日本郵政グループが、正社員と非正社員の待遇格差を縮めるために「正社員の休暇を減らす」ことを労働組合に提案した。文筆家の御田寺圭さんは「『みんなで豊かになる』という物語は失われてしまった。今は『平等に貧しくなる』方が説得力をもつ時代になっている」という――。
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日本郵政が「格差を縮めるため」に選んだ方法
フェアなことは、いいことだ――と、だれもが考える時代だ。
フェアネスが尊重されることに、だれも異論を挿まず、賛意を示す。そんな時代だからこそ、こんな結論が導かれた。
日本郵政グループが、2020年10月の最高裁判決で「正社員と非正社員の待遇に不合理な格差がある」と認定された労働条件について、格差を縮める見直しを労働組合に提案したことがわかった。正社員の休暇を減らす内容が含まれており、労組側には反対意見がある。
会社側が見直しを提案したのは、夏期・冬期の有給休暇、年始(1月2~3日)の祝日給、有給の病気休暇の3点。夏冬の有休は現在、郵便業務につく正社員で夏と冬に3日ずつ、アソシエイト社員(期間雇用から無期雇用に切り替えられた社員)で1日ずつだが、期間雇用社員はゼロ。会社提案は、期間雇用社員に夏冬1日ずつ与える一方、正社員は2日ずつに減らす内容で、正社員にとっては不利益な変更になる。
朝日新聞「『正社員の休暇減らす』日本郵政、待遇格差認定の判決受け提案」(2022年1月6日)より引用
「正社員の待遇を、非正社員並みに下げます」
正社員と非正社員の待遇格差があることを批判され、ついには最高裁判決によってその是正を求められてきた日本郵政は、こともあろうに「正社員の待遇を非正社員に近づける(下方修正する)」ことによってその格差を「是正」しようと提案した。
これには少なからず疑問や批判の声が寄せられた。たしかに、これはこれで、不合理な格差を埋める「フェア」な施策であるというわけだが、求められていたのは「非正社員の待遇を正社員並みに近づけること」であるだろう。
しかしながら、日本郵政側がそれを理解していなかったわけではない。もちろん、なにかの気の迷いによって、本末転倒な解決案を出してきたわけでもない。むしろ、これこそが現代社会の時代精神を反映したある種の「総意」であると考えたからこそ、労働組合に対してこの案を堂々と提起したのである。
「若者にとって年収400万円は高給取り」
この社会では「きっといつか、自分も(あの人たちのように)いい暮らしができるようになる」という物語にリアリティを感じることができない人がどんどん増えている。
今年、賃金が上がると思うかNHKの世論調査で聞いたところ「上がる」と答えた人が21%、「上がらない」と答えた人が72%でした。
NHK「ことし賃金は『上がる』21% 『上がらない』72% NHK世論調査」(2022年1月12日)より引用
自分の人生も暮らし向きも上向かず、いつまでも現状がくすぶったまま維持され、低空飛行を続けていくことなる――という閉塞的な未来のビジョンの方が、現代社会ではよほど想像することがたやすい。とくにそれは若者層に顕著になっている。先日にもツイッターでは「若者にとって年収400万円は高給取りとみなされている」とするツイートが大きな波紋を呼んだ。
今日の若者たちにとってみれば「年収400万円は高給取り」というのはまったく冗談ではない。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によれば、20代前半の男性の年収の平均値は210万円、20代後半でも250万円あまりだ。年収300万円が現実的な数字となってくるのは30代からになる。2000年代初頭には「年収300万円でどう生きていくか」といった本が売れていたが、当世においては「年収200万円でどうしのぐか」の方がより現実味を帯びている。
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「今日よりも明日がいい日になる」
「来年は今年よりも給料が大幅に上がっている」
「ボーナスをあてにして大きな買い物ができる」
ひと昔前の時代であれば、とくに違和感なく受け入れられてきたこうした一般的な感覚が、現代社会の働き盛りの人びとにとってはそうではない。本当にそのような時代が実在していたのか疑わしい、さながら異世界や別の世界線にある日本社会を語っているかのような感覚に陥ってしまう。