エージェンシー勢は、いかに メタバース へ適応しているか? : 競争力保持に向け、戦略の調整に励む

DIGIDAY

2022年、ブランド勢が各々のメタバース活動を加速させるなか、エージェンシー勢は来るべきバーチャル世界で競争力を保持するべく、戦略の調整に余念がない。

このところ、ロブロックス(Roblox)やフォートナイト(Fortnite)といったプロトメタバースプラットフォームは、米通信大手AT&Tや米アパレル大手ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)といったブランドのバーチャル活動で溢れかえっている。ブランド名を冠するこうしたスペースの構築は、しばしばインゲームデペロッパースタジオが手がけている。その大半は、結果的に参入することになったスタジオだ。「当初はたいていフォートナイトのデベロッパー、エピック・ゲームズ(Epic Games)から話をもらっていて、そこからさまざまなブランドとの接点が生まれた」と、フォートナイトのスタジオ、アトラス・クリエイティヴ(Atlas Creative)のCEOマイケル・ヘリンガー氏は語る。現在、後者の顧客には、韓国の電気通信大手LG、米パソコン大手デル(Dell)のハードウェア子会社Alienware(エイリアンウェア)、米プロバスケットボールリーグNBAなどがいる。「我々のビジネスモデルは現在、ふたつに大別される――エピック・ゲームズブランドのものと、第三者のものだ」。

こうしたインゲームスタジオは、端的に言えば、メタバースエージェンシーとして機能しており、物理世界における従来のエージェンシーとほぼ同様に、ブランド勢によるバーチャル活動の計画/実施を担っている。いや、メタバースのせいで、従来のエージェンシーが完全に後塵を拝している、というわけではない――たとえば、アトラス・クリエイティヴが手がけるLGの場合、計画自体は後者のインハウスエージェンシーが担っている――が、NASCAR(全米自動車競争協会)による最近のロブロックス進出といった活動の計画/実施は、エージェンシーの力を借りず、デペロッパーが単独で行なっている。NASCARが知的財産およびビジュアルアセットを提供し、デペロッパースタジオのバディモ(Badimo)がそれらをロブロックスのゲーム「ジェイルブレイク(Jailbreak)」に組み込んだ。以上だ――エージェンシーが首を突っ込む余地はない。

実際、こうしたインゲームスタジオの登場と、それに伴う彼らとブランド勢とのパートナー関係は、従来のエージェンシー勢にとって脅威となっている。「どのエージェンシーにも、この新たなスペースは無視できないと思う」と、eスポーツ/ゲーミングコンサルタント会社およびデータプラットフォームであるジーアイキュー(GEEIQ)のCEO、チャールズ・ハンブロ氏は話す。「君も覚えているとおり、90年代には印刷広告からの転換があった。突如ソーシャルメディアが現れて、我々は皆『こいつは困った、ソーシャルメディア用の戦略が要るぞ』となった。それと同じだよ、私が知るブランドもエージェンシーも、多くは当時の様子を引き合いに出し、我々が印刷からソーシャルメディアに移行したときと同様の気分だと言っている。あの時も、突然、まったく新たな世界を学ぶ必要が生じたんだ」。

新世界に馴染もうとするエージェンシー

その新世界に馴染むべく、メタバースでの存在感を示すための実験的プロジェクトに参加するエージェンシーもいる。たとえば、エージェンシー持株グループS4キャピタル(S4 Capital)などは、ホライゾン・ワークルームズ(Horizon Workrooms)で役員会議を開いている。2021年12月には、メディアハブ(Mediahub)がメタバースに参入し、メタバースプラットフォームのディセントランド(Decentraland)にバーチャルオフィスを構え、ボイスチャットサービスであるディスコード(Discord)の専用チャンネルも備えた。

「我々の場合、ディセントランドの利用はオフィススペースの代用に留まらない。むしろ、有力プラットフォームを利用した新たな一歩、といった意味合いが強い」と、メディアハブのSVP/クリエイティブディレクター、シミオン・エドムンズ氏は話す。「つまり、単なる代替オフィスではなく、顧客との会話に向けた出発点のひとつ、ということだ。メタバースに関する会話はすべて、無数の方向に発展していく可能性を秘めている――『このリンクをクリックすれば入れます、あとはW・A・S・Dの4つのキー操作でどうぞご自由に』と言うほうが、話がはるかに早い」。

