現役医師が5類変更に反対する訳 – PRESIDENT Online

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新型コロナウイルスの感染症法上の分類を、「2類相当」から「5類」(季節性インフルエンザなど)への引き下げを求める声が高まっている。医師の木村知さんは「私は反対だ。感染力の強いウイルスでそのようなことをすれば、感染者がさらに増え、社会活動の維持は余計に困難になる」という――。

日本の通勤風景※写真はイメージです – 写真=iStock.com/paprikaworks

現状では入院勧告や外出自粛要請が可能

オミクロン株の感染急拡大で、再び「新型コロナを2類感染症相当から5類感染症相当に格下げすべきだ」という議論が巻き起こっている。

小池百合子東京都知事が国に対して、新型コロナウイルス感染症を季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げる検討を行うように求め、安倍晋三元首相や松井一郎大阪市長も同様の見解を持っていると報じられている。テレビでは感情的に「今すぐ5類に引き下げよ!」と口角泡を飛ばしている医師が引っ張りだこだ。

先月末に行われた日本経済新聞の世論調査でも「コロナをインフル並みに」という回答が6割を占め、現在の位置づけを維持すべきと答えた人は3割だったという。

現在、新型コロナウイルス感染症は感染症法における1~5類とは別の枠組みである「新型インフルエンザ等感染症」に分類されていて、入院勧告や外出自粛要請といった強い措置が可能となっている。また感染した場合、その治療にかかる医療費も公費負担となるため、費用面からも感染症法上の1~2類と同等の扱いだ。

これが小池都知事の求めるように5類相当となった場合、今後の感染拡大と医療供給体制にいかなるメリット・デメリットがあるのだろうか。またそれによって私たちにどのような影響が及ぶのだろうか。本稿では、この「新型コロナウイルス感染症5類問題」について、感情的な議論は努めて抑えて冷静に考えてみたい。

5類引き下げ賛成派の意見

東京都では新規感染者が連日1万人を超え、病床使用率も50%を超える事態(本稿執筆時点)となっている。

一方、前回のデルタ株による第5波に比して感染者数が多い割には“重症者”がさほど増えておらず、感染者の症状は概してごく軽症で、それほど恐れる必要はないのではないかという楽観論がテレビをはじめとしたメディアで流されている。

そして何より2年以上におよぶマスク着用の“義務”、旅行や宴会、イベントの中止や延期、会いたい人に自由に会えないという不自由な生活に「いいかげんウンザリだ」との鬱憤が限界にまで蓄積してきている。これらが「新型コロナは季節性インフルエンザと同等でも良いのではないか」との意見が増えてきている理由であろう。

では「新型コロナを季節性インフルエンザと同等の扱い」にすることで、どのようなメリットが生じるのだろうか。それには現行のままではダメだという意見を述べている人たちの言葉に耳を傾けてみることが必要だ。

数多くの新型コロナ患者の診療を行ってきた経験から、現在の扱いを今すぐ変えるべきだと力説する医師の主張を動画で見た。その医師によると、現行のままでは、外来で診ていた新型コロナ患者を入院させようとするにも保健所を通さねばならず、そうかと言ってその保健所にも連絡がつかない。保健所を通さず診療した医師が紹介先の医師と直接交渉して入院できるようにすべきだと言う。

診療所室の空の病院用ベッド※写真はイメージです – 写真=iStock.com/LightFieldStudios

「現状だと特定の医療機関しか診察できない」と言うが…

また現在の「新型インフルエンザ等感染症」の位置づけでは、診療所において感染疑い者を時間的・空間的に分離させる必要があるため、特に冬場の今は寒い外で待たせておかねばならず非常に危険。よって「今すぐ法改正もしくは省令を出してカテゴリーを変え、これまでの季節性インフルエンザのときのように診察室内に患者を入れ、そこで診察、検査できるようにすべきだ」としている。

この医師の他にも「今すぐ5類に」との意見を発する人の中には、「2類相当の現行のままだと、街のすべての医療機関で治療できず、一部の医療機関に殺到してしまう」というものがある。感染症法の縛りによって特定の医療機関でないと新型コロナの診察と治療が許されないため、病床が逼迫し医療難民が出てしまうという意見だ。

