メタバース にFOMOするブランドと、食傷気味な消費者たち

DIGIDAY

メタバースを巡り、マーケターはFOMO(Fear Of Missing Out:取り残されることへの不安)を抱いている。それが、ブランディングされたゲームキャラクターからNFTまで、さまざまなバーチャルプラットフォームにわたってブランド活動の波を引き起こしている。だが、ブランドが仮想空間でアクティベーションを盛んに展開すればするほど、メタバースというコンセプトがまだ真に形になる前に、消費者が食傷してしまうリスクにつながっていく。

2021年10月にFacebookがメタ(Meta)にリブランディングして以来、ブランド各社は先を争うようにメタバースでの存在感を主張しようと躍起になっている。TINT(ティント)の2022年UGC現況レポートによると、メタバースが2022年の戦略に影響していると回答したマーケターは49%に上り、メタバース戦略がすでにあると回答したマーケターも同程度の割合を占める。グローバルデータ(GlobalData)のレポートによれば、2021年第4四半期の決算報告で「メタバース」という言葉が使用された回数は135%以上増えたいう。

メタの米州グローバルビジネスグループ担当バイスプレジデントを務めるナーダ・スティラット氏は「ブランド各社がテレビからデジタルへの移行を前向きに捉えられるようになるまでに要した時間も関係していると思う。デジタルからモバイルへの移行も、すぐにはできなかった」といい、「そのため、ブランドやマーケターの側に『もっと早く参入すべきところにずいぶん時間をかけてしまった』という反省があるのではないか。そのような思いが今の状況に作用している面がある」と語る。

「しばらく様子見のほうがいいかも」

スティラット氏は、メタバースがまだ黎明期にある――今すぐ資源をつぎ込む先としてのメタバースが具体的にあるわけではない――と強調する。確かに、仮想世界で現在行われているブランドアクティベーションは、ROI効果やECの直接的なビジネスチャンスの開拓を狙うというよりは、新しいテクノロジーを試してみようという各社の意欲を示す色合いが濃い。たとえばNASCAR(全米自動車競走教会)のメタバース進出も、バーチャル技術関連の知識を徐々に積み上げていく機会を求めたもので、新規ファン開拓やチケットとグッズの販売拡大を狙ったものではない。

現時点では、メタバースについて確かなことは何もない。10年後にどのプラットフォームが生き残っているのかは定かではなく、メタバースにおけるデモグラフィック属性やユーザー行動に関する情報の追跡も難しいと考えられる。「ブランドにとって、メタバースはかなりの大ごとだ」とTINTのマーケティング担当バイスプレジデントのマット・グリーナー氏は話す。「戦略に取り組めるようなR&D予算や経営資源がある場合は、失敗する覚悟が必要。すぐに取り組みを開始できないのであれば、何が効果的なのか、しばらく様子を見たほうがいいかもしれない」。

ブランド側をメタバースへと向かわせている要因は、一部の消費者がメタバースに懐疑的な理由ともなりうる。

「消費者がメタバースをどう見ているかは、Facebookがメタへとリブランディングしたことにかなり影響されていると思う」と、デジタル制作会社のユニットナイン(Unit9)で欧州・中東・アフリカ担当マネージングディレクターを務めるロッシュ・シン氏は話す。同社は2022年1月にメタバース部門を立ち上げたばかりだ。「これまでにないバーチャルな世界への旗振り役というものがあるのだとしたら、Facebookは決して新しい未来に私たちを先導するのに最良の適任者ではない。彼らはうまくはやれるだろう。資金もあればリソースもあり、頭のいい人材もそろっているのだから。だがイメージ的な観点でいえば、Facebookというだけで、一般の人はすんなりと受け入れることなく、少々疑いの目で見てしまう」。

ユーザー本位なエピックゲームズ

メタバースの構築に関わる企業のなかには、メタバースのコンセプトを大々的に掲げて消費者に飽きられてしまうリスクを冒すのではなく、メタバースとのつながりをあからさまに前面に押し出さずに、仮想空間で過ごしたくなるような要素を用意することから始めている企業もある。エピックゲームズ(Epic Games)は以前からメタバース構築を目標としていることを公表しているが、大きく注力しているのは同社の中核を成すゲーム/プラットフォームであるフォートナイト(Fortnite)を、ユーザー層のティーンエイジャーたちにとって魅力的な遊びの場とすることだ。2020年4月のフォートナイトのライブコンサートでトラヴィス・スコットを見ようと何百万人ものユーザーがログインしたが、彼らのほとんどにとってそれは単にビデオゲームの延長でしかなく、エピックが思い描く、来たるべき未来を垣間見る機会だと思った者はほぼいなかっただろう。

もうひとつ問題なのは、ニール・スティーヴンスンのSF小説『スノウ・クラッシュ(Snow Crash)』に端を発するメタバースの真のコンセプトに沿っているかとはお構いなしに、「メタバースの一部」としてマーケティングされる商品やサービスがネット上に溢れかえっていることだ。たとえば、ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club)などのNFT作品はメタバースのものであると主張されるが、ロブロックス(Roblox)やフォートナイトといったプロト・メタバースでユーザーが体験することとの関連性はあまりない。

「メタバースだけではない。NFTが話題を集めたと思ったら次はWeb3.0。その次にはゲーミングの話も控えている」とテクノロジーコンサルタント会社のM7イノベーションズ(M7 Innovations)の創業者、マット・マー氏はいう。「クライアントにはこの3年間、フォートナイトに1230万人が集まってトラヴィス・スコットのコンサートをともに体験しているのだ、これ以上のメタバースがあるだろうか、と説明しつづけてきた」。

メタバースの時代はやってくる

ブランドと消費者の両方がメタバースというコンセプトに慣れ親しむにつれて(そして仮想空間を行き来することに慣れるにつれて)、メタバースを巡って競り合いを続けてきたFOMO感と食傷感は何らかの平衡に達するだろう。現在繰り広げられているブランド活動の嵐を通して、マーケターたちはバーチャル世界でのアクティベーションの効果をどのようにトラッキングしていけばよいのかを学んでいる。ロブロックスなどのプラットフォームに集まるティーンエイジャーたちが年齢を重ねていけば、メタバースに対して元来それほど懐疑的ではない消費者群が形成される。ハイプサイクル云々に関わらず、メタバースの時代はやってくるだろう。

マー氏は次のように語った。「これはアマラの法則の典型的な例だと思う。テクノロジーの効果は短期的には過大評価されるが、長期的には過小評価される傾向があるものだ」。

[原文:In the metaverse, brands’ FOMO is competing with consumers’ burnout

ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)

Source

タイトルとURLをコピーしました