犯人を「有名人」にする報道の罪 – PRESIDENT Online

BLOGOS

「日本で最も有名な17歳」にメディアが大騒ぎ

東大前の路上で17歳の少年が、受験生の高校生ら3人を次々と刺した事件を受けて、「少年A」の人となりに迫るような報道が相次いだ。

大学入学共通テストを受けに来ていた受験生が切り付けられた現場周辺を調べる捜査関係者=2022年1月15日午前、東京都文京区

大学入学共通テストを受けに来ていた受験生が切り付けられた現場周辺を調べる捜査関係者=2022年1月15日午前、東京都文京区 – 写真=時事通信フォト

「勉強しろと圧力」逮捕の少年供述…東大前切り付け(テレ朝news 1月18日)
東大刺傷事件 逮捕の17歳少年が「勉強」と題しつづった卒業文集と意外な家庭環境(日刊ゲンダイ 1月18日)
東大志望、揺れた進路 受験生刺傷の高2、医学部から文系転向を相談(中日新聞 1月20日)
東大前刺傷事件 勉強の場に自らを置き続けた逮捕少年と「同級生の死」(NEWSポストセブン 1月20日)

これを受け、瞬間風速的ではあるが、少年Aは「日本で最も有名な17歳」になった。もちろん、少年法があるので顔や名前は知られていないが、普段はどんな生徒で、どんな考えを周囲に語っていたのか事細かに紹介され、その人物像が国民の頭に刷り込まれたからだ。

犯人を有名人にする報道が「模倣犯」を生む

さらに、ワイドショーでは専門家やらコメンテーターの皆さんが、どんなことに悩み、コロナ禍のなかで孤独を感じていたのではないか、などと好き勝手な憶測をしたことが知名度をさらに上げている。メディアの議論に触発された人々の間で「俺の考える少年A」が語られているのだ。皆さんも家庭、職場、そして友人との間で、こんな会話をした覚えはないか。

「東大以外でも医者になれるだろ。勉強できるのに、そういうところが頭が悪いよなあ」
「ニュースでやってたけど、教師に文系転向を相談したって話じゃん。医師にならなきゃって何かに追いつめられてたんじゃない?」

もはや「祭り」と言っていいほどの過熱ぶりだが、実はこのような状況はかなりまずい。メディアは煽った側なので、言いづらい部分があるが、無差別テロや大量殺傷事件が発生した場合、今回の事件のように、実犯人の素顔や思考を事細かに報じて「有名人」にしてしまうと、「模倣犯」を次々と生むことがわかってきているのだ。

そのため海外では、この手の事件が起きた際、「事件を報じても、犯人を有名にしない」という呼びかけも起きている。しかし、日本のメディアは逆張りだと言わんばかりに、京王線刺傷事件、大阪ビル放火事件、そして今回の事件まで一貫として「凶悪犯の素顔と人となりを全国のお茶の間にお届け」というスタンスを継続している。見方によっては、日本のメディアは、続発している無差別襲撃事件の「幇助」をしているようなものだ。

連続殺人犯がスター扱いされやすいアメリカ

という話をすると、決まってメディアは「われわれには国民の知る権利に応える義務がある」とか、「どんな少年か、事件の背景に何があるのか、ということを明らかにすることで同様の事件を防げる」なんて反論をするが、もはやそういう建前的な話では済まされないほど事態は深刻になっている。

それはアメリカを見ればよくわかる。

ご存じの方も多いだろうが、アメリカでこの手の事件が起きた際、報道は日本と桁違いに「自由」を謳歌する。犯人が少年であっても顔写真はバンバン流されるし、自宅前で生中継をして家族や友人も平気で追いかけ回すので、どんな人柄かなども詳しく報じられる。裁判にもカメラが入るくらいなので、犯人自身の姿もバンバン露出する。被告や受刑者になっても、テレビのインタビューに応じたりもする。

犯行現場の現場検証

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/JJ Gouin

つまり、日本と比べてはるかに、無差別大量殺人の犯人が「有名人」になりやすい環境なのだ。実際、テッド・バンディ、リチャード・ラミレスなど全米を震撼(しんかん)させた連続殺人犯は、逮捕されてからメディアの過熱報道によってスターのような扱いになってしまい、刑務所に多くのファンレターが寄せられた。

アメリカで運乱射事件が年々増えているワケ

さて、そんな「犯人が有名になりがちな国」で近年、右肩上がりで増えているのが銃乱射事件である。19年は全米で417件、20年には611件と急増しており当時は「トランプがヘイトを煽って社会の分断を招いたからだ」とかなんだと言われていたが、バイデン政権になっても状況はさらに悪化して、昨年は693件にまで増えている。

では、なぜ銃乱射事件は増えているのか。「米社会は格差や人種差別が深刻だから」「やっぱりコロナで孤立している人が多いのでは」など、日本の無差別襲撃事件などのように、その原因を「社会」に結びつける人も多いが、専門家たちは「犯人が有名になる」という現象が「連鎖」を招いていると指摘している。

銃乱射犯の87%が「有名になりたい」「注目されたい」

21年4月17日、米メディア・INSIDERで、ヴァンダービルト大学のCenter for Medicine, Health, and Societyのダイレクター、ジョナサン・M・メツェル博士は「注目を浴びる銃乱射事件があると、強い模倣現象が起こることが歴史的に分かっています」として、こう述べている。

「ニュースで1つの事件が報じられると、たくさんの模倣事件が誘発される傾向があるので、人々は波及効果を感じます。1つの事件がもう1つの事件を引き起こし、またそれが次の事件を引き起こすのです」(ビジネスインサイダー 21年4月21日)

銃乱射事件が発生してメディアが犯人の素顔を深堀りして、テッド・バンディやリチャード・ラミレスのように「有名人」になってしまうことで、そこに影響を受けた人々、触発された人々が模倣犯になっているというのだ。

実際、米LAタイムズ紙によれば、銃乱射事件の犯人の87%が「有名になりたい」「注目されたい」という欲求を持っているという研究結果がある。また、多くの犯人が、過去の銃乱射事件の犯人を「ロールモデル」や「憧れの存在」と見ていたことがわかったというデータもあるという。

タイトルとURLをコピーしました