ただ、メディアハブのバーチャルオフィスをはじめ、こうした動きはメタバースを信用して頭から飛び込むというよりもむしろ、まずは慎重に足先だけ入れて様子を見る、といったものに近い。その一方で、メタバースのより実用的な技術に投資するエージェンシーもいる。2021年12月、電通のエージェンシー、アイソバー・イタリア(Isobar Italy)は社内メタバース力を証明するべく、独自のロブロックスゲーム、ピッチ・ブリッツ(Pitch Blitz)を開発した。「たしかに、ロブロックスのエディタは利用した」と、アイソバー・イタリアのCEOマッシミリアーノ・キエザ氏は話す。「ただ、弊社には3Dに強い者たちがおり、だからこそ、ポリゴン(多角形)やそういったもろもろの点で精度を高められる」。

この先、ブランド勢がメタバース活動になおいっそう馴染んでいけば、従来のエージェンシーと新進のインメタバースデベロッパーはいわゆる平衡状態に達し、いずれのビジネスもメタバース台頭の恩恵にあずかるだろう、と見る者もいる。事実、「メディアもクリエイティブエージェンシーも、何でもすると言っている」と話すのは、VRやARといった未来のテクノロジーにフォーカスするクリエイティブエージェンシー、M7イノヴェーションズ(M7 Innovations)のプレジデント、マット・マヘア氏だ。「ただ、実際問題、それは現実的ではない。というのも、クライアントの1社が3Dモデルに移行したいというだけで、クリエイティブエージェンシーが1社で25ものビジュアルエフェクトのオーバーヘッド(諸経費)をすべて賄うことは、ありえないからだ」。

「エージェンシーに適応力は欠かせない」

実際、もろもろのメタバース化が進むなか、従来のエージェンシーが同スペース内に有機的に登場してきたインゲームデペロッパーを排除して成功することは、考えにくい。むしろ、エドムンズ氏も言うとおり、メタバースを意識するエージェンシーは下手に動かず、自らの得意とすることを粛々と続けるべきだろう。アトラス・クリエイティヴといったスタジオがブランドとの関係を強化しつつあるのは事実だが、従来のエージェンシーにはブランドとの長きにわたる信頼関係があり、ひとつのプラットフォームにこだわらず、複数のプラットフォームをまたぐキャンペーンでブランドに協力することができる。「そうしたデペロッパー勢――そう、彼らには重要なものが欠けている、我々エージェンシーが有しているような長期的関係性だ。それは、彼らのクライアントとの話だけでなく、ブランドとのあいだにおいても然りであり、さらにはどんな戦略が自分たちにとって効果的なのか、そのノウハウもない」とエドムンズ氏。「だからたしかに、制作に限って言えば、誰にでも構築は任せられる。しかし、たとえばそれに3年も関わり続け、すべての主要利害関係者が何にどう反応するのかを把握している者をそばに置いておくことは――そういうレベルの知識を持つ者はやはり、今後も絶対に必要となる」。

今後、「メタバース」の呼称に落ち着くか否かはともかく、消費者と消費者を相手にするブランドが時間と金をますます、バーチャルスペース内で費やすようになっていることは明らかだ。ソーシャルメディアやゲームなど、過去のイノベーションで遅れを取ったエージェンシー勢はおそらく、この初期の内に、メタバースにおける自らの存在感を示す術を探ることになるだろう。「乗り遅れたくないなら、この変化の一部になりたいなら、やるしかない」と、ピュブリシス・グループ(Publicis Groupe)のエージェンシー、ブーメラン(Boomerang)のCPO、フィクレット・フェタホヴィッチ氏は断言する。「この先も生き残りたいエージェンシーに適応力は欠かせない。それは、今を生きるエージェンシーのDNAになくてはならないものだ」。

[原文:How (and why) agencies are adapting to stay relevant in the metaverse

ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU

Source

タイトルとURLをコピーしました