メンタルヘルスの男女差に空腹や体温などを知覚する「内受容感覚」の違いが影響している可能性

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「人間の感覚」といえば視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚でくくられる五感を連想する人が多いはずですが、これらとは別に空腹感・心臓の鼓動・体温といった身体内部の状態を知覚する「内受容感覚」という感覚も存在します。そんな内受容感覚における男女差が、うつ病や不安障害などのメンタルヘルスに影響するという研究結果が報告されました。

Sex differences in interoceptive accuracy: A meta-analysis – ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0149763421005248

Differences in how men and women perceive internal body signals could have implications for mental health
https://theconversation.com/differences-in-how-men-and-women-perceive-internal-body-signals-could-have-implications-for-mental-health-172917

内受容感覚は多くの人は注意を払っていない存在ですが、身体のシステムを適切に動作させる上では重要です。たとえば、「喉が渇いている時に飲み物を飲む」「暑すぎると感じた時に上着を脱ぐ」「心拍数が高すぎる時に休む」といった、体のバランスが崩れそうな兆候を感じ取り、修正するために内受容感覚は役に立ちます。

また、内受容感覚は意思決定・社会的能力・感情的な幸福といった多くの心理的プロセスに貢献するため、人々のメンタルヘルスにとっても重要だそうです。そのため、内受容感覚の混乱はうつ病や不安、摂食障害といったメンタルヘルスの問題に関わっているほか、多くのメンタルヘルスに関する身体的症状が共通している原因である可能性も示唆されています。


内受容感覚が心身の健康と密接に関わっていることが知られているものの、男性と女性が身体の内部信号をどれほど正確に知覚しているかについてはあまり知られておらず、過去研究結果はまちまちだとのこと。そこで研究チームは、より正確に内受容感覚における男女差を調べるために、93の異なる研究データを組み合わせて分析しました。

研究チームが対象とした研究には、被験者に心臓の鼓動を数えるタスクを課したものもあれば、胃が収縮した時に閃光(せんこう)を感じ取ったかどうかを尋ねたもの、呼吸を妨げるデバイスを装着して呼吸のしやすさを評価してもらったものもありました。

分析の結果、内受容感覚においては男女差が存在することがわかりました。女性は男性と比較して、心臓に焦点を当てたタスクでの正確性が低いほか、肺に焦点を当てた一部のタスクでも有意に精度が低かったとのこと。これらの違いは被験者がタスク中に努力した度合いや体重、血圧、その他の生理学的要因では説明できなかったと研究チームは述べています。一方、心臓ではない肺や胃に関するタスクでは明確な男女差が見られなかったものの、これは研究の数が少ないことが原因かもしれないそうです。


「男女で内受容感覚の正確性に差がある」という今回の研究結果は、うつ病や不安といった多くのメンタルヘルスの問題が思春期以降の男性より女性に多いことを理解する上で重要かもしれないとのこと。また、内受容感覚の問題は感情的・社会的・認知的機能を含む多くの分野に影響を及ぼす可能性があるため、女性の幸福を左右する要因になり得ます。

内受容感覚の男女差に関しては、「感情を処理する際、男性は女性よりも心臓などの内受容信号を使用している」との研究結果や、「女性の方が男性より内受容感覚に注意を払っている」という研究結果なども報告されています。男女で内受容感覚の差が生じる理由は明らかになっていませんが、ホルモンなどの生理学的要因や、ジェンダー観が感情や知覚に及ぼす影響が関与している可能性があるそうです。

2021年の研究では、内受容感覚に焦点を当てたトレーニングが自閉症を持つ成人の不安を軽減するとの結果が示されており、内受容感覚の理解を深めることは精神疾患の治療にも重要かもしれないと研究チームは主張しました。


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