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新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。感染力が強いオミクロン変異株によって、日本でも急激な勢いで感染者が増え続け、一日の感染者数は過去最高を更新している。コロナ危機に政府はどう対応すべきなのか。田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸 亀松太郎】
地方自治体中心のコロナ対策
新型コロナウイルスの感染は昨年の夏、デルタ株によって大きく広がり日本社会を苦しめたが、秋になると感染者は減少し、落ち着いた状態が続いていた。
これでようやくパンデミックも収束するのかと思ったら、オミクロン株がやってきた。この変異株は感染力が非常に強いのが特徴で、凄まじい勢いで感染が拡大している。
一方でオミクロン株の場合はデルタ株と異なり、重症者の数が少ない。重症化しにくいようだ。死者の数も少ないという傾向がある。
ただ、重症者の比率が少ないとはいえ、感染がさらに広がっていけば重症者の数も増えていく。その結果、医療体制が逼迫して、患者の治療に支障が生じるという事態になる。
どうしたらいいのか。専門家たちも対応に苦慮しているのが実情だ。
今回は、コロナ感染者とともに、その濃厚接触者も激増している。従来と同じような扱いをしていると、医療施設が足りなくなったり、日常生活や経済活動に大きな制約が出たりするという問題がある。
どう対応していけばいいのか。政府や地方自治体は非常に難しい判断を迫られている。
たとえば濃厚接触者について、政府は1月中旬にそれまで14日間だった待機期間を10日間に短縮した。さらに感染者が増えると、待機期間をもっと短くすべきだという声が高まり、岸田首相は7日間に短縮すると表明した。
その一方で感染拡大を受けて、まん延防止等重点措置が適用される地域が急激に増えている。1月27日の時点で、適用地域は34都道府県となった。各地の病床使用率が高まるにつれて、緊急事態宣言が発令される可能性も出てきている。
そのタイミングについて、政府は地方自治体の判断に委ねたいと言っているが、緊急事態宣言を要請するかどうかという判断は、自治体によって大きく分かれそうだ。
だが、新型コロナウイルスのように、都道府県をまたいで急激に感染拡大していく感染症に対して、現在の都道府県単位の対応では不十分ではないかという指摘がある。
求められる感染症法の抜本的改革
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実は現在の感染症法は、100年以上前に作られた伝染病予防法がベースとなっている。感染症対策の根拠となる法律が今の時代に適応できていないのではないか、という批判があるのだ。
自民党内ではかねてより、武見敬三氏や塩崎恭久氏らが感染症法の抜本的改革をやるべきだと提言していた。しかし厚労省が抵抗して、法改正が進まなかったという経緯がある。
感染症法の抜本的改革とは、コロナのような特異な感染症に対しては、「平時の体制」ではなく「有事の体制」で臨めるようにすべきだというものだ。
感染症対策の判断を地方自治体に委ねるのではなく、政府が強いリーダーシップを持って感染症の拡大防止にあたれるようにすべきであるという主張だ。
たとえば、緊急事態宣言が発令されたとしても、日本の場合は欧米などと違って、違反者に対する罰則はない。そのような点を改めるためには、感染症法の抜本的改革が必要ではないかというわけだ。
今回のオミクロン株の感染拡大に対しても、政府が強いリーダーシップを発揮しているとは言いがたい。
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そもそも、現在の岸田内閣は安倍氏や麻生氏の支援で誕生した政権ということもあり、強い指導力を前面に打ち出していない。岸田首相自身もいろいろな人の意見に耳を傾けることを信条とする政治家と言ってよい。
その姿勢に対しては、「柔軟性があっていい」と評価する声と「政治姿勢がはっきりしない」という批判の両方があるが、今のところは「聞く耳」を持っている点が国民に評価されているようだ。
内閣支持率がここへきて上がっているのは、そのためだろう。
ただ、コロナの感染拡大がさらに広がり、重症者や死亡者の数が増え、医療体制が逼迫する状況が進んでいけば、内閣支持率も低下する可能性は十分にある。
岸田内閣にとって、コロナへの適切な対応が重大な命題であることに変わりはない。