新型コロナウイルスの変異株はどこで誕生しているのか?

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世界各地で猛威を振るう新型コロナウイルスには、アルファ株デルタ株オミクロン株など数多くの「変異株」が存在しています。「新型コロナウイルスの変異株はどこで誕生しているのか?」という疑問について、科学系ブログ・Microbiology Nuts & Boltsのライターである微生物学者のデイヴィッド・ガーナー氏が解説しています。

Where do mutants come from? – Microbiology Nuts & Bolts
http://www.microbiologynutsandbolts.co.uk/the-bug-blog/where-do-mutants-come-from

ガーナー氏が紹介している以下の図は、ウイルス株の広がりや経時的な変異を追跡するプロジェクト・Nextstrainが公開した「新型コロナウイルスの遺伝子系統樹」です。2019年に最初のウイルスが報告されて以降、実に多種多様なウイルスが誕生しているのがわかります。


たとえば2020年12月に登場した青い円は、新型コロナウイルスのアルファ株(青色)を示しています。アルファ株は従来株よりも感染力や重症度が高く、世界中で最も流行する新型コロナウイルス株となりました。


その後はすぐにデルタ株(薄い青色)が取って代わりましたが……


記事作成時点では2021年11月に報告されたオミクロン株(赤色)が主流となっています。


しかし、全体を見ると変異株のほとんどはそこまでの流行にはなっておらず、アルファ株・デルタ株・オミクロン株などの支配的な株になるものはごく一部であることがわかります。


同じくNextstrainが公開している以下の図は、円の中央が最初に発見された新型コロナウイルスを表しており、そこから円状にウイルスの系統樹を伸ばしたもの。外側にあるウイルス株を示す円から中央に伸びる線が長いほど、遺伝的に類似した変異株が少ないことを示しています。


これを見ると、オミクロン株(赤色)は特にその他の変異株との類似性が低く、まるでいきなり現れたように見えることがわかります。そのため、多くの研究者らが「オミクロン株はどこで発生したのか?」という点に頭を悩ませているとのこと。


ガーナー氏はオミクロン株がどこで発生したのかについて、「これに対する短くて簡単な答えは『私たちにはわかりません』です」と述べていますが、ある程度の推測を行うことはできると指摘。オミクロン株の発生については、以下の3つのシナリオが考えられると解説しています。

◆1:免疫不全の人の体内における抗原ドリフト
新型コロナウイルスは安定的なゲノムを持っており、小さな突然変異が累積することで発生する抗原連続変異(抗原ドリフト)によって、非常にゆっくりと遺伝子変異が発生します。そのため、感染後せいぜい数週間でウイルスが追い出されてしまう一般的な感染者の体内では、オミクロン株のような変異株が誕生する十分な時間がありません。

しかし、免疫不全の人の体内では新型コロナウイルスが数カ月以上も感染し続けることがあり、この場合は体内で突然変異が蓄積し、抗原ドリフトによって新たな変異株が生まれる時間的な余裕が存在します。ほとんどの科学者は、アルファ株・デルタ株・オミクロン株などの変異株は免疫不全の患者の体内で生まれて、他の人に感染が広がったのではないかと考えています。


◆人間以外の哺乳類間での抗原ドリフト
一方、同じ抗原ドリフトによる変異であっても、「人間以外の哺乳類間で抗原ドリフトが起きた」というシナリオもあり得るとのこと。実際、新型コロナウイルスは人間だけでなくイヌやネコゴリラトラ、ライオンなどにも感染することがわかっており、過去にはミンクで発見された変異株が人に感染した事例も報告されています。

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by dennisicecap1

そのため、オミクロン株のように突然現れた変異株が、実は人間以外の哺乳類間で誕生したものである可能性が指摘されています。2022年1月、中国の研究チームは「オミクロン株は、人間から新型コロナウイルスに感染したマウスで突然変異して、再び人間に感染したものだ」と主張する論文を発表しています。研究チームによると、オミクロン株が持つスパイクタンパク質の遺伝子配列が、マウスの細胞環境で進化した変異株のものと似ていたとのこと。

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ガーナー氏は、「動物で変異株が誕生したという仮説を裏付ける証拠はありませんが、仮説を排除する証拠もありません」と述べ、明確な証拠はないものの検討する必要があると主張しました。

◆3:免疫不全ではない人の体内における抗原シフト
3つ目のシナリオとしてガーナー氏が挙げているのが、「免疫不全ではない人の体内で2種類のウイルスが混ざり合った」という可能性です。ウイルスは生物の細胞内で増殖しますが、この際に2つの異なるウイルス株の遺伝子が混ざり合い、新しい変異株が誕生することを抗原不連続変異(抗原シフト)と呼びます。抗原シフトはインフルエンザウイルスでよく見られる現象であり、たとえば「H1N5」ウイルスは「H1N1」と「H2N5」が混ざったものと考えられています。

抗原シフトは新型コロナウイルスでは確認されておらず、オミクロン株の基となった2つのウイルス株の候補もないことから、3つのシナリオの中では最も可能性が低いとガーナー氏は述べています。


結局のところ、ガーナー氏は問題に対する答えを知らないと言いつつも、「免疫不全の人の体内で抗原ドリフトが起きたシナリオであることを願っています」と述べています。もし変異株が長期感染者の体内で発生しているのであれば、リスクの高い人に感染するのを可能な限り防ぐ措置を講じ、ワクチン接種を優先的に行うといった対策ができると主張。一方で、人間以外の動物で発生した変異株が人間にも広がっているのであれば、人間は新型コロナウイルスとの共存を目指すか、何か違う対策が必要になるだろうと述べました。

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