パワハラ 会社の窓口は5割無視 – PRESIDENT Online

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職場でパワハラを受けたらどうすればいいのか。労働問題に取り組むNPO法人POSSEの坂倉昇平さんは「会社の窓口に相談した場合、残念ながら5割は『無視』『放置』されている。被害についての録音や録画を残したうえで、社外の相談窓口に頼ったほうがいい」という――。
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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/erhui1979

企業のハラスメント対策は信用できるのか

いじめ・パワハラ被害が深刻化している。厚労省が職場のいじめ・パワハラによって精神障害が発生したと認定した件数を見ても、この11年間で10倍に膨れ上がっている。そんな中、2022年4月から中小企業にもパワハラ防止法の本格的な適用が始まる(大企業は2020年6月から適用されている)。しかし、このパワハラ防止は、本当にうまくいくのだろうか?

筆者はNPOや労働組合の活動を通じて膨大な労働相談を受ける中で、このいじめやハラスメントが横行する深刻な労働現場の実態に向き合い、そこから見えてきた背景について、昨年『大人のいじめ』(講談社現代新書)にまとめた。

この記事では、同書の内容を踏まえつつ、昨年発表された日本経団連と厚生労働省による2つのハラスメント調査を参考にしながら、企業のハラスメント対策がどこまで信用できるのか、本当に有効なハラスメント対策とは何なのかを考えていきたい。

パワハラ防止法で可視化された被害者たち

2021年12月、経団連が職場のハラスメント防止に関するアンケート結果を発表した。会員企業に対して9~10月に実施したものだ。この結果、回答した企業の44%において、5年前と比較してパワハラの相談が増加していたことがわかった。

坂倉昇平『大人のいじめ』(講談社現代新書)
坂倉昇平『大人のいじめ』(講談社現代新書)

この数字は、ざっくり2つの観点から考えることができる。まずは、パワハラ行為そのものが、実際に以前より増加したという可能性である。これは厚労省のいじめ・パワハラ相談が一貫して増え続けていることから、明らかであると考えられる。

もう1つは、2019年にパワハラ防止法が成立し、翌年から大企業に対して適用されたことで、この1、2年で労働者に対して啓発的な効果があり、相談が増加したというものだ。特にパワハラに対する取り組みの数が多い企業に絞ると61.1%で、相談数が増えており、その影響は少なくないといえよう。

パワハラ防止法によって、これまで泣き寝入りするしかなかった被害者たちが、受けた被害が問題のある行為であることに自信を持ち、対応してくれる窓口があると知った意義は大きい。

しかし、問題はその後である。企業の相談窓口に相談したら、どうなるのだろうか。経団連の調査では、肝心のその後は調査されていないようだ。その先の実態がうかがい知れるのが、2020年に労働者に対して調査が行われ、2021年に発表された厚労省のハラスメント調査である。

企業は相談の半数を「放置」「無視」している

この調査によれば、労働者がパワハラを受けている(またはパワハラがあった可能性がある)ことを知ったあとの勤務先の対応について、なんと「特に何もしなかった」が47.1%に上っており、1位を占めている。ほとんど半分だ。

ちなみにほかの回答項目(複数回答あり)は「あなたの要望を聞いたり、問題を解決するために相談に乗ってくれた」(28.0%)、「あなたに事実確認のためのヒアリングを行った」(21.4%)、「行為者に事実確認を行った」(9.7%)などである。

事例によっては、被害内容がグレーゾーンに当たり、パワハラとまでは判断されないこともあるだろう(もちろん、企業側が被害を過小評価することは十分にあり得る)。しかし、相談者、行為者にヒアリングをするという、いずれも被害事実がパワハラであったかどうかを判断する手前のプロセスですら、それぞれ2割、1割程度しか行われていない。あろうことか相談者の要望を聞くという、ごく最低限の対応すら3割に満たない。約5割は「放置」や「無視」をされ、初歩的な段階で闇に葬られてしまうのだ。

筆者も相談で経験したことがあるが、加害者や関係者、会社で事実関係について口裏合わせをされてしまったり、証拠を改ざん・隠蔽(いんぺい)されたりというパターンも少なくない。

このように厚労省の調査を見る限り、企業の相談窓口の実態は、信頼して利用できるとは到底言えないのが現状だ。

会社がパワハラ相談を無視する実態については、私の著書『大人のいじめ』の一部を紹介した記事「たった1年で30人が離職…「黒字転換」した介護施設で起きていた“陰湿ないじめ”の手口」も読んでみてほしい。

コミュニケーション強化でパワハラは解決するか

ハラスメント「発生後」の相談窓口の対応に不安がある一方で、企業のハラスメント「防止」にはどのような課題があるのだろうか。

前述の経団連のハラスメント調査では、ハラスメント防止・対応の課題についても加盟企業に尋ねている。1位は63.8%が「コミュニケーション不足」だった。ついで、「世代間ギャップ、価値観の違い」(55.8%)、「ハラスメントへの理解不足(管理職)」(45.3%)と続く。大まかには、もっと社内のコミュニケーションや考え方、周知啓発を増やすことで、パワハラが減ると認識されているようだ。

本当に、パワハラ対策の課題はそこにあるのだろうか。そこで参考になるのが、前述の厚労省ハラスメント調査だ。この調査の質問の1つでは、現在の職場でパワハラを受けている労働者と、過去3年間にパワハラを経験していない労働者に、職場で起きている、ハラスメント以外の問題について聞いている。この回答から、パワハラの背景を推測できるのではないだろうか。

実はこの質問でも、パワハラを経験している労働者のほうが、上司とのコミュニケーション不足があったと回答する割合が2.5倍ほど高く、コミュニケーション不足との相関関係があるといえよう。ただ、パワハラの結果としてコミュニケーションがなくなるというケースも多いだろう。

むしろ、ここで注目されるのは、「残業が多い/休暇を取りづらい」という項目だ。パワハラを経験した職場とそうでない職場とで、約2.3倍の差がついているのだ。

ここから、長時間労働や休みを取れないなど、過酷な労働環境がパワハラをもたらしているという構造が浮かび上がってくる。実際、記事「先輩に顔面を10発殴られて転倒…それでも若手社員が“血で汚れたシャツ”で仕事を続けたワケ」ではわかりやすく、長時間労働や膨大な業務量によるストレスから、暴力を含むパワハラが横行していた。

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