江戸っ子はヌキ実(殻を除いた実)を製粉した白い蕎麦「あく抜き蕎麦」をその汁で食べるのが粋だったそうです。
江戸っ子はヌキ実(殻を除いた実)を製粉した白い蕎麦「あく抜き蕎麦」をその汁で食べるのが粋だったそうです。
以前、「酒と梅干と鰹節で作るうまい調味料」という記事で、江戸の頃まで醤油は庶民にとって大変貴重な物だったということを書きました。醤油の代わりとして酒と梅干と鰹節を使って作る煎酒を使っていたのです。
そして、蕎麦を食べるときには、現在の醤油をベースにして作るめんつゆではなく、味噌から作る汁で食べていたそうです。
今回はその味噌を使った汁を作ってみます。
※2010年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
その名を「煮貫(にぬき)」と言います
現代において蕎麦を食べる汁というと、醤油と砂糖、味醂などを使って作るかえしを出汁で割った醤油味の「めんつゆ」で食べるのが普通です。うどんも醤油から作る汁で食べるのが一般的。
しかし、江戸初期までは蕎麦もうどんも味噌から作る汁で食べるのが一般的だったそうです。その味噌から作る汁は、「たれみそ」または「煮貫」と言います。今回は「煮貫」の方を作ってみることにしました。
「たれみそ」、「煮貫」の作り方に関しては、江戸初期に書かれた料理本「料理物語」中に記述があります。「たれみそ」は「みそ一升に水三升五合入せんじ三升ほどになりたる時ふくろに入たれ申候也」とあります。
「煮貫」はまず「なまだれ」を作ります。「なまだれ」は「味噌一升に水三升入もみたてふくろにてたれ申候也」と書かれています。そして「煮貫」は「なまだれにかつほを入せんじこしたるもの也」と書かれています。
味噌を3倍ぐらいの水で溶かして漉したら鰹節を入れて煮て漉せということですね。ではやっていきましょう。
まずは味噌を水に溶かします。使う味噌はなんでもいいようです。多分。今回はより醤油のような濃い味で、コクを出すことを狙って八丁味噌を使ってみました。
味噌が水に溶けたら漉します。さらし布をボールの上に広げたら流して入れて絞る。
漉して出てきた物が「なまだれ」になります。
八丁味噌を使った為か、出てきた汁は黒くほぼ醤油に見えます。舐めてみると、かなり塩気の強い味噌味。醤油とは少し異なります。味は単調ですが、これでもめんつゆとして使えるでしょう。
続いてこれに鰹節を入れて煮ます。
鰹節を入れる量は適当です。お好みの量でどうぞ。少し多めの方が味や香りが良くなる……と、思います。
こうして出来上がった「煮貫」がこちら。
出来上がった煮貫は「なまだれ」と同じく醤油のような色です。「なまだれ」の状態から見た目の変化は無い。
舐めてみると鰹ダシの香りと旨みがあって、醤油ベースのめんつゆにかなり近い味がします。よくある市販のめんつゆよりも当りが柔らかく、マイルドな味わい。そして後味に少し味噌の風味を感じます。
では、これで蕎麦を食べてみましょう。
色が醤油に近いので、器に入れると更にめんつゆに見えます。醤油ベースのめんつゆに近い味ではありますが、その香りも味も何処か違います。やはりほんのりと味噌を感じる。食べ慣れていない感覚に最初少し違和感がありました。
しかし、醤油のめんつゆよりも穏やかな味が蕎麦の味を邪魔せず丁度いい。ほんのりと感じる味噌の味も予想以上に蕎麦に合う。とても旨い!これからは、蕎麦にあわせて醤油ベースか味噌ベースかめんつゆを選びたいです。
市販品もあります
今回作った煮貫。味噌を水に溶いて絞って鰹節を入れて煮て再び搾ると、作るのはとても簡単です。それでいて醤油ベースのめんつゆとはまた違った旨さがあります。是非一度試して頂きたい。
ただ、煎酒の時と同様の難点があります。
普通のめんつゆよりもかなり高くつく。
ということです。
煎酒のように酒を使わない分、まだその差は小さいです。安売りの味噌を使って沢山つくればより差は縮まるでしょう。しかし、そこは手づくりということで目をつぶるとして。気分を変えて特別な時にでも作って楽しんでください。いつもの蕎麦が違った物に見えてくる……かも。