米が露の侵攻を主張し続ける背景 – PRESIDENT Online

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ウクライナをめぐって、アメリカは「ロシアはウクライナ侵攻を計画している」と主張し、ロシアが「そんな意図はない」と否定するやりとりが続いている。日本大学危機管理学部の福田充教授は「バイデン大統領はクリミア侵攻を許した『2014年の失敗』を繰り返さないために必死だ。しかしプーチン大統領の本当の狙いは直接侵攻にあるわけではない」という――。



バイデン米大統領(右)とロシアのプーチン大統領 – 写真=AFP/時事通信フォト

なぜプーチンはウクライナに固執するのか

アメリカのナンシー・ペロシ下院議長はABCテレビのニュース番組で、「ウクライナへの攻撃は民主主義への攻撃だ」とロシアに警告した。この一言がこのウクライナ危機の本質を表している。

ベラルーシで実施された合同軍事演習に参加するという名目で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は大量の部隊と兵器をウクライナ国境に集結させた。

そして大規模な実弾軍事演習を長期間にわたって展開し、その模様を国営プロパガンダメディアであるタス通信やロシア通信(RIA)、スプートニク、RT(ロシア・トゥデイ)などを通じて世界に発信した。

ウクライナの国境付近にある自らの軍事的プレゼンスを隠しもせず、世界にプロパガンダまでして、ウクライナや西側諸国に対してその脅威を見せつけた意図はどこにあったか。

プーチンの目的は、ウクライナにNATO加盟を断念させること、そしてNATO加盟国、アメリカに対して直接的軍事衝突、戦争を回避させるためにウクライナのNATO加盟を躊躇させ、NATO内部を分断させることである。

その論理は明快で非常にわかりやすい。

かつての東西冷戦期における北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構の軍事的な対立と均衡から、冷戦終焉を経て、ソ連崩壊から発生した軍事バランスの不均衡と周辺国家の不安定化が、ウクライナ危機の発端である。

この危機が「新冷戦」と呼ばれるゆえんである。ロシアはかつて旧ソ連の一部でありロシア人も多く居住する隣国ウクライナのNATO加盟と、それにより西側の軍隊や兵器がロシアに直接向けられる事態を認めるわけにはいかないのである。

このウクライナ危機はそういう意味において、古くて新しい問題である。

バイデンの「オープン・インテリジェンス戦略」と呼べる禁じ手

それに対し、ジョー・バイデン大統領によるアメリカの戦略は、インテリジェンス機関が収集し分析した情報を積極的に世界に発表して、ロシアの意図はウクライナ侵攻であるというメッセージを、メディアを通じて世界に発信し、世界の注目をウクライナに集め、ロシアが実際に侵攻できないようにする抑止策である。

アメリカにおいても中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)などのインテリジェンス機関の情報を安全保障に活用し、戦争開始の決断や、人道的介入の根拠とすることはこれまでも一般的になされてきた。

だが、このように軍事作戦による侵攻をしようとしている相手国の行動を封じるために先手先手で、自らのインテリジェンス情報を積極的に公開して活用するこの「オープン・インテリジェンス戦略」とも呼べる方法はあまり一般的ではなかった。

なぜならこれらのインテリジェンスの公開は、自らの情報収集能力やその組織、協力者などを危険な状態にさらすことになるからだ。

このオープン・インテリジェンス戦略は、相手の出方を先に世界に公表することで、相手がその手段をとれなくするようにする究極の抑止策であると同時に、インテリジェンス活動の禁じ手でもあるという、諸刃の剣の側面を持っていることも理解せねばならない。

「何もできなかった」2014年の失敗から得た教訓

アメリカ、バイデン政権がこうした戦略をとったことにも理由がある。

このウクライナとロシアの安全保障上の対立、軍事衝突のリスクに対してアメリカは単独で直接的に軍事介入できないという制約がある。ここでは安全保障理事会の機能しない国連というスキームも全く役には立たない。

そのような状況において、2014年のロシアによるソチ冬季五輪開催時にクリミア・ドンバス紛争は発生した。安全保障の能力が極めて低かった当時のバラク・オバマ政権はこのとき何もできなかった。



※写真はイメージです – 写真=iStock.com/benstevens

ロシア軍は軍事的圧力により脅威を与えながら、ウクライナ国内に存在する親ロシア分離派武装組織を利用して、クリミア、ドンバス地方の実効支配を獲得することに成功したのである。現在のウクライナ危機はそれ以後継続している事態であり、この状況はバラク・オバマ政権の失敗に始まり、そのあとのドナルド・トランプ政権においても放置された。

こうした歴史的経緯と、制約条件を考慮してバイデン政権がとった戦略が、今回のオープン・インテリジェンス戦略である。

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