の極意

CNET Japan

 この連載「元Googleの人事が解説–どんな企業でも実践できる『新卒採用』の極意」では、グーグルで新卒採用を担当していた筆者が、企業がそれぞれの採用プロセスにおいて、どのように自社にあった「才能」を獲得・育成していけばいいのかを具体案を交えてご紹介していきます。

 前回(第7回)は、「採用CX」をふまえた採用プロセスの設計について、「初期接点」と「面接」という2つのタッチポイントを取り上げてご紹介しました。どちらも、学生のファン化を目指す際、採用CXを用いて大きなインパクトを残せるタッチポイントなのですが、特に「面接」についてもう少し詳しく知りたいと言う問い合わせをいただきましたので、今回改めてご紹介させていただこうと思います。

 前回もご紹介した通り、面接はやはり学生にとって非常に特別な時間です。面接官によって「自分が評価される」という緊張感と、学生の目線からも「企業を見極める」という期待感が複雑に入り混じったまま、面接室に入ってきます。心が揺れ動く時間だからこそ、この時間を通して学生の志望度を大きく高めることもできれば、逆に大きく損なってしまうこともあります。

 そして、面接は採用プロセスでは終盤の「意思決定」に非常に近い段階です。もしここで大きく志望度を損なってしまうと、そこからの挽回は難しくなるでしょう。

 では面接を通して、学生の志望度を高めるにはどのようなことを意識するべきなのでしょうか。「人」同士の関係だけで成り立つ面接という時間だからこそ、採用CXの観点から大切にすべきポイントをご紹介いたします。

「学生の見極め」を重視するあまり忘れてしまう最重要ポイント

 結論から言ってしまうと、面接において学生の志望度を高めるのは、「本人の成功を願うコミュニケーション」が何より大事であると実感しています。

 面接官として「学生の見極め」に意識が向くのは当然かと思いますが、前提として、面接官一人ひとりの中に「今日はどんな学生と会えるんだろう」という率直な期待があるはずです。

 見極めを意識するあまり、この「期待」を伝えてあげることを忘れてしまっていませんか?学生からすれば、面接の段階ではまだまだ入社後の生活はイメージできていない人も多く、どんな人と、どんな環境で、どんな仕事に取り組むのかは非常に気になるところです。その段階において、学生本人以上にその人の人物像を理解しようと努め、自社での将来像をイメージし、そのために必要なことを率直に伝えてくれる、そんな面接官の存在は大きな安心感と期待感を生むでしょう。

 面接は「総合演出」です。第6回の「採用CXのコンセプト」の回でも繰り返しお伝えしてきましたが、プロセス全体で一本のストーリーを紡ぐことが重要です。したがって、志望度向上という観点でも、面接という「一点」だけでとらえるのではなく、面接前後の「流れ」も踏まえて、体験設計することが重要というところを、改めて強調させてください。

 さて、ここからは面接前後のプロセスを含め、3つのパートにわけて、それぞれで工夫できる志望度向上ポイントをご紹介させていただきます。

 まずは「面接直前」パート。学生たちは直後に控える面接に向けて、ガチガチに緊張しているなんてことも多いタイミングです。面接官の事前準備として、提出されたエントリーシートの内容や、ここに至るまでの選考結果、担当人事・リクルーターからの引き継ぎ事項などを把握しておくなど、基本的な部分は言わずもがなですが、もう1つ必ずやるべきことがあります。

 それは、面接直前にまとまった時間を確保し、「学生が面接の場で少しでもいいパフォーマンスができる状態にアシストすること」です。

 事例をひとつご紹介しましょう。

 今や年間10万エントリーを誇る、とある国内大手企業A社の事例ですが、実は採用プロセスに対する学生からの満足度の高さでも有名です。

 A社の面接は3部で構成されており、「直前面談」→「面接本番」→「フォロー面談」という流れで1セット、トータルで60分の設計になっています。そして「直前面談」は、控室などで実施されるいわゆる「アイスブレイク」の時間として活用されているのですが、ここでは「とにかく学生を応援する」という姿勢を押し出して、さまざまな工夫がなされています。

 たとえば、リラックスできるBGMやムービーを流しておいたり、会社情報の復習や逆質問の材料にできるよう、自社パンフレットや当日の新聞記事を用意しておくなど。さらに、コミュニケーション面でいうと、A社では担当人事やリクルーターはもちろん、プロセスの途中で面談などに対応した社員がいれば、その場にかけつけるよう手配しているそうです。

 緊張をほぐしたり、自信をつけさせる会話をしながら、一方で、その内容や学生自身の様子を面接官にもリアルタイムで共有して、面接室の内外で準備を整えます。ちなみに、Googleでも同様の目的で、面接前に必ず15分間はリクルーターと1:1で会話する準備面談の機会を提供していました。

「ちょっとしたサポートで伸びる人材」なら採用すべき

 A社とGoogleに共通するのは、すべての学生に少しでもいいパフォーマンスをしてもらうために、徹底的にサポートするという姿勢です。

 大切なのは、面接で役立つヒントなど伝えること以上に、「企業側が一丸となって学生を応援する姿勢」を見せることです。以前、とある企業の採用担当者から、このように学生を支援してしまうのは「テスト前に答えを教えるような行為に感じる」と言われたことがありました。ですが、実際の業務であれば、それに関わるすべての社員がお互いにいいパフォーマンスが出せるようにサポートするのは当然のことです。それは将来社員になるかもしれない学生との関わり合いでも同じこと。

