プーチン氏が戦争へ進む3つの訳 – 木村正人

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「ウクライナ侵攻計画はすでに始まっている」英首相

[ロンドン発]ボリス・ジョンソン英首相は20日、英BBC放送のインタビューで「計画はある意味すでに始まっていることをすべての証拠が示している。ロシアは1945年以来、ヨーロッパで最大の戦争を計画している。ウラジーミル・プーチン露大統領は非論理的に考えている可能性がある」と指摘した。

米政府の推計ではウクライナ国境に親露派勢力を含め16万9千~19万人のロシア軍が展開している。一方、ロシア政府系通信社スプートニクは、ウクライナ軍が17日以降、ミンスク(停戦)合意で禁止されている迫撃砲を使って東部ドンバスの親露派地域への砲撃を繰り返しているためロシアへの住民の避難と19日には総動員を発令したと報じた。

プーチン氏は、ドンバスの親露派地域で暮らすロシア系住民約72万人にロシア国籍パスポートを発行しており、約70万人をロシアに避難させると発表している。ウクライナ軍がドンバスの親露派地域を攻撃しているとデッチ上げる偽旗作戦をロシアが開始して“自衛権発動(自国民保護)”の口実にしようとしていると米英両政府はみている。

ウクライナ政府は16日、ロシアが銀行2行とウクライナ国防省へサイバー攻撃を仕掛けていると非難した。本格的な戦端こそまだ開かれていないものの、ロシアによるウクライナ侵攻計画はジョンソン氏が指摘するようにすでに始まっているとみた方がいいだろう。北京冬季五輪が閉幕し、プーチン氏は中国の習近平国家主席に気遣う必要もなくなった。

しかしプーチン氏が地上部隊をウクライナに侵攻させれば、ウクライナ軍やウクライナ国民の激しい抵抗に遭って泥沼の市街戦となり、旧ソ連崩壊のきっかけとなったアフガニスタン侵攻(1979~89年)と同じ轍を踏む恐れが大きい。それでもプーチン氏を戦争へと駆り立てるものは一体、何なのか、考えてみた。

歯向かう者は許さない

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2000年に大統領に就任、チェチェン制圧に乗り出したプーチン氏は露紙ノーバヤ・ガゼータの記者アンナ・ポリトコフスカヤさん、イギリスに亡命した元ロシア連邦保安庁(FSB)幹部のアレクサンドル・リトビネンコ氏らに厳しく批判される。06年10月、ポリトコフスカヤさんはモスクワで射殺され、翌11月、リトビネンコ氏はロンドンで毒殺される。

リトビネンコ氏毒殺には国家が関与したとしか考えられない放射性物質ポロニウム210が使用され、英内務省の公開調査委員会は16年の報告書でプーチン氏が承認した疑いを指摘している。筆者はリトビネンコ氏の妻マリーナさんや、プーチン氏とサシでランチした元クレムリン番記者エレナ・トレグボワさんから取材したことがある。

1998年、24歳のトレグボワさんはFSB長官だったプーチン氏に誘われ、モスクワ市内の寿司レストランでランチする。2年後、大統領になったプーチン氏はジャーナリストを遠ざけるようになり、トレグボワさんは記者会見で当局の取り締まりを逃れて幅を利かせているオリガルヒ(新興財閥)について質問しないよう釘を刺されたという。

それでも政権に厳しい質問を続けたトレグボワさんはクレムリンを出入り禁止になる。プーチン氏との寿司ランチを暴露する回顧録を出版した翌年の2004年、パーティーに出かけようとしたところ廊下に仕掛けられた爆弾が爆発。ポリトコフスカヤさん射殺事件のあとトレグボワさんはイギリスに亡命した元財閥を頼って祖国を脱出する。

その元財閥がつけてくれたボディーガードは、後にリトビネンコ氏を毒殺したロシア人工作員だったのだ。プーチン氏は自分に歯向かう者は絶対に許さない残忍さと執念深さを持つ。昨年、プーチン氏は「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」という論文を発表、「ロシア人とウクライナ人は一つの民族であり、統一性を持っている」と強調した。

これに対し北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指すコメディアン出身のウォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領は「プーチンは時間を持て余しているに違いない」と皮肉った。ゼレンスキー氏はクリミア奪還を求める外交イニシアチブ、クリミア・プラットフォームを立ち上げ、プーチン氏の神経を逆なでした。

なめられたプーチン氏は自分の面子を守るためゼレンスキー氏に鉄槌を下さずには置かないだろう。

プーチン氏は「弱き強者」なのか

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旧ソ連時代も独裁者は存在したが、共産党独裁だった。だから1961年のベルリン危機も62年のキューバ危機も乗り越えられた。しかしウクライナに侵攻したプーチン氏はバルト海に面した飛び地領カリーニングラードと同盟国ベラルーシで挟み撃ちにする形でバルト三国に侵攻するかもしれない。その時は第三次世界大戦の引き金になるだろう。

『弱き強者 プーチンのロシアにおける権力の限界』の著者で米コロンビア大学のティモシー・フライ教授は昨年9月、英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ」でのイベントで「プーチン氏の支持率が80%だった頃、ロシア経済が活気づいていた頃、クリミア併合の余韻に浸っていた頃に比べ、今はプーチン疲れが広がっている」と指摘した。

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