ついに始まった中国の倒産ドミノ – PRESIDENT Online

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かつての日本でも資本市場が機能不全に

中国の不動産会社が震源となった信用不安が、いよいよ収拾がつかなくなってきた。

昨秋から社債の元利払いが懸念されてきた恒大集団の他にも、社債の元利払いが滞らせる債務不履行(デフォルト)が続出。その頻度は日本の「失われた10年」にもなかったほどで、中国の資本市場が機能不全を起こすなど、97~98年ごろの日本にそっくりの状況になってきた。

そこで日本の「失われた10年」に照らして、いま中国で起きている現象をどう位置づければいいのか、改めて考えてみたい。

五星紅旗と高層ビル

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Sky_Blue

日本で上場企業の経営破綻が相次ぐようになったのは97年からだった。この年の夏に「影響が大き過ぎて潰せない」と言われ続けてきた上場ゼネコン(総合建設会社)が立て続けに3社も破綻し、9月にはスーパーマーケットを国内外で展開していたヤオハンジャパンの転換社債が債務不履行を起こした。さらに11月には、三洋証券、山一証券、北海道拓殖銀行が破綻し、三洋証券は短期金融市場でデフォルトを起こした。

信用不安で投資家が社債購入を見合わせ

この97年後半を境に、信用不安が一気に広がった。信用不安を媒介したのは株式市場や資本市場、短期金融市場などのマーケットである。ここでは98年の資本市場を例にとってみよう。

資本市場に欠かせないインフラの一つに、債券格付けがある。最上級のAAA格からAA格、A格、BBB格と続き、ここまでが投資適格とされる。ところが98年当時、BBB格のれっきとした投資適格企業でも債券を発行できなくなった。

さらに大手機関投資家にとって債券投資には基準があり、A-以上の債券しか買えないところが大半。そのため「A-の銘柄は基準を満たしてはいるが、格下げされるとBBB+になってしまう」として、購入を見合わせる投資家が大半になってしまった。

投資家に募集をかけても調達予定額を満たすことができないケースが続出。信用不安により資本市場が機能不全に陥ったせいである。大手自動車メーカーのグループ企業は必要額を大幅に下回る資金しか集められず、大手ゼネコンはそれにも増してひどい状況だった。社債の年限を短くし、金利を上積みしても投資家が見つからず、社債の発行を諦めた企業も少なくなかったと聞く。

痛手を受けた投資家たちは再び戻ってくるか

その年の資本市場全体をみると、社債の発行額が当時過去最高の13兆円近くに達し、前年比で約2倍に拡大したが、BBB格企業の社債はわずか200億円足らずにすぎなかった。そのうえ生損保などの大手機関投資家はA-格の企業に対しても「格下げされてしまえば、即BBBゾーンになってしまう危険水域」として、A-企業の社債まで購入を見合わせた。大手機関投資家は多くが内規で「A-以上の債券でなければ購入できない」と定めているにもかかわらず、である。

現在、よく似た状況になっているのが中国の資本市場で、信用力の高い企業までも資金調達に窮するケースが目立つようになった。昨年秋にかけて当局の指導で社債発行が上向いたとの報道もあるが、民間企業だけではなく、国営企業でさえ経営難に瀕する事例が増え、企業金融への資金の出し手であった投資家が痛手を受けているのだから、彼らがどれだけ戻ってくるのかは疑問だ。

2015年8月24日、株価掲示板を見つめる中国市民

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/FangXiaNuo

倒産の波は半導体関連や鉱山経営にも

日本の98年当時に重ね合わせられる事例はこれだけではない。

不良債権問題の処理にてこずった日本では景気低迷が体質化し、不良債権を抱えていなかった製造業まで倒産の波にさらわれた。日本の主力産業である電機や機械、輸送用機器にまで倒産したり、倒産寸前にまで追い込まれる企業が相次いだのである。一方の中国も、不動産会社だけでなく、半導体関連や鉱山経営の会社にまで倒産の裾野が広がっている。

金融にも影響が及びつつあるのか、日本経済新聞は1月20日付の朝刊で「中国の商業銀行などが2021年9月末、海外からの債務を減らしていた」と報じ、「恒大の債務不履行リスクが高まったことで、中国の金融機関が短期マネーの調達に苦慮していた」との見方を紹介している。

不良債権問題の影響で中国の商業銀行がドル資金の調達難に瀕するようだと、やはり98年ごろに邦銀がドル資金を調達する際に上乗せ金利を求められた「ジャパン・プレミアム」に似た「チャイナ・プレミアム」が生じる可能性も出てくるだろう。

個別の金融機関の信用力にも影を落としている。社債のデフォルトが問題になっている恒大集団への融資が大きく、株価が低迷している中国民生銀行はさしずめ、不動産関連融資が大きかった日本長期信用銀行(現新生銀行)や日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)といったところか。それとも97年に倒産したゼネコン東海興業への融資が大きく、経営破綻の要因のひとつになった北海道拓殖銀行になぞらえられるだろうか。

海外投資家への弁済は後回しになる恐れ

もちろん日本の失われた10年とは異なる点もある。中国企業が海外市場で発行したオフショア債も償還が懸念されていることは各種メディアで報じられているとおりだ。問題をややこしくしているのは、中国国内で発行された社債よりも、オフショア債の弁済順位が低いことだろう。

社債の分野には「クロス・デフォルト条項」と呼ばれる契約条項があり、どれかひとつの社債が債務不履行に陥れば、他の社債も担保を提供したり、償還を迫られるというものだが、中国市場の専門家によれば「中国企業のオフショア債は多くがその対象外」だという。

つまり中国本土で発行された社債の投資家は優先的に弁済を受けるが、オフショア債の海外投資家は後回しになる恐れがあるのだ。その点で中国政府の対応は場当たり的で、企業の経営破綻や債務不履行を制御できていないように見える。

中国政府は社債問題を素早く収拾できるのか

中国の社債問題は、日本でも国民生活に身近なところに影を落とし始めた。中国企業の社債を組み入れている投資信託は、昨秋あたりからその基準価格が下がり始めているのだ。それらには中国の不動産会社が発行した社債を積極的に組み入れた投信もあり、昨秋の時点で恒大の社債を組み入れた投信も数十銘柄に上る。

企業再生は時間との闘いだという。経営破綻やその瀬戸際に追い詰められた企業は顧客が離散したり、ライバル企業の草刈り場になったりして商圏が縮小し、競争力や資産内容の劣化が進みやすく、時間をかければかけるほど再生が難しくなる。

中国政府は恒大をはじめとする社債問題に対し、スピード感を持ちつつソフトランディングさせられるかどうか。しばしば強権的で強引な政策が目立つ中国政府に、それができるだろうか。

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山口 義正(やまぐち・よしまさ)
ジャーナリスト
1967年生まれ。 愛知県出身。法政大学法学部卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞社証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。月刊誌『FACTA』でオリンパスの不透明な買収案件を暴き、第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。 著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)などがある。
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