 ちょっとしたサポートで大きな成果を出せる学生であれば、むしろ採用すべき候補者と言えるのではないでしょうか。

学生が「面接を無事に乗り切った」と思うだけの面接はNG

 続いては、いよいよ「面接」本番です。ここは押さえたいポイントが多くあるので、順を追って解説していきます。まず「志望度をあげる面接」のために、前提として注意すべき点が「気持ちいいだけのやりとりで終わらないこと」、そして「意図的なストレスで学生の自由な思考を奪わないこと」の2点です。

 1つ目の「気持ちいいだけのやりとりで終わらない」は、面接を「学生が暗記してきたものを披露するだけで終えない」ということです。面接でよく聞かれる典型的な質問については、学生も丁寧に準備しています。それについてのみ面接官が尋ね、学生もスムーズに答えられた、というのは、一見双方が満足ゆくやりとりができているように見えます。

 ただ、実際のところ、面接官にとっては用意された人物像しか見えず、学生にとっても新しい発見や学びなどの刺激には欠けています。そういった面接を終えた学生が感じる「満足感」は、「面接の場を無事に乗り切った」というだけの瞬間的な安心にすぎず、「面接がスムーズにいったから、ぜひこの会社に入りたい!」とはならないはずです。よって志望度の向上には大して寄与していないと言えるでしょう。

学生がリラックスし打ち解けた面接に変える「魔法のセリフ」

 そして2つ目の「意図的なストレスで学生の自由な思考を奪わない」という前提について。これは簡単にいえば、リスペクトを得るためにマウントをとったり、あえてプレッシャーを与え続けるようなストレスの強い面接を避けるということです。

 ストレスを与える面接をする根拠として「学生のストレス耐性や対応能力を試す」という説がありますが、面接の場で実施したとしてもその瞬間の「一時的なストレス耐性」しか測れず、しかも面接という特殊な空間でのみの話です。実際の業務で必要な「適切なストレス耐性」を確認できているとは言えないでしょう。ただでさえ緊張して、なかなか素が出てこない学生に対して、マウントを取ったりストレスを与えるような面接をしては、いよいよ「その場しのぎ」に終始して面接を終えることになります。

 これら2つの前提を踏まえた上で、まずは「面接中のコミュニケーション」のポイントをまとめます。

 まずは「面接という場をどういったものにしたいのか」という期待を、面接の序盤に学生と共有することです。たとえば、面接がどういった流れで進行するのかをあらかじめ共有します。「今この時間はアイスブレイクで、このあと簡単に自己紹介してもらったら、面接に移ります。3つほど質問を用意していて、それぞれに10分くらい時間を使えたらと思っています。…」といった説明することで、互いが同じ土俵に立ち、双方向のコミュニケーションが取りやすくなります。

 そして学生に期待する姿勢や、確認したいと思っている内容などもなるべくオープンに伝えます。学生も面接の目的や面接官の期待を掴むことで心の準備ができますし、「なんでこんな質問をされているんだろう」といった混乱を防ぐこともできます。

 加えて重要なのが「あなたがどういう人なのかを知りたい」という姿勢を学生に伝えることです。様々な就活ノウハウが頭に詰まったままでは、なかなか自分らしさは表現しづらいものです。スムーズなやりとりや、簡潔にまとまった回答、言葉遣いなども大切ですが、何より知りたいのはその人らしさや、秘めたる可能性のはずです。「あなたがどういう人なのかを教えてください」というセリフは、むしろ学生をリラックスさせ、素直でストレートなやりとりができるようになる魔法の言葉だと思っています。

「学生のモチベーションの源泉」を探し出すコツ

 続いて、「面接の進め方」についてもご紹介します。

 これは私がGoogleにいた頃、実際にやっていたことでもありますが、冒頭で学生に「一問一答でやりとりをするというよりも、ディスカッションの時間だと思ってください」と伝えていました。準備してきたものや暗記してきたものをテストするような場にはしたくない、という意図を込めたもので、前提でご紹介した「気持ちいいだけのやりとりで終わらない」という部分を意識しています。

 また、学生の能力を見極めるという観点でも、会話を交わす瞬間瞬間で、学生がどのように思考し、物事を解決していくかの過程を見た方が、実際の業務における対応も想像しやすいはずです。ですから、いくつか明確な答えのない質問を投げかけ、学生と一緒に考えながら深めていきます。ここでも「あなたがどういう考え方の人なのか興味がある」という姿勢を強調するのは、学生の意欲向上に効果的でしょう。

 一問一答ではなく、ディスカッションを通して学生と一緒に思考するという進め方において、重要になってくるのが面接官の「深堀り力」です。深堀りをすることで、面接官はその学生の思考の癖や、モチベーションの源泉、その人らしい強みなどを見出すことができます。そして学生も、自分一人では発見し得なかった新たな気づきを面接官と一緒に見つけられると、面接に参加した意義を実感し、志望度向上にもつながります。

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