価値を残す マーケティング とは? 注目される「ブランド・プロミス」の狙い:Henge 代表取締役社長 廣田周作氏【Glossy + TALKSレポート Vol.4】

DIGIDAY

モノやサービスがあふれ、SNSが広く普及した今、マーケターが考えるべき対象は市場・経済にとどまらず、社会や文化、環境問題にまで広がっている。社会全体が激変し、ファッション&ビューティ、ウエルネス業界におけるマーケティングの役割も大きく変化するなかで、多くのマーケターが燃え尽き症候群に陥っているのではないだろうか。

そんなむずかしい時代にありながら、マーケティングの新たな可能性と面白さを探るため、ここ3年ほどで100以上の海外事例をリサーチし、2021年11月末に『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)を刊行したのが、マーケターの廣田周作氏である。

廣田氏は放送局でのディレクター、広告会社でのマーケティング、そして新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、ブランド開発コンサルティング会社Henge Inc.を設立。独自のブランド開発やリサーチの手法で、多くの企業のブランド戦略立案やイノベーション・プロジェクトに携わっている。

「勝ち抜くマーケティング」から「価値を残すマーケティング」へ。
世界の取り組みをリサーチしたことで、これまでのマーケティングとは「違う景色が見えてきた」という廣田氏に、ファッション、ビューティ業界のオピニオンリーダーたちへの公開インタビューイベント「Glossy+TALKS」にて、マーケティングのいまと未来を語ってもらった。

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ーー いまブランドがもっとも重視すべきことは?

ブランドには、社会や環境に対してどのような取り組みをおこなっているかという「ファクト」と、それに基づいた「ブランド・プロミス」が問われている。なかでも注目されているのが、企業が消費者にどこまで未来を約束できるかという「ブランド・プロミス」で、そのことに成功しているのがFenty(フェンティ)というブランドだ。

Fentyは黒人女性であるリアーナが、「なぜ自分の肌の色に合うファンデーションが売られていないのか」という視点から、さまざまな肌の色の人に合う化粧品を開発した。彼女の考え方、行動、プロダクトすべてに一貫性があり、「本気度」が感じられるから、「リアーナが言うなら信じられる」と広く支持を集めている。

ーー注目されるブランド・プロミス。なぜ「約束」が必要になった?

SNSの影響が大きい。誰かにプロダクトをすすめるとき、そのブランドがまともじゃないと自分自身の信用も失いかねない。また世界経済の40%を占めるZ世代は「買い物=投票」だと捉えており、消費力を用いて悪い企業を淘汰させようとしている面もある。

ブランドは「昔に何があり、今はこういうことをやって、未来はこう変える」という物語、ストーリーテリングを通してユーザーに理解や共感をしてもらうが、とくに重要なのが「未来」を語る部分。環境への取り組み、差別をしない公正さ、カルチャーを存続させるためのサポートなどいろいろあるが、約束への本気度、実現度に人々は共感する。だから今後は、「ものづくり」と同じくらい「ものがたり」も重要になる。

ーー最近「ウェルネス」が脚光を浴びているのも、SNSが関係する?

それも一因だと考えられる。SNSは広告ビジネスなので拡大路線をとるしかなく、「この人もフォローしませんか?」と、どんどんフォローさせようとする仕組みになっている。その結果、“クソリプ”のような、見る必要がなかったものまで見えるようになり、ネット上でただすれ違うだけの、顔も知らない人に石をぶつけられ続けると心は病んでいく。

またSNSは誰かと誰かのつながりが見えるので、「自分はつながっていない」ことも同時に可視化されて、やればやるほど孤独になっていく。その結果、食生活のレベルから宗教やスピリチュアルに至るまで「癒し」が求められるようになり、さまざまな業界がこぞって、サービスやプロダクトに「ウェルネス」を置いたら何ができるかという競争を始めた。

ーー SDGsという視点でも、ウェルネスは重要だが。

日本ではSDGsというとサステナビリティの話ばかり出てくるが、ダイバーシティもひいては健康につながるように、広義のウェルネスを考えなければならない。健康という軸を事業に通し、縦割りだったサイロ型の組織を横でつなぐために、ニュージーランド航空では「チーム・メディカル・オフィサー」という役職を設置した。

ウェルネスを考えるときに気をつけなければならないのは、サイエンスファクトがないのに、いかにも効果がありそうに見せかける「ニセ科学(スード・サイエンス)」が多発していること。環境にいいことをおこなっているかのように見せることをグリーン・ウォッシングというが、「ウェルネス・ウォッシング」にも留意しなければならない。

ーーブランドを刷新しようとするとき、最初にやるべきことは?

まずは十分なリサーチをすること。日本の会社はリサーチをないがしろにしすぎる傾向にある。リサーチで大事なのは、「問いを立てる」こと。ブランドやプロダクトが社会課題や文化に接続する「特異点」のようなものを少しずつ手繰りよせていくと、だんだん社会や文化・環境など外の世界とつながり、リアルな生活が見えてくる。

何が課題なのかという明確な問いを立てることができれば、情報は磁石みたいにくっついてきて、気づきが得られる。その気づきにこそ「インサイト」があり、ブランドがストーリーテリングをする際の「コア」も見えてくる。

ーー明確な問いを立てられるようになるには、どうすればよい?

社会全体が激変するいまはマーケター自身が疲れきってしまい、バーンアウト寸前になるくらい追い詰められて、あらゆることに関心を持てなくなっている人が多い。人の気持ちに気づくには、まずは自分の心が柔軟に動く状態にあること、つまり感受性を豊かにしておく必要がある。

そのためには自分の心がカラカラに乾いているのを会社の事情や制度のせいにせず、まずは自ら水をやる。人と話す、小説や映画、ドキュメンタリーや歴史に触れ、旅先で見つけたものにヒントを探すなど五感を刺激して、いろんなものに触れる習慣を身につけてほしいと思う。

(公開インタビューイベントは2021年12月20日に実施)

■廣田周作(ひろた・しゅうさく)
1980年生まれ。放送局でのディレクター、広告会社でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。英国ロンドンに拠点をもつイノベーション・リサーチ企業Stylus Media Groupのチーフ・コンサルタントと、Vogue Business(コンデナスト・インターナショナル)の日本市場におけるディレクターも兼任。独自のブランド開発の手法をもち、様々な企業のブランド戦略の立案サポートやイノベーション・プロジェクトに多数参画。自著に『世界のマーケターはいま、何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

Written by 山本千尋

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