2030年の札幌五輪を阻止する方法 – PRESIDENT Online

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札幌市が招致を目指す2030年冬季五輪について、IOCが年内にも開催内定とする可能性があると、今年1月に共同通信などが報じた。神戸親和女子大学の平尾剛教授は「ひとたび五輪が内定すると“どうせやるなら派”と呼ばれる人たちが開催を後押しする。8年後の五輪を阻止するには今からでも決して早すぎない」という――。

写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/winhorse

開催反対が8割超だったのに強行された東京五輪

年明け早々、2030年冬季五輪を札幌に招致する動きがあると共同通信が報じた。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と日本側が水面下で協議しており、開催地を一本化する時期が今年の夏ごろから冬にかけてという見込みから、年内にも開催が内定するという。

またも日本でオリンピックが開催されるかもしれない。風雲急を告げるこのニュースに、私はとたんに気鬱(きうつ)になった。

新型コロナウイルスのさらなる感染拡大を憂慮し、開催に反対する世論が8割を超えるなかで強行された昨年の東京五輪を、まさか忘れたわけではあるまい。医療従事者に多大な負担をかけ、必要な医療が受けられず自宅で療養する人たちが溢れる「医療崩壊」の一因となった事実を、私は忘れていない。予測される困難に見向きもせず頑として開催へと突き進むその姿勢から、オリンピックそのものの構造的な問題が浮き彫りになった。そうして明るみに出た数々の嘘やごまかしはまだ記憶に新しい。

不祥事や経費膨れ上がりが度々問題となった

IOC総会での安倍晋三首相(当時)による「アンダーコントロール」発言に始まり、票集めとされる約2億円の賄賂疑惑。7月の東京は温暖という虚偽報告に加え、エンブレムの盗作問題や、新国立競技場周辺住民の強制立ち退きもあった。

組織委員会会長が女性蔑視発言で辞任し、開会式の責任者となった元電通のクリエーターも女性蔑視の言動が明るみに出て辞任した。閉会後には13万食以上の弁当および未使用の医療備品の廃棄も明るみになった。

「コンパクト五輪」「アスリートファースト」「復興五輪」というスローガンも、内実が空虚な単なるプロパガンダにすぎなかった。

2021年12月現在、組織委員会が発表した経費総額の見通しは1兆4530億円。これに、会計検査院が発表している2018年度までの五輪関連支出約1兆600億円などを足し合わせると、総額は2兆5000億円を超える。これは、招致段階で示された約7400億円という当初の見積もりをはるかに上回る、夏季大会史上最高額となった。コンパクトとはほど遠く、もはや「蕩尽(とうじん)五輪」である。

アスリートも東北復興もないがしろにされ、検証も未完

また、アスリートが最優先でなかったことは酷暑下での開催が物語っている。

テニスの男子シングルスに出場したROC(ロシア・オリンピック委員会)のダニル・メドベージェフ選手は「今までで最悪な暑さ」だと不満を口にした。トライアスロン男子で優勝したノルウェーのクリスティアン・ブルンメンフェルト選手は、ゴール直後に倒れこみ、嘔吐(おうと)した。アーチェリー女子に出場したROCのスベトラーナ・ゴムボエワ選手に至っては、気を失って倒れ、のちに熱中症と診断された。

日本の夏が、アスリートがパフォーマンスを最大限に発揮するのに最適な時期であるはずがない。にもかかわらずこの時期での開催に至ったのは、放映権を保有するNBCへの配慮だったといわれている。つまりファーストだったのはアスリートではなく、「マネー」だった。

そしてなにより「復興五輪」が最も罪深い。関連工事が東京に集中したことで建築資材や人件費が高騰し、作業員の確保もままならずかえって復興の妨げとなったからだ。一橋大学名誉教授の鵜飼哲氏は、この現実をふまえて「復興妨害五輪」だったと正しく指摘している。被災地に暮らす人々に希望を抱かせておきながら、すぐさまそれを打ち砕いた罪は相当に重い。

これらを総括することなく再び招致を試みるのは、愚の骨頂でしかない。

中途半端な「外交ボイコット」で開催にひた走る北京五輪

にわかには信じ難い不祥事や不誠実な言動が明るみに出ても、いったん招致が決まればオリンピックは開催へとこぎ着ける。まるでブレーキが壊れた自動車のようにひた走る。

4日の開会式に先駆けて既に一部競技が始まった北京冬季五輪もそうだった。

開催前の昨年11月には、中国トップテニス選手の彭帥選手が中国共産党幹部からの性的強要を告白し、その後、消息不明となった。これを受けて、「ぼったくり男爵」ことIOCバッハ会長は本人とテレビ電話で対話し、その身の安全を確認したと発表した。

だが依然として周囲の状況など不明な点は多く、人権侵害への懸念は払拭(ふっしょく)されていないという見方がいまも残る。新疆(しんきょう)ウイグル自治区のイスラム系少数民族ウイグル族および香港民主化運動への弾圧も問題視されており、著しく人権を軽視する中国は世界各国から厳しい批判を浴びている。

これに対し、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどは、閣僚、外交官、政府関係者を大会に派遣しない「外交ボイコット」を決め、日本もこれに倣った。しかしながら日本オリンピック委員会会長の山下泰裕氏および東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の橋本聖子氏は派遣するなど、その内実は中途半端な対応でしかない。

背景にアスリートへの配慮があるにせよ、結論として開催そのものに否を突きつけたわけではないからだ。神戸大学大学院の小笠原博毅教授はこの外交ボイコットを「やってもやらなくてもいずれにせよ意味がない」とし、人類学者デヴィッド・グレーバー氏の言葉を借りて「bull-shit」(くそくらえ)だと指摘した。

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