内部告発者の特定禁止に伴う影響 – 山口利昭

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1月11日の日経朝刊「法税務面」に、「2022年法律・ルールはこう変わる-公益通報者保護法【告発者探し】を禁止」なる見出しで、6月から施行される改正公益通報者保護法の実務面での影響が紹介されていました。「事業者は体制づくりだけでなく、担当者への適切な研修など、実効性を高める必要がある」と有識者の方がコメントされていますが、まさにその通りです。いや、そもそも「担当者」になる人はいるのだろうか・・・との懸念さえ抱いております。

先日もリスクコンサルタント会社の方からご相談を受けましたが、公益通報への対応業務従事者となる人は、対応業務を終えた後(つまり担当を外れた後)も守秘義務が解除されませんので、かなり長期間にわたり、犯罪行為に手を染めないように注意しなければならない、ということです。だからこそ研修はきちんと受講する必要があります。

事業者の中には、対応業務従事者となったとしても「通報者を特定できる情報」を故意に漏えいすることなどありえないから大丈夫、と思っておられるかもしれません。また刑事罰といっても30万円以下の罰金ということなので、そもそも立件される可能性も乏しいとも思えます。

しかし、対応業務従事者を立件するのは「懲らしめ」ではなく、犯人捜しの首謀者である上司(経営者含む)を教唆犯もしくは共同正犯として立件するために活用することは十分あり得ます(正直に供述すれば、上司の立件に必要な証拠が収集できますので、その時点で対応業務従事者は不起訴となるようなケース)。また、そもそも公益通報をする社員は、義憤にかられた勇気のある社員である確率が高いので、「対応業務従事者だった〇〇さんはけしからん!」ということで告訴・告発に踏み切ることも十分予想されます。つまり、検察は嫌でも立件に動かざるを得ない場面も想定できます。

事業者は「あなたが改正公益通報者保護法上の対応業務従事者だ」と指定する必要がありますので、指定された方は、身に降りかかるかもしれないリスクを十分認識しておく必要があります。毎度申し上げるとおり、通報者を特定する情報が社内で漏れた場合(もしくは噂されている場合)、通報者は「誰かが情報を漏らした」と考えます(実際には通報前の言動から噂が広まるケースもありますが)。その矛先が対応業務従事者に向けられることもありますので(私も過去に苦労しました・・・)、たとえ本人が注意をしていても犯人扱いされるリスクもあることまで、研修で理解しておくべきと考えます。

事業者は、対応業務従事者(過去に対応業務従事者であった社員も含めて)を全力で守ってあげていただきたいと切に願います。

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