では、これらについてひとつずつ検討してみよう。

コロナ患者でなくても入院は困難

まず、保健所を通さずに医師同士で直接入院交渉できるようにすべきだとの意見。確かにこれには一理ある。診断した診療所医師が自分で患者さんの経過を観察し、容体に変化を来した場合は、機を逸することなく高次医療機関に紹介する、これは通常診療ではごく当然に行われているやり方だ。それが可能であれば一番いいに決まっている。

しかし現在のように感染急拡大の局面で入院病床が逼迫している状況では、医師が直接高次医療機関に電話で交渉に臨めばスムーズに入院できるなどということはない。

先日も発熱外来を受診した高齢者を精査したところ、新型コロナ検査は陰性だったものの他の緊急入院を要する疾患が見つかったのだが、周辺の病院はどこに連絡しても満床につぐ満床。結局5カ所に断られ、受け入れ可能な病院にたどり着くまで優に1時間を要した。入院病床が逼迫している場合には、新型コロナでなくとも入院困難なのだ。

診療の片手間に転院先を探すのは無理

現場の医師が患者さんの転送の段取りに手を取られていると、その他の患者さんの診療が完全にストップしてしまう。これも現場では大きな悩みのタネだ。その間に次から次に訪れる患者さんのカルテは、うず高く積み上げられることになる。このことは臨床現場を知っている人なら誰でも経験したことがあるはずだ。医師が直々に電話をすれば、その医師の願いとあらばと、特別な空きベッドが湧いて出てくるような病院が近隣にいくつもあるならまだしも、そんな魔法を使える病院など、このご時世どこにも存在しないだろう。

現場の診療所では近隣の高次医療機関の空床情報や重症病床使用状況などの情報がリアルタイムに分からない。仮に分かったところで診療の片手間に転院先を探すことなど極めて困難なのだ。

やはり現在のような入院病床逼迫時には、地域の行政機関が司令塔となってこれらの情報を一元管理し、それに基づき入院調整してもらうしかない。第5波が去ったあと、なぜそのような入院調整業務を強化する体制を作っておかなかったのか。あまりにも怠慢と言わざるを得ない。

このようなことを言うと「だからこそコロナを5類にして全数入院などにしなければ良いのだ」とのリプライを必ずもらうが、そのような主張をする人には自宅療養がどれだけ厳しいものであるかの想像力が著しく欠けている。現状では入院か自宅かの100かゼロなのだ。ホテル療養もあるが、感染急拡大局面では焼け石に水だ。

第5波であれだけ自宅放置となる人が多数出て死者まで相次いだにもかかわらず、入院適応外となった人の自宅療養を極力減らすための大規模療養経過観察施設の建設を、なぜ感染爆発が一段落していたときに行ってこなかったのだろうか。

5類に引き下げたところで医療難民は減らない

次に、新型コロナを法的に季節性インフルエンザと同等の扱いにすれば、広く一般の診療所でも診察できるようになるのだから医療難民が減らせるのではないか、という議論について考えてみたい。それにはまず現状ではどうなっているのかを知る必要がある。

多くの人が誤解している可能性があるが、現在でも一般の診療所で新型コロナの患者さんの診療をすることは法的には問題ない。わざわざ5類に格下げしなくとも、現行の位置づけのまま街場のすべての診療所で診断・治療して構わないのだ。だが現実は違う。それはなぜか。

それは医療機関側の事情なのだ。ご存じの通り新型コロナは感染力が非常に強い。もし感染者が一般診療所の待合室で一定時間過ごしてしまうと、他の感染症以外の患者さんに容易に感染させてしまう。入り口や待合室が複数あるとか、動線が分離できる診療所でないと、感染疑いの患者さんを受け入れることは困難、いや不可能なのだ。先述の医師は「今までは完全に動線分離していたが、もう分離しきれない。インフルエンザと同じように診療するように変えた。おっかなびっくりやっている」と言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか……?

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