【山田祥平のRe:config.sys】古きプロセッサを温ねて新しきプロセッサを知る

PC Watch

 Winows 11は、第7世代以前のCoreプロセッサを切り捨てた。セキュリティを担保できないというのがその理由だ。嘆いていても仕方がないので移行のために、2021年秋デビューのAlder Lakeを試している。そして使えば使うほど快適さを痛感するとともに、6年前の第6世代Core i7がかなりすごかったことに気付くのだ。

贅沢はしても冒険はしないでハードウェアを調達

 PCの使い方は人それぞれだ。常用しているアプリも違う。個人的に直近まで現役バリバリで使っていたデスクトップPCは、2016年の夏に自作したCore i7 6950X機で、32GBのメモリを装備、Radeon RX 480をGPUとし、480GBのSATA SSDをシステムドライブとしていた。

 この環境でほぼ6年間使い続けてきた。まだ設定等が決まらず、ぎこちない状態で使っているAlder Lakeこと第12世代Core i9機の環境と比べたときに、この6年間、構成をいじらずに愛用している自作PCが大きく見劣らないことに、ちょっとした驚きを感じている。

 今回、最新環境の評価のために整えたハードウェアは以下の構成とした。

 前回同様に、これから6年間はストレスなく働いてほしいので妥協は禁物だ。また、パーツで妙な冒険をして悩むのも避けたい。だからよく知られたベンダーの実績あるブランドのパーツを選んだ。これなら何かあってもトラブル回避情報を入手しやすい。

 この先あるとすれば、メモリを追加するくらいだろう。これは6年前の自作時も同様で、最初16GBだったメモリを32GBに増設した。別ロットのメモリ装着でトラブルが出ないことを祈るのみだ。

クルマのエンジンは空を飛べるくらいでちょうどいい

 PCの処理性能を比較するにはベンチマークテストの結果を見るのが分かりやすい。ただ、実際に使ったときの体感は、ベンチマークの値とはちょっと違うように感じる。順列が変わるわけではないにせよ、n倍という感覚がどうもピンとこない。

 OSをクリーンインストールし、各種のアップデートを適用し、常用アプリをインストールして、いつもの作業をいつものようにやり始めたときに感じたのは、誤解を怖れずにいえば、そんなにいうほど速くないということだった。打てば響く感が6年前のPCとあまり変わった感じを受けなかったのだ。

 だが、変わっていないのは自分自身だった。6年前とやることがほとんど変わっていないのだ。大きく変わったとしたら、接続しているディスプレイが複数枚の4K解像度になったこと、再生する映像コンテンツが4Kになったり、音楽がストリーム再生のUltra HDになったことくらいだ。

 インターネット接続の帯域も変わっていない。使うアプリは、Microsoft OfficeとAdobe Creative Cloudの各種アプリ、あとはWebブラウザとテキストエディタといったところか。

 6年前のPCでYouTubeの4Kビデオをフルスクリーンで2コンテンツ表示させ、タスクマネージャで確認すると、CPUがガンガン使われているのが分かる。これが第12世代Coreだとほぼ平常運転で、なんのインパクトもない。第6世代CoreでのCPU使用率はフルに近いが、第12世代Coreでは数%ですんでいる。意外にGPUを使わないことも分かった。たいした話じゃないのだろう。

 いずれにしてもCPUはハイスペックのものを買っておくものだと痛感する。当時のハイエンドだからこそ、今もなお特に不自由なく使えるのだ。ゲームをしないのなら内蔵グラフィックスで十分かもしれないということも分かってきたが、これはまだまだ検証しなければならない要素がある。特に、4Kディスプレイ数台のマルチディスプレイ環境については分からないことも多い。追ってレポートしたい。

 第6世代Coreでは、たくさんのことを同時にやろうとすると、タスクの切り替えも微妙にもたつくし、ビデオをエンコードしようものなら、GPU使用率は100%で天井に張り付く。それでもちゃんと働いてくれる。

 プロセッサはそうでもないが、CPUとGPUどっちをどう使おうにも、4KビデオをH.264で書き出すのに実時間の倍かかる。何かをやるたびにひっかかり感があって、エンコードしながら別のことをするという気にはなれない。それでも一度にいろんなことをやろうとしなければ、特に処理に不満を感じることなく今も普通にできるのだ。

 でも、個人的にYouTuberになるつもりもないので、コンテンツ作りのための動画の編集やエンコードはめったにやることはない。大量のRAW写真を一気に現像しなければならない用事もあまりない。

 これらの作業、12世代Coreだと、もたつきなどいっさいなく、エンコードは実時間と同じくらいで完了する。CPUもGPUもがんばっているが使用率は8割ほどで抑えられていて、普通にほかの作業ができる。バックグラウンドで重い処理が実行されていることは気にならない。

 4KビデオをYouTubeで流しながら、Ultra HDの音楽を聴き、Officeアプリを使って作業してもまったく支障がない。ストレスは皆無だ。もうそれだけで大きな価値があると思う。しかも、ビデオカードを除いた総コストは6年前の半額近いんじゃないだろうか。

プロセッサ世代の温故知新

 最初に書いたように、CPUやGPU、そしてそれらを統合した環境の優劣を比較するためには、ベンチマークテストはとても分かりやすい指標となる。n年前のxに対して、y倍の処理性能というのは絶対的なデータとして君臨する。

 だが、個人が向き合う環境としてのPCの快適さを測る指標は、ベンチマークの値ではなかなか伝わらない。性能が10倍になったとしても体感的にはそんなに速くなった感じがしないことも多いからだ。

 よくあるたとえ話が、PCを新しくしても秀丸エディタがちっとも速くならないというようなものだ。でも、使うにつれて、色々なシーンでの底上げが、トータルでの使い勝手を高めていることに気がつく。

 今回は、たまたまWindows 11が古いプロセッサを切り捨てたので、仕方なくといった気持ちで移行を試みた。だが、そんなことでもなければ、特に不満のなかった環境を、この先、少なくとも数年は使い続けようとしていただろう。きっとそれで、自分では気がつかないままに、いろんな場面でソンをしていたに違いない。

 数値で指し示すのが難しい余裕のようなものが、高性能PCの新しい当たり前なのだろう。まさに温故知新だ。本当は、それが分かる指標が欲しい。

 PCの自作は、以前に比べればずいぶん簡単なものになった。標準化は以前よりも洗練されたかたちで完全なものになり、迷うことも少なくなっている。クルマでいえば、シャーシにエンジンとトランスミッション、ステアリング、ブレーキなど、走る、曲がる、止まるをかなえる動作のための要素を別途調達して装着し、上着をかぶせるようなことをするわけだ。

 とはいえ、それで必ずしも最良の結果が得られるとは限らないし、多くのトラブルは自己責任で解決しなければならないものの、自己満足的であるにせよ、大きな達成感があって、そのPCに愛着を感じるようになる。このことは、PCを使い続けるために大事なことだと思う。

 暮らし方や働き方が変わり、個人の生活にとってのPCの存在が見直されつつもあるなかで、ゲーミングやクリエイティブ以外の使い心地指標を確立したい。

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