メットライフドームが野球場からボールパークへ–照明一新で広がる楽しみ方

CNET Japan

 プロ野球西武ライオンズの本拠地である埼玉県所沢市のメットライフドーム。1979年に西武ライオンズ球場として開業。その後、1999年にドーム化を行い、西武ドームに改称。2017年より、ネーミングライツによりメットライフドームとなっている。2017年12月より、メットライフドームエリア全体の改修計画がスタート。2021年3月、総工費180億円をかけたその改修工事が竣工した。


所沢市にあるメットライフドーム。1979年より埼玉西武ライオンズの本拠地として長く県民やファンから愛されている球場だ

 近年、スタジアムは野球だけでなくライブイベントも開催されるなど、さまざまな用途で使われている。実際にメットライフドームでも2012〜2019年に「ももいろクローバーZ」がコンサートやイベントを開催している。このため、老朽化の解消だけではなく、多彩なイベントに対応できるエンターテインメントスペースとして生まれ変わるスタジアムが増えているのだ。

 西武ライオンズ ビジネス開発部部長の加藤大作氏によると、この改修計画には「開放感のある自然共生型のボールパーク化とチーム育成の強化という2つの目的がある」という。


改修計画はシーズンオフを中心に3期に分けて行われた。照明のLED化は第2期に。ビジョンの大型化や音響設備、サイネージの工事は3期に行われた

西武ライオンズ ビジネス開発部部長の加藤大作氏

 それに加えて、あらゆる世代のお客様が楽しめる新しい「価値の提供」も目的としている。その1つの例が、座席の改修だ。通常のシート以外に、ネット裏
パーティーテラスやプレミアムシートを用意するなど、多様な観戦スタイルを提供するためシートタイプを、従来の14種類から倍となる28種類に増やした。これにより、増加傾向にあるという女性グループや家族連れがより安心して野球が楽しめるというわけだ。


観客席は第2期と第3期に分けて順番に改修された。写真は21年3月から稼働しているネット裏パーティーテラス。6、7、8名席を用意

 また、空調を完備し、バッターボックスのすぐ後ろから観戦できる「アメリカンエキスプレスプレミアムラウンジ」も新設。ビュッフェやバーも提供されており、ワンランク上の体験ができる。

 改修内容は座席の改修から、場内を拡大して屋根の外側に商業施設「獅子ビル」や大型グッズ売店「フラッグス」、飲食売店「クラフトビアーズ」などを作るといった環境整備など多岐に渡る。加藤氏は「屋根の外側エリアを充実させることで、観客席以外の場所を回遊している時間も楽しんでもらえる新しい価値を提供している」とポイントを話す。


家族連れのために、ドーム外側のトレイン広場なども改修された

照明と音響により球場体験をより豊かに

 このメットライフドームの改修計画の中でパナソニックが担当したのがドーム内照明のLED化とそれに連動した音響設備、バックスクリーン上のビジョンなどの映像設備と、それらを総合した演出だ。メットライフドームには新たに、フィールド照明用投光器508台、空間照明用投光器40台、そしてビクトリーロード演出用照明4台が設置されている。


ドーム内照明のLED化を始め、映像、音響などのコントロールまでを一括してパナソニックが担当した

 今回採用したのは、昼光色5600Kで、明るさは7万lmの「4K8K放送対応のスタジオビームLED投光器1kW型」。スーパースロー撮影にも対応しており、テレビ中継でもちらつき(フリッカー)を抑え、0~100%のDMX制御にも対応するLED投光器だ。

 この照明器具に関してパナソニック エレクトリックワークス社エンジニアリングセンター専門市場エンジニアリング部スポーツ照明課の北本博之氏は「特徴は大きく2つ。1つはこれまでの照明よりも色の再現範囲が格段と広がるため、ハイビジョン放送から4K8K放送まで、次世代放送対応した高品質な映像がお届けできること。そして2つ目がDMX制御に対応していること。これまでの野球場やスタジアムは競技用照明とは別に演出要設備が必要だった。しかし、この照明器具は競技用照明として使いながら、演出照明としてお客様を盛り上げることができる」と語る。


パナソニック エレクトリックワークス社 ライティング事業部 エンジニアリングセンター 専門市場エンジニアリング部 スポーツ照明課の北本博之氏

天井に取り付けられた508台のフィールド照明用のLED投光器

 このDMX制御演出とは、舞台演出などにも使われる共通のプロトコルで、照明1つ1つにアドレスをもたせることで1台ずつ制御することが可能。一瞬でオンオフができるLEDの特性を利用し、さまざまな演出ができるというわけだ。メットライフドームでは、すでに複数の照明パターンを作りこみ、システムに組み込むことで、ホームランシーンや勝利が確定したときなどに、ワンタッチで再生できるようになっている。


LED投光器の詳細仕様

 さらにスタジアム照明として重要なのが、フィールドから見たときにまぶしくないこと。そこで、1灯1灯の照射範囲を狭くすることで光が固まってまぶしくなるグレア源を分散。照明がまぶしくてボールが見えにくいといったトラブルが防げるという。このまぶしさ軽減のために、パナソニックでは、3DCGシミュレーションができる独自ソフト「LP-VR」を使って、バーチャル空間で事前にまぶしさを検証。設置後に選手やチーム関係者の確認を経てOKに至ったそうだ。


バーチャル環境でまぶしさを検証したあとで実際に導入するため、現場での導入がスムーズに進む

 今回の改修ではドーム内の照明だけでなく、バックスクリーン上のメインビジョンも従来の横長のものから、高さ13m、横幅46mの「Lビジョン」へと大型化。これによって選手情報やリプレイ映像などを大きく写しだせるようになった。また、外野席から見えるサブビジョンや3塁側コンコースに新設されたDAZNデッキにもDAZNデッキビジョンが新設されるなど、ドームエリア内のどこにいても試合が楽しめるようになっている。


第3期工事で導入された大型のメインビジョン。さまざまな情報が表示できる

 新たな音響設備の導入もエンターテインメント空間の構築に重要な要素だ。改修前はビジョン左右に設置された6台のスピーカーで運用していたが、座席によっては音が遅れたり、音圧が低く聞き取りにくい状況だった。そこで、ドーム全体にボーズ製のスピーカーを223台配置することで、音響を大幅に改善した。

 照明、ビジョン、音響、そして施設内のサイネージはすべて放送室(コントロールルーム)内の総合演出システムによって管理できる仕組み。1クリックで、ビジョン、音響、照明、サイネージが連動する演出ができるようになっている。


映像や照明、音響などを管理するバックネット裏のコントロールルーム。複数のスタッフで制御している

バッターボックスに立って選手視点で明るさを体験

 今回の体験会では選手の気持ちになって実際にフィールドに入ることができただけでなく、バッターボックスに立って見ることができた。バッターボックスから実際に外野や観客席、そして照明を見てみたが、光が柔らかく、十分な明るさはあるのにまぶしさはそれ程感じなかった。


フィールドから見上げたところ。照明1つ1つが適度に光っていて、光が重なっていないのがわかる

 ファールやヒット、ホームランを打つと各ビジョン、サイネージにそれらのCGエフェクトが表示される体験もできた。ホームランを打った打者がダイヤモンドを一周するのに合わせて、照明が反時計回りに回る演出も用意されていた。映像と照明そして音響を組み合わせによりドーム内を一体化して盛り上げてくれた。

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 古いイメージの野球場からベースボールパークへ。約3年3カ月の長期間をかけたメットライフドームエリアの改修工事が完了した。お客様からは「音響が良くなった」という声や、スターティングメンバーの発表、ホームラン演出に好意的な声が多数寄せられているという。また、社内からは、演出の迫力や一体感の醸成に寄与していると、総合演出システムが評価されている。


スタジアム内売店のサイネージもホームランの表示に

 照明はLED化によって台数が648台から548台へと15%削減。年間の電気代は4470万円から1800万円へと約60%の削減を実現している。さらにLEDの省メンテナンス性により、ランニングコストも大幅に下がっているのだ。

 メットライフドームは、野球はもちろんのことコンサートなどのイベントをにも対応できる、多目的エンターテイメント空間へと生まれ変わった。

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